海底パイプライン(四百六十九)
『バチンッ!』「見えるか。あそこだ」「見えません」『バンッ!』「紛らわしい奴め」「あれか?」「そうだ」「了解。掴まってな!」
五所川原は座りながら『膝蹴りにすれば良かった』と思っていた。
隣でヘラヘラしている八百板屋を、グッと睨み付けるも効果無し。
当然である。部下ではあるが、五所川原とは実力伯仲。訓練で五所川原と相対することが出来る、数少ない実力者なのだ。故に鋭い目つきなぞ見慣れている。寧ろご褒美。五所川原はムッとして視線を逸らせるしか。すると八百板屋が、突然立ち上がったではないか。
『バシャッ』「隊長危ないっ!」「とか何とか言って!」『ガッ!』
大きな水溜まりを走り抜けたが、思ったより浅かったらしい。
八百板屋にすれば『いつものフォロー』なのかもしれないが、五所川原の拳が腹にめり込んでいた。こちらは反射的にであろう。
「ツッ」「あぁあぁ。八百りん溶けちった」「大丈夫か? すまん。つい癖で」「今のはチョット来ましたね」「なむぅ」「おいコラ。溶けてないぞ」「何だ。チョットなら溶けても良かったのに」「どういうことですか。未来の旦那に対して」「いや知らねぇし。勝手に決めんな」「あれあれぇ? 良いんですか? 今度は寝技でハッスr」『ガッ!』『キキィッ』「おい着いたぞっ。どっから入る?」
今度は五所川原が立ち上がる。八百板屋は崩れ落ちながら太ももを狙うも、長宗我部にブロックされて荷台に転がった。
長宗我部も十分『可愛い部類』に入ると思うのだが、どうやら『隊長一筋』の決意は固いらしい。あぁ、そうですかそうですか。
と、そんなモンを信じてはいけない。如何にも『礼儀正しく一途で良い奴』に見えるが、実はそうでもない。只の打算だ。
単に、長宗我部は手加減というものを知らない。と、強く印象に残っているだけ。そりゃまぁ、指の四五本も折られりゃね。うん。
「この上だ」「あたしも行くぅ」「次は俺だ」「イテッ」「じゃぁその次」「イテッ。ちょっ。お前r」「早くしないと」「イテッ」
梯子の横にトラックを横付けしていた。もう五所川原は一番上に。
巨大な円筒形の『建物』と言うか『施設』だ。大きく『072』とだけ書かれているが、何を意味するかまでは判らない。
多分、誰かの生年月日なんじゃないかなぁ。と、予想してみる。
「お前らわざとだろっ!」「あっバレた?」「叩き落すぞゴラッ」「おぉおぉ? やるかぁ?」「イイネェ。どっちに賭ける?」「そりゃぁ軍曹に決まってんだろ」「俺も」「じゃぁ俺も」「待ってくれよ。俺だって軍曹に賭けるぞ」「おいおい。誰か変態兄ちゃんに賭ける奴は居ないのか?」「ハハハッ賭けになんねぇやなぁ」
立ち上がってファイティングポーズを取った八百板屋だが、何だか拍子抜けである。完全にやる気を削がれてしまった形に。
「おい変態兄ちゃん。何してる。早く上がって来いっ!」「へぇい」「アハハ。上司にまで言われてやんの」「ホラ。早く行ってやれ。変態兄ちゃん」「変態変態言うなっ! これは純然たる愛の形だ!」
梯子を譲りながら笑うだけで、誰も聞いちゃいない。
とそこへ、ブラック・ゼロの紅一点。黒沢が現れた。五所川原と見比べて皆思う。『コッチには絶対抱き付かねぇ。お断りだ』と。
『カチンッ』「スゥゥ。ハァアァッ。中じゃ、吸えないだろうしな」
勝手にタバコを咥え、勝手に火を点け、そして勝手に予想する。
常識から色々逸脱する点がある黒沢だが、パイプラインの中でタバコを吸えないことは理解しているようだ。しかし理解者は少ない。
「スゥゥ。ハァアァッ。何だよ。何ジロジロ見てんだ。やらねぇよ」




