海底パイプライン(四百四十二)
『パシュゥ!』「よーし良いトコ行ったっ!」「おぉ!」「あん?」
後ろの荷台から聞き慣れない音が。空気銃の発射音か?
虎雄は閉めたばかりの窓を開けて、後ろを覗き込む。すると荷台の奴ら、座っていれば良いものを、立ち上がってはしゃいでいるではないか。正直落ちて怪我されても『ざまぁ』としか思わないが、仕事をする前なのでちょっとは困る。虎雄は舌打ちすると、シートベルトを外して身を乗り出した。声を張り上げる。
「何やってんだっ! 座ってろっ!」「だそうですけど!」
両手を叩いてはしゃいでいた奴が虎雄に気が付いた。あらぬ方向を見て虎雄を指さすと、運転席の後ろに立ち、寄り掛かっていた男が振り返った。黒田だ。口をへの字にして。もしかして耳遠い?
「釣りしてるだけだけど」「釣りって……?」「何か問題?」
至極当然のように言っているが意味不明。虎雄は黒田が二度三度『指さした方角』を凝視する。だから何だよ『釣り』って。
いつから魚が空中を泳ぐようになった? それとも何だ? 今日の昼飯は刺身定食? 豪勢で良いじゃねぇかってんだ。
「シャーッ! ヒットォ! 手応え有り!」「良いぞ巻け巻けっ!」
するとタイミング良く『釣れた瞬間』を目にしたようだ。
荷台の真ん中で釣竿を持った奴が、リールを巻き始めた。まるで船上のようだが、しかしココは間違いなく車上。荷台の上である。
『ガランッ』「俺も手伝う」「ちょっと竿を支えてくれ!」「うし」
横にいた奴は『発射係』か。手に持っていた空気銃を荷台に放り投げた音が重い。これは玩具でなく明らかに業務用。いや何の?
今は大物を釣り上げたか。実際に釣ったことはないが、聞いた話と目の前を統合すると、これは『カジキクラス』ではなかろうか。
しかし格闘する相手は如何せん水の中。見えるハズが、無い?
「こっち向いたぞっ!」「引けっ!」『チュイーン』「引っ張りながらだっ! 狙いを付けさせるな!」「判ってるって!」「巻け!」
見えないと思っているのは虎雄だけで、他の奴らには見えているらしい。凧揚げのように空を見上げている。騒ぎの途中、金属音と共に火花が散ったような気もしたが、それは多分きっと、夏の幻。
「何を釣ってるんだ?」「んん? 釣れたら判るよ」「今判んねーのかよ。釣ってんだろ?」「あぁ、説明がメンドクセェ」「何だよ。ふざけやがって。大体釣り竿なんて、何処に隠し持ってたんだ!」
虎雄は更に身を乗り出し、何なら一発ぶん殴ろうと思っていた。
ところが荷台の奴らが再び騒ぎ出す。実はさっきから『ずっと騒ぎっぱなし』ではあるのだが、行数の都合上省かれていただけ。
「こっち向いたぞっ!」「引けっ!」「ダメだっ、竿の動きを学習してんじゃねぇのか?」「横だ横! ほら引っ込んでろっ!」『パリーンッ!』「うわっ!」「おぉおぉ? 何だ。上手く避けたなぁ」
黒田に頭を押された瞬間、目の前でサイドミラーが砕け散る。
まるで弾丸がサイドミラーを貫き、勢いで上半分が吹き飛んでしまったように見えるのだが、それは多分きっと、夏の幻。
「な訳ネェだろっ! 何を釣ってんだよ! あぶねぇじゃねぇか!」
人は正体が見えないと『防御態勢』を取ろうとはしないらしい。虎雄は黒田に食って掛かった。しかし最後に見えたのは黒田の『呆れ顔』だ。顔面を手で掴まれて『ポイッ』と車内に放り投げられる。
「昼飯に『脳味噌』は、洒落にならねぇからよぉ。引っ込んでろ!」




