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第15話 国王陛下と悪魔の砂糖水。強炭酸コーラが軍事用ポーションに認定された件と、メイド服の修羅場

建国記念学園祭の熱気は、昼を過ぎてさらにピークへと達していた。


僕たちSクラスが運営する模擬店『悪魔の美食』の前には、王都の貴族や一般市民が入り乱れた、異常なまでの大行列が形成されている。


「お待たせいたしました、ご主人様!」


「こちらの黒いお飲み物は、炭酸が弾けますのでお気をつけくださいませ」


「はいお待ち!お肉たっぷりハンバーガーセットだよ!」


シャルロット、ベアトリス、リズの三人が、僕のデザインしたメイド服姿で完璧な接客をこなしている。

王国の至宝たる三人の美少女が、愛らしいフリルを揺らして笑顔を振りまくのだ。


それだけでも恐ろしい集客力だが、彼らの目的はそれだけではない。

鉄板で焼かれる魔獣肉のパティと、高温の油で揚げられたポテトの暴力的な匂いが、彼らの胃袋と理性を完全に支配していたのである。


「う、美味すぎる……!なんだこの柔らかいパンと肉汁のハーモニーは!」


「塩の効いた芋が止まらん!そしてこの黒い飲み物……パチパチと口の中で弾けて、悪魔のように美味いぞ!」


境内のあちこちで、ハンバーガーとコーラを初体験した異世界人たちが、感極まって涙を流したり、天を仰いだりしている。


僕は厨房の奥で【物質合成アプリ】と【炭酸付与アプリ】をフル稼働させながら、現代の食品工学の恐ろしさに改めて戦慄していた。


そんな狂乱の大行列の中に、見覚えのある立派な髭を生やした、恰幅の良い中年男性の姿があった。

目立たない平民のローブを深く被っているが、その横に控える鋭い眼光の初老の男を見れば、正体は一目瞭然だった。


「おや、あちらのお客様は……」


接客中だったシャルロットが、その二人組を見て目を丸くした。

中年男性はシャルロットに向かってパチンと大げさなウインクをし、人差し指を口元に当てて「内緒だぞ」というジェスチャーをした。


「……お父様ったら。こんなところまでお忍びでいらっしゃるなんて」


シャルロットが小さくため息をつきながらも、嬉しそうにハンバーガーとコーラのセットを二人組の席へ運んでいった。


そう、国王陛下と筆頭宰相である。


盤上遊戯ですっかり僕のチート能力の虜になっている国王が、学園祭の噂を聞きつけて黙っているはずがなかったのだ。


「おお、これが噂の悪魔の美食か。平民の食べ物のように手掴みでいくのだな。どれ……ガブリ」


国王が大きな口を開けて、ハンバーガーにかぶりついた。

その瞬間。


国王の瞳孔が限界まで開き、ローブの奥で全身の筋肉が硬直するのが見えた。


「へ、陛下!?いかがなされました、毒でも入って……!」



「……美味い」


宰相の焦りを遮り、国王が震える声で呟いた。


「なんという計算し尽くされた味だ!肉の強烈な旨味を、この柔らかいパンが見事に受け止めている!それにこの塩気のある芋……これだけでワインが樽ごと空けられそうだぞ!」


国王は完全に王としての威厳を投げ捨て、子供のように夢中でハンバーガーとポテトを貪り食った。


そして、トレイの上に置かれた黒い液体の入ったグラス──コーラを手に取った。


「して、シャルロットよ。この毒々しい黒い飲み物はなんだ?」


「『コーラ』というお飲み物ですわ。アレン様が開発された、極秘のレシピで作られておりますの」


シャルロットが自慢げに胸を張る。

国王は「アレン殿が」と聞いて深く頷き、コーラを一気に喉に流し込んだ。


「ごふっ!?な、なななっ!?」


国王が突然グラスをテーブルに置き、喉を押さえてむせ返った。

宰相が血相を変えて立ち上がる。


「陛下!やはり毒が!」


「違う、黙らぬか!……おおおっ!なんだ、なんだこの脳天を突き抜けるような刺激は!」


国王が顔を真っ赤にして立ち上がり、両手を天高く突き上げた。


「口の中で無数の雷が弾けるような衝撃!そして喉を通り抜けた後の、この圧倒的な爽快感!長年の政務で蓄積した疲労が、一瞬にして吹き飛んでいくようだ!魔力すらも活性化している気がするぞ!」


