海底パイプライン(四百五十七)
「隊長ぉワンちゃん生きてますよぉ」「おう。コッチ連れて来い!」
男にしてみれば酷い一日である。まだ始まったばかりだが、もう終わってしまってもおかしくは無かった。混乱はまだ続いている。
三人分のお茶を淹れ終わって、自分のお茶を淹れる前に『茶葉を変えるか否か』迷っている最中だった。しかし決心する。
どうせ変えるなら高い方のお茶。目の上のたんこぶに出した『やっすいお茶』じゃなくて、仕事終わりに頂こうと思っていた『とっておきの奴』をだ。今朝茶筒に移し替えたとき良い香りがしていた。
「イテテッ何すか。出涸らし出したからって、そんなにしなくても」
現場に来る前、上から『リクルーターが来る』とは聞いていた。
判ってる。例年通り働きの良い奴らが居たら、掻っ攫って行こうって連中のこと。故に一目見て『いけ好かない奴だ』と思ったまで。
「おい村松、テメェ出涸らしを淹れたのかっ!」「熱いのって言うから」「熱いと何で出涸らしなんだYO!」「えぇえぇ……」
知らねぇのかよ。なら言うな。別に『雑巾の絞り汁』とか、入れてないんだから良いじゃネェか。と、言いたい。言わないけど。
お茶に異物を入れるなんて、絶対お茶農家は望んでいない。それは実家がお茶農家である村松自身が、一番解っていることだ。
「そんなことより、コレどうしてくれるんだっ! えぇえぇっ!」「あぁ、これは酷い……」「グシャグシャじゃねぇかっ! 家のだぞっ!」「いやぁ……。アンダーグラウンドは、自己責任?」
カブに机を縛り付け、何とか走って来た立場の村松にしてみれば、アンダーグラウンドに高そうなバスで来る方が悪いとしか。
可愛く首を曲げて『疑問形』にしているが、それ以上は言えない。
「ほぉ。言ったなぁ?」「換気扇の羽根を、放り投げた奴? に、文句を言って貰えますか? 私も犯人探しに協力しますから」
つまり『俺は何もするつもりは無い』と言っているに等しい。
「犯人なんて判ってんだよっ! アイツらに決まってんだろっ!」「あっ、ホントだぁ。良く判りましたねぇ。流石名探偵イテッ!」
五所川原に蹴られて苦笑い。でもそれで済むなら安いモンだ。
馬鹿は放置とばかりに五所川原は歩き始めていた。犯人の方じゃない。その隣の京極組の方にだ。見回して大声で叫ぶ。
「おい誰かクレーン運転出来る奴居るか?」「アレですか?」「それしかネェだろうがっ! どっから別の奴が都合良く出て来んだ!」
使えない連中だ。勘も悪い。こんだけ揃ってて、誰も居ないのか。
「お前は?」「無理無理無理。今免停中なんで」「何したんだ。イイ。お前は?」「俺も無理っす」「じゃぁやれ」「えぇえぇー」「お前も免停中なのかっ!」「いえ違いますけど」「じゃぁ出来んだろ」「いや戦車しか操縦したことが無くて、クレーンはチョット」「似てる似てるっ! 良いから行けっ!」「いやキャタピラじゃネェし」「だったらキャタピラだと思って行けっ!」「無茶を言う……」
うだうだ言ってる所に別の男が割って入った。コソコソ話す。
「怒られない内に行っとけよ。なぁ?」「でも俺、砲塔しか操縦したことネェけど」「良いジャン。一発お見舞いしてやれ」「何をw」
渋々クレーンに向かって歩き出す。その後ろ姿を見て次の手配だ。
「玉掛け出来る奴っ! お前出来そうだな。あれ玉掛け出来っか?」「いや俺が知ってるのは、魚雷とか爆弾なんですけど」「何処で」「いや空母で」「そうか。じゃお前は?」「俺は核弾頭なら釣ったことは有るけど、あんな変な形のはチョット」「お前に決めた!」




