海底パイプライン(四百六十六)
黒井を置いて行ったのには理由がある。濁流が迫っていたからだ。
トラックのキーを携えた黒沢がイの一番にダッシュ。後続を引き離しての一人旅。トラックに乗り込むと同時にエンジンを掛け、全員が乗る前に発進させていた。気持ちは判る。黒沢とて女の子。雨でお肌が焼かれるなんて、とても我慢ならぬのだろう。
「乗れ乗れっ!」「走りながらかYO!」「死にたくなかったら、サッサと乗りなぁ」「うわ。滅茶苦茶やぁ」「流石女番長っ!」
一応はゆっくりと走ってやっている。『戦場よりは』てなモンで。
しかし戦場で、トラックやら戦車に飛び乗ったことがない奴らは右往左往するばかり。五所川原達でさえそうだった。
トラックに飛び乗った奴が伸ばした手を掴み、やっと乗車。八百板屋と長宗我部も引っ張り上げられて安堵する。
虎雄はちょっと悲惨で、ちゃっかり助手席に飛び乗った四平に続こうとするも、黒田に引き剥がされた。運転手が黒沢なら、助手席は『俺の定位置』と言う訳か。先に乗っていた四平は『コラムシフトの三人乗り』でなければ、窓から放り出されていただろう。
結局虎雄は首根っこを掴まれ、荷台に引き上げられる。
別に置いて行っても良かったのだろうが、『今は捨て駒として使うタイミングじゃない』と思われたのだろう。ホラホラ。
そんなに文句ばっかり言ってると、荷台から放り投げられるぞ?
「誰が女番長だって! ちゃんと聞こえてるんだからねっ!」
一瞬で静かになった。黒沢も黒田も窓を開けている。黒田は窓から半身を乗り出して換気扇を凝視。右往左往する人影が見えた。
「寄せろっ!」「あぁ、判ってる」『ブルンッ』「良いぞっ!」
凄い音が鳴り響けば何が起きているかは一目瞭然だろう。
しかし全員が状況を観察は出来ない。運転手の真後ろに陣取った奴らが立ち上がり、陰になっていたからだ。
ならばと仕方なく後方を見れば、暗闇の中、何やら瓦礫が動いたような? 僅かな明かりに地面が反射して、揺れ光ったような?
「黒井っコッチだっ! 飛べっ!」「番長急いで。水来てるYO!」「誰が番長だってぇ? わたしゃ番なんて張ってたこと無いよっ!」
荷台から呼び掛ける方も呼び掛ける方だが、答える運転手もどうかと思う。後ろ向いて真面目に答えちゃって。今大事なときだろうに。仲間を救出出来るかどうかの瀬戸際。ちゃんと前向きましょ?
『ダンッ!』「うわっ!」「あんたゲームやる暇あんならシートベルト締めときっ!」「ヨシッ回収っ! 後は逃げろ!」「アイヨォ」
いつものように『黒井の文句タラタラ』が聞こえない。着地地点が運転席の上だったらしく、天井が『ベコッ』と凹んだ影響か。
そのまま一回転して荷台まで転げ落ちた辺り、黒田の半身姿勢は一体何だったのか。短い手を思いっきり伸ばしたものの、黒井のケツをサッと触ったのみ。結果的に痴漢と間違えられても仕方ない。
「痛ってぇ」「どっか折れたか?」「分かんねぇ」「じゃぁ大丈夫だ」「折れてなくても痛てぇのは変わんねぇし」「まぁお帰り!」『バシッ』「イテッ! 今ので折れたかも!」「そんな軟かよw」
後ろから笑い声が聞こえて、黒沢と黒田は顔を見合わせる。全員回収したのだ。後は無事に逃げ切れば勝ち。いや何に?
「早いトコ大横川を渡らんと流されるぞ」「じゃぁ、永代橋通りか」
今で言う所の『永代通り』だが、この辺は関東大震災後、直ぐにアンダーグラウンド下になってしまったので橋の名を含む。あっそ。




