海底パイプライン(四百五十三)
「じゃぁ、上行くか」「ほならコレ、持っててな。おいサポート」
あれ? ちょっとは何か勿体ぶるとか、そういうの無いの?
上を見ていた黒井だが、黒田があっさり賛成に回りやがったので驚き、振り返る。既に右手を残して居ないが。工具? あっハイ。
そして直ぐに戻って来た。今度は手にロープを握り締めて。
「コレで登るんすか?」「そうしたい?」「いや梯子とかは?」
工具をポケットに突っ込んでみたが、何だか落ちそう。
安全に気を遣う黒井は、仕方なくベルトに通してみる。こんだけ人が居る中、ベルトを外してカチャカチャやるなんて、ハズい。
「あるこたあるけど」「んじゃそれ使うから、コイツは良いよ」
目の前のは近過ぎて良く判らん。が、隣近所の換気扇を良く見れば、横っちょに梯子があるではないか。あれで上に行けば良い。
「いや、持って行って欲しいのよ」「何で?」「何でってお前さぁ」
黒井はもう一度ロープを見る。何か見覚えのあるロープだが、それはまぁ良い。黒井が持つべきロープの反対側を、今五人の男達が握り締めて居るのだが。ニヤニヤしながら。何だ? 気持ち悪い。
そこで『参考』にと、隣の換気扇を見て、やっと理解した。
「換気扇、掃除しに来てんだからさぁ、掃除って上からヤルもんだろう?」「あんな風に?」「そそ。あれが一番効率が良いんだ」
黒井はもう一度隣を眺める。既に掃除を始めていたからだ。前例。
『ホラッ、引っ張れっ!』『そーれっ!』『うわうわうわっ!』
最後に叫び声を上げてたのが『黒井役』だ。お互い素人なのか連携が全く取れておらず、腰にぶら提げたバケツがひっくり返って、顔に掛かっているじゃないか。当然、空中と地上で喧嘩が始まる。
しかし向こうにも『黒田役』が居る模様。黒井役を無視して、地上部隊に『引っ張れ』を指示。黒井役を黙らせることに成功だ。
流石に腹を思いっきり引っ張られては、『グエ』を最後に声なんか出るものか。息が出来るかどうかも怪しい。
あっ、でも大丈夫みたいだ。換気扇の掃除を始めたし。
「あれをやれって言うの?」「家はホラ、ちゃんと連携取れてるし」「そうだぞ黒井、俺達ァ仲間じゃネェか。ちゃんと信頼してくれて良いんだぞ?」「えぇえぇ? 大丈夫かよ」「大丈夫だって。黒田さんの指示通り上下させっからよぉ」「それが一番心配なんだヨ!」
ほら見ろ。黒田のニヤニヤが止まらないじゃないか。
「大体さ、こーゆーときって、換気扇がボロンって取れて、トラブルになったりするモンじゃねぇーの?」「お前何自分で、縁起でもネェこと、言ってんだ。そんなコト、偶にしか起きねぇよ」「起きるんか」「極稀!」「ホラ見ろ。隣は換気扇外そうとしてんじゃネェの?」「まぁ水被ったしなぁ。でも壊れた奴は、基本業者に依頼すっぞ?」「ホント? あっでも今『基本』って」「気にし過ぎ。依頼した業者が『来てくれたら』って話よ。な?」「おいおいおいおい」
実際問題、アンダーグラウンドに技術者を派遣する換気扇メーカーは少ない。最近は特に『働き方革命』とか言うのが流行っているらしいから。知らんけど。予想するに、二時二十二分に『革命』が宣言されると、時計が逆にでも回るんだろう。そしたら働けば働く程、会社にお金を支払わなければいけないとか、きっとそんな感じか。
「冗談じゃネェよ。ぜってーボロンと取れて、回り出すに決まってんだよ」「だったら上に居るお前が一番安全だろ」「いやもしかして、換気扇がドミノ倒しになるかもしれねぇ」「いや角度見ろw」




