海底パイプライン(四百六十)
「良いからサッサとやっちまえっw」「水持って来いよ水っ!」
下から気楽な指示を出す黒田。しかし黒井は服の袖で顔を拭っている。掃除用の水。汚れた石鹸水が顔に掛かってしまったのだ。
目には入らなかったものの、顔に掛かった汚水はとりあえず拭く。
「勢い良く引っ張るから、全部こぼれちまったじゃネェかよっ!」
バケツを見て文句だ。ひっくり返してバケツの底を黒田に見せても、手前に落ちてピチャ止まり。黒田まで届く程の量は無い。
「おい。早く降ろしてやれ」「はーい!」「はーい!」「タァッ!」
まるで下りが速いエレベータだ。もしかして、一斉に手を離しただけなんじゃないかと思える位に。黒井が目を丸くして面白い顔。
だらしない。パイロットなら『急降下』なんてお手の物だろうに。
『ビンッ』「グェッ。殺す気かっ!」『ボコーン』「イテッ畜生!」
今度は『一人コント』であろうか。黒井は何をしているのだ?
地面スレスレで急停止したと思ったら、空のバケツを黒田目掛けて放り投げた。が、表現上『目掛けて』とある以上、あくまでも目掛けただけであって、到達はしていない。だって、自分の腰に結んでいましたよね。だから結果的に自分の顔へと到達したって訳。
「しょうがねぇなぁ。頭冷やしてやれよ」「イイッ! 良いから!」
片手にバケツをぶら提げて来た奴に指示をすれば、普通に頷き、普通に両手持ちへ。それを高く掲げて『こうですよね?』だ。
当然黒井は『顔バシャ』なんてお断りしたい。多少石鹸でヌルヌルだとしても、乾けば何とかなるレベルだから。ヤメレヤメロ。
「コイツとは仲良いのか?」「あぁ。スゲェ仲良しなんだぁ」
石鹸水を作り始めたのを見て、五所川原が黒井を指さし、黒田に聞く。すると黒田は、随分嬉しそうに言うじゃないか。
ならばコイツも『連れて行く候補』であろうか。五所川原は頷く。
「仲良しな訳ネェだろっ! いっつもいっつもふざけやがって。ぶっ殺すぞっ!」「ひっどぉおぉい。そんな風に思ってたのぉおぉ?」
ブチ切れである。実際『殺せる機会』はあった。直近では『アンダーグラウンドをヘリで飛び回ったとき』とか。必殺壁ドン一撃で、文字通り確殺である。黒井自身も死ぬだろうけど。
鹿島港沖の『大和に向かって機銃掃射する』ってのも一考。
主砲は弾道が見えないから無理としても、怒り狂ってミサイルでも撃って来たらしめたもの。黒田が待機している方に逃げてドーン。
対空ミサイルでも、人に当たったら結構痛いこと間違いなし。
あぁそうだ。初めてアンダーグラウンドに来たとき、トラックのライトをオンにして突っ走れば、自動警備一五型か調和型無人飛行体に見つかって、ハチの巣にして貰えただろうに。あのとき何故……。惜しいことをした。
「何? 奴は照れてるのか?」「そうなんだよ」「チィゲェエェ~」
五所川原と黒田は、久し振りに『ドップラー効果』を耳にした。
救急車でも消防車でもなく、ましてやパトカーでもない何か別のもの。モノって言うか、人の声? でも目の前には誰も居ない。
「隊長」「ん、何だ?」「ちょっとヤヴァイことが……」「どした」
ダルそうな八百板屋が五所川原に。チラっと黒田を気にしている。
五所川原もチラっと黒田を見たが『聞きませんヨー』な顔に。
「良いから話せ」「あのぉ、上流で決壊しt」「はぁ?」「はぁ?」




