海底パイプライン(四百六十八)
『ブルンッ』「よし。じゃぁ、そのハッチって奴を拝みに行こうか」
カッコ良く決めたつもりだろうが、五所川原は首を傾げている。
「なっ。良いだろう?」「あぁ。ナビなら任せとけ」「さっすがぁ」
例えドライバーが黒沢であっても、行先を決めるのは長老か。黒田が勢い良く親指を突き立てている。
それを見た五所川原は、運転席に顔を半分突っ込んだ。
「場所知ってるのか?」「いいや?」「えっ?」「ナビは任せたw」
何だこの爺さん。陽気に笑いやがって。随分といい加減な奴だ。
しかし、このおばさんもおばさんだ。今のやり取りを完全にスルーして、運転に集中してやがる。しっかり掴まっていないと。
「場所は近いのか?」「近いっちゃ近い」「何処?」「越中島だ」「越中「越中島ぁ?」「何だよ」「ココより海の方じゃねぇか」
黒田が文句を言っている間も、黒沢は一応越中島へと向かっている。先ずは橋があることを祈ろう。そして濁流が来ないことを。
「仕方ないだろう? パイプラインがそこを通ってるんだからぁ」「だとしても『海へ逃げよう』ってのがよう判らん」「そんなこと言ったって」「どうする? 良いのか?」「あぁ。サーティーン・スリーレフト」「りょーかい」『キキキッ!』「おわっ! ととっ」
三十メートル先・九十度左。いつものナビが始まった。
目的地へ到達する地図が『コマ図』であるが故の指示なのだが、黒沢もその指示通りにハンドルを振り回す。何も知らされていない五所川原にしてみれば、ただの『乱暴運転』に他ならない。
危うく荷台から転げ落ちる所だったが、八百板屋に『これ幸い』とばかりに太ももを抱き締められセーフ。しかし想定と大分違ったらしい。後日『凄い筋肉だった』と報告があるだろう。
勿論五所川原から礼は無く、寧ろ無言のゲンコツが飛んで来る。
「本当は場所を知ってr」「フンッ!」「おわっ!」「大丈夫か?ねーちゃん」「あぁ」「落ちるなよ? パイプラインは判るw」
スイスイ走っているが、黒田も黒沢も下見なんてしていない。国土地理院が昔発行した地図を頼りにしているだけ。記憶を辿る。
そもそもアンダーグラウンドになってから、公式地図なんて更新されている訳が無い。何事も行ってみてのお楽しみだ。
「フォーティーン・ファイブレフト」『キキキィッ!』「さて。そろそろ越中島だが。おねーちゃん? あれ? おねーちゃんは?」「知らねぇなぁ。その辺で落ちたんじゃねぇか?」「しょうがねぇなぁ。今言ったばかりなのに」「コラ離せッ八百屋ッ! 落ちてネェからっ!」「隊長ぉ、俺のお陰だって言って下さいよぉ。そしたら離しますぅ」「気持ち悪い馬鹿っ! 大丈夫だから離せっ!」
どうやら八百板屋に抱き付かれ、照れているようだ。しかし八百板屋も八百板屋だ。省略形で呼ばれようが、頭を叩かれようが、太ももを両腕で囲い込むように抱き締めると、顔を臀部に埋めている。
気持ちは判らんでもないが、その状態で顔を左右に振るのは嫁さんを相手にしたときだけにすべきだろう。何? 未来の嫁だぁ?
「蹴り落とすぞっ!」「今日は安全靴じゃないですかぁ」「うわぁ」
流石の五所川原も『今の返し』は引いた。蹴りは中止だ。
「お巡りさんっ! 私のハイヒールを盗んだのは、コイツです!」「隊長、ハイヒールなんか、持ってたんですかぁ?」「悪いか!」
出た。長宗我部の無表情突っ込み。非常にムカつく奴。
「夢の中の話ですか?」「違うわっ」「夢で盗まれてもお巡りさんは来てくれませんよ?」「だから違うって!」「隊長のはね。赤!」




