海底パイプライン(四百五十六)
無事生き残った者達は、未だ煙が舞うバスの方を見ていた。
ファンで真っ二つになったバスには、少なくとも二人は乗っていたはず。現場監督と偉そうなおねーちゃんの二人が。犬のようにワンワン言っていただけの現場監督はどうでも良いが、おねーちゃんの方はちょっと可哀想と言うか、もったいないと言うか。
『バンッ! ガランガランガラン』「〇×▽◇◆〇ッ!」
前言撤回。何だ五体満足でピンピンしているじゃないか。
ベコベコになった屋根の一部を押し退けて、と言うことは『ファンが倒れた方』から出て来た訳だが、怒りを露わにする程元気だ。
血の一滴も垂れていない。垂れているのは、正確には『飛ばしている』なのだが、唾の方である。食い掛けの苺大福をゴックンして、大きく息を吸い込んだのが判った。ハイハイ。全員耳を塞げ。
「責任者何処だっ! 出て来いっ!」
物凄い大声。全身を使って力の限り。いやはや『転がるファン』の音より、大きいんじゃねぇかと思しき声量。しかし反応は無い。
『一緒に埋まってんじゃねぇの?』『アンタ責任者ちゃうんかい』
本当は突っ込みたいが、今突っ込むのは危険と判断するのは当然だ。誰も声は出さないし、ズボンも降ろさない。表情だけ露わにし、他人の陰から様子見を決め込んでいる。目を付けられたら怖い。
『バキッ』「隊長ぉ、煩いっすよ。落ち着いて下さい」「おぉ無事だったか」「何言ってんすか。無事じゃないっすよ。無事じゃぁ」
鉄板を押し退けて出て来た男だが、『犬』とは違う男だ。
そして五所川原を『隊長』と呼ぶ辺り、身内なのだろう。
ファンの直撃を受けたら無事では済まないだろうが、人としてそれなりに鍛えられた体をしている。手を怪我したのだろうか。文句を言いながら辛そうに掌を眺めると、そこから赤い雫が。ありゃま。
「苺大福、握り潰しちまったじゃねぇですか」「早く食わねぇから」
何だ。血では無いらしい。心配して損した。て言うか、外野にはそこで『五所川原が食ってたのは苺大福』の推論が成り立つ。
きっと迫り来るファンを見た瞬間、一口に放り込んだのだろう。
別に良いけど、だったら飲み込んでから出て来いよと言いたい。
『バァンッ!』「隊ちぉッ。お茶っ! ングッ」『ドンドンドン』
何だ今度は。一番高く鉄板を跳ね除けて現れたのは、胸をゆさゆさ、じゃなくてドンドコ叩きながら現れた女である。
ファンの攻撃を凌いだものの、多分だが『苺大福が喉に詰まった』のであろう。あと数秒で死んでしまいそう。しかし誰も『死んでしまえ』と思わないのは『可憐な容姿』に関係があるのかも。
お茶を所望のようだが残念。お茶は何処にも無い。なむぅ。
「八百板屋、長宗我部の背中叩いてやれ」「へい。おーい死ぬなぁ」
どうやら男の方が八百板屋で、女の方は長宗我部と言うらしい。喘ぐ長宗我部に『死んでもかまへん』な感じ丸出しで近付き、背中を叩こうとするも拒否られる。
食い意地が張っているのか、背中を叩かれて吐き出す位なら、死ぬ方を選択したようだ。んな訳ないか。はいゴックン。おめでとう。
「政府の犬はどうした? 死んだか?」「この辺じゃないすかぁ?」
五所川原の問いに長宗我部は歩き出す。そして原形を留めているが、取れ掛けている窓の鉄格子を片手で外し放り投げる。タイヤに足を掛け窓からグッと手を入れると、言った通り男が出て来た。




