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海底パイプライン(四百五十二)

「上げたって上がりませんからね」「ちっ。詰まんねぇ奴だなぁ」

 まだ洒落に拘っている黒井だが、黒田の方は早々に諦めた模様。

 だがそれ自体が黒井は気に入らない。鬱憤は溜めずに、その場で直ぐ吐き出すタイプだ。勿論、愛機の中で吐き出したりはしないが。


「何すか『ちっ』って」「聞こえた? 言ってねぇけどw」

 黒田は黒井に背を向け『次のターゲットを選定中』であった。それが振り返って『ニヤリ』と笑って言ったモンだから、そりゃ怒る。


「言い方。んなコト言ったら『言ったも同然』でしょうが」「言った本人が『舌打ちなんかしてねぇ』って言ってるんだから、言ってねぇんだよ」「いやいやいやいや。白状してるじゃないですかぁ」

 黒井にしてみれば至って真剣なのだが、周りの奴らは『またか』と思ってニヤニヤしているだけ。誰も二人のやり取りに介入せず。


「だとしたら何だぁ?」「このジジィ、開き直りやがったよ」

 両手を大きく広げ上体を逸らした黒田。黒井の言いようと肌の乾燥具合から『アジの開き』の如く。まだ骨が残っているタイプの。


「開き直ってなんか無いよぉ」「何だコイツ。白々しい」「俺はお前を大事に思ってだねぇ」「はぁ?」「上に行け。って言ってんの」

 疑いの眼だ。黒田が力強く言う程怪しい。絶対に騙されちゃダメ。


「そんだけよぉ」「嘘くせぇなぁ」「クンクン。まだ大した仕事してないから、臭わないと思うけど?」「加齢臭は洗ってm」『ガッ』「ッ。てかよぉ、絶対俺に危ない橋を渡らせようって魂胆だよな!」「違うよぉ。そんなこと、全然心にも、思ってナンかないよぉおぉ」

 ホント、ムカつく野郎だ。言葉も仕草も全てが気に入らない。

「たださぁ」「何だよ」「ホラ今日は雨ジャン?」「あぁそうだな」「でさぁ、この辺ってアンダーグラウンドでも低地ジャン?」「おっおう。まぁそうだな」「で、お前って、まだ『アンダーグラウンドの恐ろしさ』って、経験してないジャン?」「経験してんだろ」「あぁ、アレはホラ『人工物』だから。そうじゃなくて『自然現象』の方」

 全体的に『詐欺師の言い方』そのものだ。黒井は何故か、黒田と初めて会ったときの説明を思い出していた。気になるのは黒田が指さした方。真っ暗だが、そっちが『上流』なのは判る。


「もし洪水が起きたらさぁ、この辺まで水が来るんよ」「嘘マジ?」

 黒田が空手チョップで示したのは、黒田自身の腰辺りである。

 今、コンクリートの台座の上に居るのだが、下から二メートル?


「マジもマジだって。あぁついでに言うと、色んなモンも流されて来てさぁ、こう『ビョーン』って飛んで来るんだわ」「えぇえぇ」

 黒井だって洪水によって引き起こされた濁流を見たことはある。

 それを経験したことは無いが。んなある訳ない。大体『濁流来まーす』って判ってたら、普通何らかの合図があるし、無くても濁流に近付かなければ良いだけのこと。田んぼの濁流は、翌日に見たとて結果は一緒だ。自らを濁流に加えて差分を演出せずとも良い。


「だからさぁ、上が一番安全な訳よ」「……」「でもホラ、さっきみたいに、配管から漏水して来たら、真っ先に浴びる役だけどw」「ちょっ!」「でもお前なら、サッと避けられんだろ?」「まぁ」「それにホラ、お前目良いし」「何か関係あんのかよ」「そりゃぁ上流から水が来たときよ。いの一番に見えんだろ?」「あぁ……」

 黒井は『ウエイク』も悪くないと思う。黒田の言うことが本当なら。仮に嘘でも『助かる可能性』は一番高そうだ。高いだけに。

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