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俺と幼女は
信玄公の墓前にいる。
正確には、武田一門の墓前だろうか。存在感を放つ大きな二つの墓石、左右にはそれを守護するように30程の小さな墓石が建てられている。見た感じ、全て武田の一門のもののようだ。
綺麗な庭を見るために来たし、その庭はしっかりと見ることが出来てとても良かったのだが、パンフレットで何と武田信玄公の墓があると知ってかなり驚いた。何時だったか岡山で山中鹿之介の墓を参ってから、やけにこういうのに縁がある気がする。
まぁ、特に忌避することでもないしむしろ好きな武将の一人なので、地図の案内通りに来てみた。夕方の時刻であることも合わさって、かなり荘厳な雰囲気を曝け出している。幼女も口を開けて感動しているようだ。
武田氏
現在の山梨県を中心に強勢を誇った家。軍神上杉謙信率いる上杉氏と武を競い、第六天魔王織田信長に挑み、かの神君徳川家康を最も追い詰めた一族。そして、最後は積み重ねた負債を全て清算する形で滅亡した一族。
末期が悲惨であると言うものはいるだろう。自業自得と言うものもいるだろう。だがいかなることがあろうとも、そこに至るまでの道程すべてが否定されるわけではない。彼等彼女らが積み上げた歴史は、確かに歴史として残っている。その事は、誰にも覆すことはできない。
俺は他人の墓に手を合わせない。何となく、余計なものを連れて行ってしまう気がするからだ。
だけど、今俺は手を合わせている。
山中鹿之介の時もそうだった。ただ見るだけのつもりだった。それが目の前に来たら、いつの間にやら近くで安酒買って供えて、挙句の果てに手を合わせてた。
何でなんだろうな。
幼女よ。お前なら何か分かるのか?
手を合わせた時間は、そんなに長くない。念仏を唱える訳でもなく、ただ無心で手を合わせた。そのことに意味があるとは思わない。
でも、何でだろうな。後悔だけはないんだ。
そうか、別に悪いことではないか。
ああ、そうか。むしろ、良いことだと笑ってくれるか。
なら、それでいいか。
……ちょっと、しんみりしたな。こう静かなとこだとついついセンチになっちまう。行くぞ、幼女よ。おう、バイバイも悪くないが、ここは一礼するのが、大人っぽくて良いかもな。うん、綺麗な礼だ。エライぞ。
じゃあ、行くか。
余談として、その後改めてパンフレットを見て、信玄公の墓所は毎月12日に特別公開されていることを知り、公の墓のすぐ横に墓は置かれていないことも知った。
そのことに気づいて青くなった俺の頭を、幼女は優しく撫でてくれるのだった。




