海底パイプライン(四百九十五)
「そろそろ時間だな」「まだ良いじゃない」「飲み屋じゃネェから」
勅使河原と黒田の会話だ。ちょっと勅使河原の言い方がオネェっぽかったのが笑えない。ドスの効いた声で言われても。ねぇ。
勅使河原も時計を見た。そして自分のボンベも確認。確かに黒田が言う通り『時間』と言えなくもない感じだ。黒田の肩を叩く。
「じゃぁ戻るか」「間に合わないだろ」「いや違うからw」
もう一度肩を叩かれて、それが『落ち着け』に思えた。
黒田も時間管理はキッチリしている方だ。そして計算が早い。瞬時に『スタート地点には戻れない』ことを見抜き、そして『そうではない』ことも理解した。ずっと図面を見て来た黒田が言うのもなんだが、何処に行こうとしているのだろうか。
「こっちだ。回収しながら行くぞ」「判った。それもそうだな」
振り返れば点々と見える。作業をしている火花が。そこには仲間がいる訳で、『先に行って一休み』てな訳にも行くまい。最後尾の者はボンベの酸素が無くなってしまうわ。モノレールは後退する。
『ジジジジッ』「休憩だ。乗れ」「もうちょっと」「じゃぁ一分やる」「はい」「それ以上はダメだぞ」「解ってます」『ジジジジッ』
今の声。黒山か。奴なら大丈夫だろう。軍を退役して、今はブラック・ゼロの『若者教育係』だ。一分と言ったら一分で切り上げる。
時計合わせこそしなかったが、黒山が時計を見たのを確認してモノレールは走り始めた。そして直ぐに止まる。
『ジジッ』「あっちきしょう」「休憩だ。乗れ」「やった!」
何だ。こんな所にいたのか。十三番と四番の死神コンビめ。
黒田は番号を確認すると、自分で『乗れ』と言ったはずなのにモノレールを走らせ始める。慌てたのは虎雄と四平の二人だ。
「何で行こうとしてるんですかぁ」「ちゃんと仕上げてから来い」「仕上げましたって」「ほう。何番やってたんだ?」「えーっと、この辺のです」「お前、覚えてもいないのかっ!」「えぇえぇ、指示した方が覚えてるモンじゃないんですか?」「馬鹿たれがっ! そぉんな仕事があるかっ! 顔洗って出直して来いっ!」「じゃぁ、顔洗って来ますので。よいしょっと」「コラッ! 降りろ降りろ!」
同じ形のヘルメットを被っているので見分けが付かないが、声の調子で『爺さんと孫の喧嘩』とも思える。聞かされている勅使河原の身にも、なってみろってってんだ。全く。
当然黒田は、台帳に『OKマーク』を付けない。後で黒木に言って、確認させるしかないだろう。と、そこへ黒山が合流。
ほら、ちゃんと一分で戻って来たではないか。仕事ってこうよ。
「どうしたんですか?」「コイツ等休憩だけは一丁前で、中途半端な仕事しかしねぇから、言ってやってたんだ」「あぁ成程ね」「だって黒田さんがぁ」「そうだそうだ」「いやいや君達の言い分も判る」
流石に『じじぃ』と呼んで殺され掛けただけあって、ちゃんと『さん付け』なのが立派だ。だから黒山は優しく微笑む。見えんけど。
「こうやって『社会インフラを支える仕事をしているんだ』ってのを、誇りに思ってやると良いよ。やりたくてもやれないんだから」
口八丁にしては良い言葉かもしれない。誰しも仕事に対し、何らかの『誇り』は必要である。他人に誇れない仕事なんて、そんなの『金を貰うけどただの仕事』じゃないか。洒落にしかなってない。
「俺は別に、金貰えれば良いんで」「貰えないことの方が多くて」




