海底パイプライン(四百四十三)
虎雄は『引っ込んでろ』と言われ『ハイそうですか』と納得する男じゃない。実は戦場で『頭を下げろ』と言われたにも関わらず、『関係ネェ』と強がって無視していると、結構な確率で死んでしまうとな。軽い言い方だが、黒田はそのつもりで言ってやってる。
「何を釣ってんだって聞いてんだっ!」「ちっ。知らねぇのかよ」「知らねぇよ。知らねぇから聞いてんだろうがっ!」「世の中知らない方が幸せなこともあるんだけどねぇ」「良いから教えろよっ!」
荷台では相変わらず大騒ぎだが、黒田だけは冷静だ。
かえって、それがいけないのかもしれない。殺人ドローンが狙って来たので、今正に『その対策中』なのだが判らんかね。大人しく助手席に座っていれば良いものを。ナンマンダブとか唱えながらさ。
「釣れたら説明してやっから」「んだよそりゃ」「メンドクセェんだって。ホラホラ前見て。窓閉めとけ?」「誤魔化すんじゃねぇ!」
煮え切らない態度の黒田に虎雄は沸騰寸前だ。ていうか、前方を指さした黒田の手を振り払おうとしたものの、力づくで押し返され頭からギュッと車内に押し込まれる。『捨て台詞』がやっとだ。
しかし前を見た途端顔色が変わった。窓も閉め始める。手動だ。
「滝になってんじゃねぇかよっ! コラ突っ込むんじゃネェぞっ!」「えっダメですか?」「ダメに決まってんだろっ! 死ぬぞっ!」
アンダーグラウンドの上には人工地盤という名の屋根がある。
だから雨が降っても濡れることは稀。しかし雨水が流れる側溝も上の方にあったりするので、油断は禁物なのだ。雨水は太陽の光に照らされるまで、人類を溶かす液体として世に君臨している。
だから今、壊れた排水管から流れ落ちる液体が、実は全部『おしっこシャーした結果』ならば、気持ち悪いだけで溶けることはない。
その確信を得るには、国土省の人工地盤整備局の電話番号(0990ー88ー1919)に問い合わせて、配管の経路照会が必要なのだが、まさかわざわざ掛ける奴は居ないだろう。
頭を突っ込んでみれば、直ぐに判ることなのだから。
「あんた何処出身よっ!」『キキキィッ!』「東京ですけど」
ハンドルを勝手に操作しながら黒沢が問う。毒物を雑に扱う黒沢だって、雨で溶けたくはない。しかし四平の雑な答えを聞いて、すっかり呆れている。東京生まれの東京育ちは、雨の危険性が身に染みて判っていない。雨だけに。こやつもその一人なのだ。
トラックは雨水の滝を避けて、裏路地に入った。しかし実は裏路地の方が雨水に当たる確率が上がったりするから怖い。何らかの原因でしみ込んだ雨が、陽の当たらないアンダーグラウンドに溜まっているとしたら、それは何時浄化されるんでしょうね。
『ガゴンッ!』「当たったっ!」『ボォォンッ!』「うわっ!」
トラックの向きが変わったからだろう。格闘中の殺人ドローンが変に引っ張られ、壁に激突。その直後に『ちょっとした爆発』が起きたではないか。虎雄も振り返って確認しようとするが、窓に頭をぶつけただけだった。それにしても運が悪い。
「チキショー。部品取りにしようとしてたのによぉ」「しかも今の『C4入り』じゃねぇですかぁ。惜しいことしたなぁ」「あぁ……」
虎雄は窓を開けなかった。『聞こえて来た会話』が尋常じゃない。完全に狂っている。何だって? 噂に聞く『殺人ドローン』を、コイツ等は『捕獲しよう』としていたのか? きっとそうなのだろう。
しかし人間とは、何と適応力が高い生き物なのだろうか。正体が判ってしまえば直ぐに対策を打ち出して来る。武器屋も大変だ。