(いや、それただの炭酸と大量の砂糖とカフェインによる血糖値の急上昇だから)


僕は厨房からツッコミを入れたいが、声には出せない。


「陛下、まさかこれは……伝説の覚醒薬……!」


「うむ!これほどの刺激と覚醒作用、ただの飲み物であるはずがない!さすがは我が王国の至宝、アレン・ログレーだ!」


国王が興奮のあまりローブを脱ぎ捨て、隠密行動を完全に忘れて大声で叫んだ。


「余は決めたぞ!この『コーラ』なる霊薬を、我が国の騎士団の『戦闘用ポーション』として正式に軍へ採用する!アレン殿、すぐに王城の魔導工房で量産体制に入ってくれ!」


「……はあ!?」


僕は持っていたフライ返しを落としそうになった。

ただのジャンクな砂糖水が、異世界の軍隊の公式ポーションに認定されてしまったのだ。


スローライフどころか、軍需産業のトップに立たされようとしている。

僕が絶望で頭を抱えていると、厨房にシャルロットが飛び込んできた。


「アレン様!お聞きになりましたか、お父様が大絶賛ですわ!」


シャルロットは満面の笑みで僕の腕に抱きつき、フリルたっぷりのメイド服の胸元を押し当ててきた。


「私の見込んだ未来の旦那様は、やはり世界一ですわ!さあ、お疲れのアレン様には、私がご褒美に『あーん』してポテトを食べさせて差し上げますわよ!」


シャルロットが甘ったるい声でポテトをつまみ、僕の口元へ持ってくる。

王女直々のメイド姿での『あーん』という、全男子生徒が血の涙を流して嫉妬するであろう夢のシチュエーション。


僕の理性が限界を迎えそうになった、その時だった。


「ちょっとシャルロット!お父様の前だからって、抜け駆けは禁止って言ったでしょ!」


厨房の奥から、リズが物凄い勢いで飛び出してきた。


「そうですわ!アレン様にポテトを食べさせてあげるのは、このベアトリスの役目です!ほらアレン様、私のは特別にお塩を多めにしておきましたわよ!」


ベアトリスもクラシカルメイド服のスリットから艶かしい足を見せつけながら、僕の逆の腕に抱きついてくる。


「も、もう!アレンの隣は私の指定席なの!アレン、ほら、口開けて!」


「あら、リズさん。先日のヒロイン協定をお忘れですか?正妻の座は譲りますが、アレン様への愛の表現は自由なはずですわよ!」


「ええ、アレン様には三人平等に愛していただかなくては。さあ、私のも食べてくださいませ!」


右からリズ、左からシャルロット、背中からベアトリス。

三人の絶世のメイド美少女に完全に包囲され、口元には三方向からフライドポテトが突きつけられている。


「おい見ろよ、あの成り上がり野郎……王女殿下たちをメイドにして侍らせてるぞ!」


「許せねえ……俺もコーラ飲みたいけど、あいつだけは許せねえ!」


行列に並ぶ男子生徒たちから、今までで最大級の怨念と殺意の視線が突き刺さってくる。

その光景を見ていた国王は、豪快に笑い声を上げていた。


「はっはっは!若者の特権だな!アレン殿、我が娘のメイド姿は気に入ったか!いっそこのまま、三人まとめて娶ってしまえ!」


「お父様ったら、気が早いですわ!」


シャルロットが頬を真っ赤にして僕の腕にさらに顔を埋める。

リズとベアトリスも、満更でもない顔で僕を見つめている。


国王公認。


軍事産業への参入。


そして、逃げ場のない最強のメイドハーレム。


「……誰か、僕を辺境の森に返してくれ」


僕はコーラの入ったグラスを煽りながら、パチパチと弾ける炭酸の刺激と共に、遠く彼方へ消え去っていく平穏なスローライフに涙するしかなかった。


かくして、王立魔法学園の学園祭は、Sクラスの圧倒的な売上トップと、僕の貞操の危機という大波乱と共に幕を閉じたのである。

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