海底パイプライン(四百五十一)
換気扇の上から水が流れ出せば、そりゃぁ大騒ぎにもなる。
幸いだったのは『黒田が挨拶をした方』じゃない側であったこと。違う? じゃぁ『今から水掛けようとしてた所』かしら。
「うわヒデェな!」「大丈夫かっ!」「何じゃこりゃ。臭っせぇ」
どちらでもなかった。古い配管から漏れ出たのが『完全な汚水』であったことが最上の喜びとは。時代が変われば人の嗜好や思考も変わると言うが、この至高の指向には志向し難いものがある。
これは『雨に濡れても溶けてはいけない法』を施行しない限り、これからも水を恐れる日々が続くのであろうか。水道水万歳。
「バレてないから良っか」「ヒデェな。ちょっとは心配位、してやれって」「そもそも明日は我が身」「ウヒッマジかよ」「ほら言うだろう? アンダーグラウンドでは自己責任だって」「ここでもか」
黒田と黒井の会話だ。『ちょっとやってみ』と指示した虎雄は、発声していないことを良いことに、発生した事象の責任を取りたくない。ダンマリを決め込んでいる。
そういう点では四平の方がまだマシで、ソッポを向いて知らんぷり。挙句『自分はずっとゲームしてましたけど』の得意技を発動だ。
黒田も呆れてか、特に用が無ければ四平を相手にもしたくないか。回転が若干遅くなって来た換気扇を見上げて、拍手を始めた。
「ホラホラ。換気扇止まって来たから、掃除を始めようぜ」
虎雄は『そうだ』と頷く。隣の奴らは、本来換気扇に掛けるハズだった水道水を、汚水をタップリ浴びた奴らにぶっかけている。
『臭ぇ。コッチ見んな』『別に見る位イイだろうがっ!』『あれぇ』
和気あいあいと楽しそうではないか。人生雨に濡れなきゃ何とかなる。そんな精神なのかもしれない。
『ちょっ! ふざけんなコッチ来んなって!』『ウェエェイッ!』
違うな。何処にでも『馬鹿な奴』は居る。絶賛『仲間を募集中』のようだ。あぁ、追い駆けっこまで始めちゃってまぁ。仲良しねぇ。
「こんなモン、さっさと止めちまえば良いだろうに」『パァン!』
さっきから『台座の上でのお芝居』を見せられて、イライラしていたのが若干名存在した模様。台座の上にヒョイと登って来ると、回転する換気扇に向かって手を差し出した。
これ絶対に、良い子は真似しちゃいけないことだ。親も悲しむ。
「何やって……」「ウォリャッ!」『ギギィイィ』「んだ……よ」『ピタッ』「止めてんだよ。見りゃ判んだろう?」「おっ、おう」
黒沢は今更良い子でもないし、両親はとっくの昔に他界していた。
だからではないが、別に『大したこと』でもなかった感が凄い。確かに『倒れそうな皿』だったら両手を使う黒沢だが、『炒飯の塩コショウ』と同じ感じだった。片手でチャチャっと。てなモンで。
「コツはな? 先ずは自分が『これでイイ』って決めることだ」
笑顔の黒沢は、驚く虎雄の顔を見るなり肩を『パンッ!』と。
相変わらず謎のアドバイスだが、黒沢の塩コショウは決まったらしい。そのまま『水遊び』をしに行ってしまった。何だアイツ。
虎雄は困って黒田を見るが、肩を竦めると黙って『俺に聞くな』だ。隣の黒井は『そういうモン。そういうモン』だし。
「誰が上行く?」「って、俺を叩くなよ。俺のウエイクとちゃう」「面白れぇコト言うなぁ。『上行く』と『航跡』か」
右手で飛行機を飛ばし煽てたって、換気扇の上にはノー上行くだ。




