海底パイプライン(四百六十七)
『ゴォオォオォッ』『キキッ』「ダメだ。これは渡れそうにないね」
橋の大分手前でトラックが止まった。川までと言うか、この辺の水辺は運河なのだが、見た目は川と同義だ。既に濁流が。
「ダダダッと行けば、渡れるんじゃないか?」「いやしかしぃ……」
黒沢のジャッジが『甘い』と思ったのか黒田が提案。黒沢は言葉を濁し、親指で後ろを指さしていた。黒田も釣られて振り返る。
「大丈夫だろ」「いや溶けちまうだろぉ」「オイオイオイッ!」
ニッコリ笑って言うモンだから、目が合った奴が詰め寄って来る。
そりゃね、キャビンの中はまだマシかもしれないが、荷台の者は水を被る可能性大。現場が一番良く見える立場なのだから、良く見ての判断と発言を願おう。ハイ。もう一度良く見て。
「見てよ。まだ橋ありそうじゃね?」「いつ崩れるかもだけどなぁ」
黒田が指さした先。濁流が何故かこんもりとしている。
細かいことは分からないが、経験からして『何かある』のは判るし、何かとは川なのだから『橋』との理論も成り立つ。そして轟音で良く聞こえないが、今の所『橋が崩壊する音』は聞こえないし、『橋が崩壊する兆し』も、今の所感じないことにしている。
「ざーけんなジジィ!」「ふざけてなんか無いよぉ」「ふざけてんだろっ!」『ドンドンッ』「行くならテメェも窓開けろっ!」
身を乗り出し、助手席の窓を叩いているのは黒井だ。
「えぇえぇ。嫌だよぉ」「じゃぁ、俺が割ってやるよっ!」「ヤメロッ。家の車だぞっ! 勝手なことすんじゃねぇ!」「ウルセェ!」
虎雄も混ざって止めに掛かる。力で抑え込もうとするも、腕力では黒井の方が上か。ここでケツでも蹴っ飛ばせば、ガラスは守れるかもしれないが、虎雄がどうなるかの保証は無い。しかし何がムカつくって、四平がしれっとゲームを始めたことであろうか。
「何やってんだっ!」「何も?」「別の逃げ場は無いのかい?」
糞忙しいときに、呑気にゲームしている馬鹿の相手なんてする暇は無い。ここで実は『見ているのが地図』で、しかも『あっちに橋あるみたいですけど』とか発言すれば、まだ『ゲーム狂も捨てたもんじゃない』と思えるだろう。しかし画面を凝視するまでもなく、可愛い何かが画面一杯にある時点で『ハイ。ゲーム』である。
「向こうにパイプライン施設がある。そこへ向かおう」「んん?」
運転手側の窓を叩いたのは五所川原だ。黒沢が窓を開けた。
「そこは高台なのかい?」「あぁ。いや、どうかな?」「どっちだ」
一度頷いた五所川原が首を傾げた。黒沢は遠慮して控え目に突っ込む。首を絞めて吐かせようにも、出て来るのは『キラキラしたもの』だろうし、爪だって一枚づつ剥がすのには時間が足りない。
「少なくともハッチを閉めれば、水は来ないんじゃないかなぁ?」「それだ」「良し行こう」『ダイアキュート。ヨヨエー。ヨヨエー』
黒田と黒沢。そして四平も苦笑いで頷き合う。画面を手で隠してはいるが、音は指の隙間からダダ漏れである。何やってんの。
「アンタは橋渡って」『ヨヨエー』「行っても良いんだよ?」『ヨヨエー』「いや俺も行くよ。ハッチ」『ヨヨエー』「閉めればってことは」『ヨヨエー』「防水出来てるってことっしょ」『やった♪』
車内に静寂が訪れる。四平だけ苦笑いのまま出発を待つ。




