海底パイプライン(四百四十九)
拍子抜けも良い所だ。一発殴られろと思いきや、あっさりと帰って来やがった。しかも満面の笑みで。
見れば黒田を送り出した奴らが全員作業を止め、揃ってお辞儀までしているではないか。いやいや。アンダーグラウンドに『良い人』なんて居るのか? 何かがおかしい。
「向こうなら良いってさ」「本当に?」「あぁ、何だったら『今やり掛けの奴をお譲りましょうか?』って言われたけど」「はぁ?」「それは悪いから遠慮した」「何だそりゃ。話がちげーじゃねぇか」「そんな、嘘だと思うなら、お前行って来いよ」「お前って。いやまぁ」「ぶっ飛ばされるだけだと思うけど」「ちょっ、何でだよ!」
虎雄の突っ込み虚しく、黒田は笑って行ってしまった。
腑に落ちないが、今は有難く交渉の結果を喜ぶしかあるまい。すると『チーム虎雄』の面々が黒田に引き連れられ移動を開始。
換気扇を譲って貰ったからだろう。律儀に手を上げ、挨拶しながら通り過ぎる。すると『譲った方』が何故か丁寧にお辞儀とは。
「ちょっと待て。テメェ責任者か?」「いえ違います。コイツです」
譲った方の中に、一人『頭を下げていない奴』が居たのが判った。
そいつが小走りにやって来て、四平に声を掛けたのだが。当然のように四平はゲーム機と格闘中。カチャカチャやりつつ、画面を見たまま顎で虎雄を指し示す。で、仕方なく虎雄へ。チラっと四平を見たが『相手にしたくないタイプ』だったか。放置。
すると四平もチラっと横目に見た。その目は多くは語ってはいないが、『俺は今忙しいんだよ。見りゃ判んだろボケが。気安く話掛けんじゃネェ馬鹿。糞は糞同士で好きにやってろ』であろうか。
「テメェか。ちっと来いよ」「何だよ」「良いから来いYO!」
いきなり殴り合いかと思い、虎雄も身構える。グイッと肩を組まれて歩く方向まで無理矢理変更。このまま物陰行きか?
「おい、テメェんとこの掃除屋、おかしくなかったか?」「んん?」
何かと思えば、これは『相談』なのか? ヒソヒソ話で。
「だから『おかしくなかったか』って聞いてんだよ」「何が?」「何がって『何もかも』だよw」「いや意味判んねぇ」「いや家の『まとめ役』がさぁ、開口一番ボコられちまってさぁ、俺代理で仕方なく、何とか連れて来たんだけど」「あぁそう。ちょっと気が荒い連中に当たっただけじゃね?」「いや、あれは……」「だったら家の連中もそんな感じだったよ。まぁ俺は、ボコられてないけどw」
虎雄の回答に、相手はちょっと一目置いたようだ。チラっと自分の部下と虎雄の部下を交互に見て、もう一度虎雄の肩を組んだ。
「それがさぁ、テメェんとこのジジィが来たらよぉ、ペコペコし始めやがって、ゴマすりも良いトコじゃん」「そうなの?」「じゃなきゃこんなん聞かねぇって。テメェんとこの掃除屋、何なんだ?」「いや、いつも通りの日雇い連中だけど……」「マジィ?」
眉を顰めて信じられない顔で固まっている。虎雄も平静を装い『何で嘘付く』をアピール。今更思い出したけどね。慣れって怖いわ。
「じゃまぁ、よろしく頼むわ」「おう。何かあれば」「あぁ」
男は首を傾げながら行ってしまった。シャツの隙間から刺青が見えたので、確実に同業者なのだと判る。それでも諦めた感が漂う。
「オラにーちゃん! ぼへっとしてねーで早くブレーカー落とせって言ってんの! 掃除出来ねぇだろうがっ!」「ハイッ! 只今!」
何だ向こうも顎で使われてるのか。こっちも急がないとヤバそう。




