海底パイプライン(四百九十七)
「で、どうすんの? ここに突っ立っててもしょうがないべぇ?」「そうだよ。これじゃションベンも出来ねぇ」「あっ俺もしたい」
言われた勅使河原が笑った。ちゃっかり雨が当たらない壁際を確保しやがって。まぁ、一番最初に梯子を上がったからな。
現状を訴えている奴らは皆男である。だからその気になれば、立ったままナニを何とかして捻り出せば『用を足す』ことは可能。
が、しかし、雨が降っているが故、ナニのサイズが変更となってしまう可能性が捨てきれない。雨を避けながら、必死になっているシーンは、無関係な立場であれば面白いかもしれないが、当事者にしてみればいい迷惑以外のナニものでもない。御免蒙る。
「じゃぁ上に行きますか」「俺が行く」「俺が先だ!」「おいおい」
勅使河原が上を指す。良く見れば後ろに梯子があるではないか。
当然のように梯子を取り合う男達。勅使河原が『おっとっと』となるが、それも予想していたのか中心へ中心へである。
「まぁ待て。俺じゃないと開けられないから」「ちっ番号は幾つだ」「教える訳ないだろw」「教えろよ」「ダメだって」「おい降りろ」「教えなきゃ、ここから撒き散らかすぞっ!」「引きずり降ろせ!」
良く見れば、梯子の上で喚くのは十三番。いや、今は顔が見えているから虎雄と判る。血の気が多いのか『ファイティングポーズ』を取るが、所詮片手である。あっという間に引き摺り降ろされた。
そして何事もなかったように勅使河原が上って行く。
『ピポパピッ』「ほら開いたぞ。じゃぁお先に」「汚ねぇぞっ!」
誰もが思っただろう。『汚ねぇのはお前の根性だろうが』と。
そして股間のことに触れないのは、目に見えた変化がないから。
しかし『心からの本気』を目で訴えれば、皆だって鬼じゃない。ほら、虎雄に先を譲ったではないか。昨日から何飲んだんだか。
「お前は何やってんだ?」「うっ!」「馬鹿。あぶねぇぞ?」
その頃四平は『チャレンジ』していた。今の叫びは何だろう。
まぁ馬鹿はほっといて、上の階にカメラを移動させようか。モザイクから引きになって、塔の全体像が明らかになる。それはまるで『UFO』が着陸したような。いやUFOそのものではないか。
然るべきときが来たら、本当に飛びそうに見える。だからもっと陸に近ければ『観光名所』となっていただろう。窓からの景色は悪天候も重なって、余りよろしくない。
黒田は素早く東西を見た。両方に陸地あり。つまりまだ東京湾の中か。横浜辺りかもしれないが、ビルが小さくて良く判らん。
「所で『酸素ボンベ』は、全員カットしているんだろうな?」
今更何を言う。そんなの『初めて』なんだから、やっている訳が無かろう。それが只乃川原以外の純然たる思いだ。
それでも全員が、落ち着いた様子でボンベのバルブを操作している。ある者は勅使河原に背を向けて。またある者は人影に隠れて。
耳の良いものは、トイレの中でだって同じく。『手を洗うのとどっちが先か』と聞かれれば、当然『バルブ』と答えるだろう。
手なんか洗わなくたって死にはしない。
「ふう。スッキリした」「おい、バルブ閉めたか?」「バイブ?」
虎雄は職業柄下ネタが好きらしい。例えそれが『目的外使用』であっても。しかし当然、黒田達に通じる訳もなくゲンコツを食らう。
「もう一人の馬鹿は?」「あぁ四平なら個室の方に入りましたよ?」
全員が顔を見合わせた。誰が『警告』に行くべきか。判断に迷う。




