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海底パイプライン(四百三十七)

「誰だい? コイツは」「さぁね。一緒に遊んで欲しいらしいぜ?」

 黒田に聞かれ、黒沢は男を小脇に抱えたまま答えた。まだムゴホゴしているが、構わず男の両手にもロープを巻き付ける。

 黒田も手伝って。だからお前ら『自分の結び目』はどうした?

 何。『ホラ大丈夫でしょ』だって? ちゃんと結んでいるんだろうなぁ。ほう『こうやってコウ』すれば『結んでいるように見えるだろう』だって? 成程ね。男のはキッチリ『解けないよ』と。


「先に言っとくけど、バイト代、変わらねぇからな?」「あぁ大丈夫大丈夫」「大丈夫って言うけど……」「ホラあれだろ? どうせ途中で誰か、死んじまったりするんだろ?」「あぁ、そこはタツから聞いたんか」「達ぅ?」「調達の達。募集掛けてただろぉ」

 調子の良い黒田とのやり取りを聞いて、虎雄は今更ながら辺りを見渡す。美味しい日雇い仕事のときは、達もちゃっかり紛れ込んでいるのだが。何だ居ないってことは、他に割の良い仕事が入った?


「いつも変なシャツ来てる奴だけど、知らね?」「あぁ思い出した。確か『明日は明日の雨が降る』って」「そうそう。意味判んねぇよな」「こんなポーズの絵と共に」「そそっ! こんなポーズのな!」

 両手を広げ空を仰ぎ見るポーズを見た虎雄も、真似をして笑う。


「溶けちまうよなぁ」「だろぉ? ちっと変わってんだよ。奴は」

 頭の横で指先をクルクル回しながら笑う虎雄を見て、黒田は『オマエモナー』と頷いて笑う。虎雄は同意して背伸びをした。達は?


「おい達! 居るのか?」「あぁ、変なシャツの兄ちゃんなら、今日は居ないよ?」「何だそうか」「明日もカモだけど」「んん?」

 虎雄は『そりゃそうだ』と頷きながらも、何か引っ掛かる。

 黒田のわざとらしい『アハハ』は、まるで何かを誤魔化しているようにも見えるし、周りの奴らが急いで頷くのも、『あれは確かに』と結論付けているようにも思える。

 いや待てお前ら、達に『何か』したんじゃないだろうな?


「そうだっ! 確か『俺はもっと割の良い仕事の方に行くから』とか言ってたような。なっ!」「言ってた言ってた」「だと思ったw」

 一旦ここは笑っておこう。何れ判ることだ。何れ。

 大体『組の顔』とも言える『調達係』に、そんな万が一にも手なんか出して見ろ。『次の仕事』になんて、当然あり付けぬ。


 虎雄の考えは全面的に正しい。しかし『黒田の行い』は、虎雄の考えとは全く異なっていた。まず第一に、出したのは『手』ではなく『足』だったこと。手は両方ともポケットの中だった。

 足だって当然『真ん中の』ではなく、ちゃんと右足と左足。左からのジャブに右からのストレート、からの踏み付け、からの捻り。最後はその辺に蹴り出して一件落着だ。(黒田的には)

 故に虎雄の『一旦笑っておく』は、限りなく正解に近いと言える。


「で、コイツは結局誰なんだ?」「さぁw」「聞いてみればw」

 確かにそう。黒田と黒沢に聞くこと自体が間違っている。

 虎雄は今だ黒沢の胸に沈む後頭部をペチペチしてみた。間違っても黒沢の体には触れたりしないように。死んでも触るモンか。


「オメェ名前は?」「おぉおぉ? それ俺に聞くぅ」「何だコイツ」

 自ら顔を起こしたのは良いが、再び黒沢の胸に顔を埋めてしまったではないか。感触を楽しむかのように、左右に首を振って。

「テメェの名前はっ! ぶっ殺すぞっ!」「神だデェス」「はぁ?」

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