海底パイプライン(四百五十九)
「爺さん」「ん?」「本業は何だい?」「本業?」「あぁ」
興味があった。黒田の職業について。五所川原は少しだけ。
しかし黒田の方に答える気は無いらしく、考えるフリか。
「すまん。年金生活なら『何だった』と、聞くべきかな?」
五所川原は素直なのかもしれない。年寄の演技に引っ掛かり、聞き方を変えて来た。どっちにしろ大した違いではないのだが。
「あぁ、十五日が待ち遠しくて堪んねぇんだわ」「そうかw」
この世界でも年金の支給日は十五日らしい。五所川原は笑う。
爺さん家へ遊びに行くのは隔月。偶数月の十五日と決めていた。引き出しの奥から金庫の鍵を取り出すと、番号を忘れた祖父に変わってダイヤルを左右に回してやるのだ。中から郵便局のカードを取り出すと『このカードが使える所』への案内役も兼ねる。行先はショッピングモールだ。玩具もパフェも無い郵便局に用はない。
いや最初は『老眼で見えねぇ』と言っていた祖父だが、孫が金庫を開けてくれるなら『まぁいっか』になった模様である。最後まで。
「もう、生活がキツくてキツくてw」「何だw 出たばっかりじゃネェのか?」「良く知ってんなぁw 家にもそーゆーの居たからよ」
腕を組み、前を見ていた黒田だが、笑顔で横を向く。
正確には一旦『五所川原の胸』をガン見して、それから上を見た訳だが、別に『舐めるように』見た訳ではない。あくまでも自然に。
しかし言ったことは嘘らだらけ。孫の琴美が年金支給日に来たことは一度も無く、だからと言って金を無心したことも無い。
年一のお年玉を滅茶苦茶楽しみにしていただけ。実に控え目な孫。
一度『ポチ袋買い忘れた』と言訳をしたら、翌年から封筒を送ってくれるようになった。気が利く。札を折り畳まなくてもスッと入れられる、物凄く厚みのある奴を。贈り主、受取人も達筆で。
金額まで書いてなかったのは『優しさ』なのだとか。嬉しいね。
「仕事は何をしていたんだ?」「仕事ぉ?」「あぁ」「掃除屋さ」
やっと返事らしい返事が。五所川原は頷いた。黒田も頷く。
つまりコレは『天職と言う訳だな』なーんて、思う訳無かろう。主語がネェんだよ主語が。掃除してたのは『何』なんだ?
「何のs」「おいジジィッ! 上に引っ張り上げろっ!」「おぅ」
天からの声。ではなくて、ロープに結ばれた黒井だ。泡だらけ。
黒井なりに考えてのことだろう。単純に『上から』ではなく、羽根を一枚づつ、キリの良い所で上下して掃除をする形式を採用か。
名付けて『こんな所から攻めちゃうぞ』方式。知らんけど。
「思いっきり上げてやれっ!」「そーれっ!」「れっ!」「れっ!」「うわ馬鹿ヤメロッ! イテテテテッ! うわぁあぁあぁっ!」
全ては人力である。引く方も引っ張られる方も。
見た感じ、痛いのが腹なのか股間なのか、若しくはその両方なのかは知る由も無い。少なくとも黒井は、あっという間に上へ到達。
ちゃんと指示通りなのだから、別に文句は無いだろう。
「急に引っ張んなって、言ってんだろうがっ! 殺す気かっ!」
違った。大いに文句があったらしい。揺れながら言うセリフか。
「俺はナンも言ってねぇぞ?」「ふざけんなジジィッ! 今『思いっきり上げてやれ』って言ってたよな? 聞こえてんぞゴラァッ!」「俺じゃネェよ。こっちのネーチャンg」「は?」「嘘こけっ!」
どうやら黒田に『まともに相手する気』は無いか。笑顔なのに。




