海底パイプライン(四百五十)
「随分デカいですねぇ。こりゃ掃除すんの大変だ」「だから連れて来たんだろうw」「いや雨が降らなきゃ来てなかったんでしょ?」
黒井は土台の上に上がり、換気扇を見上げて驚いていた。この世界、驚くことだらけだが、また一つ『新たな驚き』が加わったか。
「そのまま掃除する奴があるかっ! 早く換気扇を止めろっ!」
二人の間に割り込んで来たのは虎雄だ。偉そうに指示を出しているが、虎雄だってこんなでっかい換気扇を見たことは無いし、ましてや止めたことも無い。『誰か説明書持って来い』の世界だ。
「工具は?」「工具?」「そうそう。レンチとか、ドライバーとか」「んなモン要るのか?」「何言ってんの要るだろ」「あぁこれです」
だからだろう。黒田の問いにも虎雄は答えられない。するとあろうことか、四平の奴が工具を取り出したではないか。それを立ち位置の関係上、黒井が受け取る。そして虎雄を押し退け、られない。
一応は自衛官。相手が多少一般から逸脱した市民であっても、この高さから『頭を下にして落とす』なんて出来ない。我慢だ。
『ヒョイ』「確か裏っ側にスイッチボックスがあってよぉ」「えっ」
今回転する換気扇の隙間を行かなかったか? いや行ったよね?
現に換気扇の向こう側に黒田の姿があって、ボックスを探している。当然だが、一定間隔で換気扇の羽根が黒田の姿を覆い隠して。まぁしかし、それも一瞬の間。瞬きしている時間と同じ位か。
『ヒュン』「おう。電源ボックスあったわ」『ヒュン』「工具寄越せ」『ヒュン』「えっいや」「全部?」『ヒュン』「あぁ全部投げろ」『ヒュン』「ホイッ」「サンキュッ」『ヒュン』「おいぃぃ!」
黒井がヒョイと投げた工具だが、見事換気扇の隙間を抜けて無事黒田に届いた。流石はパイロット。F2乗りの面目躍如か。特に換気扇の回るタイミングを計ることも無く、ごく自然なやり取りに見える。しかし虎雄にしてみれば『真似しろ』と言っても真似出来ないし、『やれ』と言われてたって遠慮願いたい。
「何?」『ヒュン』「あっぶねぇだろっ!」「ん?」『ヒュン』「羽根に当たったらどうすんだ!」『ヒュン』「いや当たんねぇしw。こんなに」『ヒュン』「ゆっくり回ってんじゃねぇか」『ヒュン』「そうかぁ?」「そうだよ」『ヒュン』「そうは思えねぇけど」「逆にさぁ」『ヒュン』「どうやって当てんだ?」『ヒュン』「……」
説明不足な点もあろう。虎雄は黒井が『パイロットである』ことを知らない訳だし。確かにジェットエンジンのブレードが回る速度に目が慣れてしまえば、換気扇の回る速度など『限りなく止まっているに等しい』と言えよう。言いたいことも判る。
『ヒョイ』「何喧嘩してんだ? ホラ工具サンキュ」「ちょっ!」
ブレーカーを切った黒田が、こちら側へ最短距離で戻って来た。
黒井が肩を竦め『ほらね』な顔。当然『驚き』はない。寧ろ半笑いなのは『俺はやらないけど』の意味なのだが。しかし虎雄に黒井の意図を読み取る余裕は無い。渡された工具を手に黒田と換気扇を交互に見て驚くばかり。勿論『やってみよう』なんて思わない。
電気を切った換気扇だが、慣性の法則により直ぐには止まらないことを虎雄も知っている。しかし羽根の重さから『止まるまであと何秒か』までは計算出来ない模様。四平を見て『いける?』と問う。
潜るか投げるかの選択肢なら、ここは当然『投げる』一択。四平は落ちている石を拾うとタイミングを見計らい、軽くポイと投げた。
『カンッ! ヒュゥゥゥ。ゴンッ! バシャー』「うわー水だっ!」




