「待てーっ!!」
あけましておめでとうございます。遅くなりましたが新年初投稿でございます。
「待てーっ!!」
「と言われて待つバカはいないわよー」
早朝、砦街を出発したユーリたち一行が東門を出て数分後、森から現れた盗賊に襲われていた。
しかし、昨夜話し合ったように迎え撃つ気はなく、『加速』の魔法を使って馬の走るスピードを上げる。盗賊たちは進行方向に邪魔するように立ち塞がるが、馬は減速することはない。
それですんなり諦めればよいものの、馬車が通り過ぎたあとを、走って追いかけてくるのだ。
「このまま走れば振り切れるけどー」
「けど?」
仏頂面で呟くユーリと笑顔で問い返すフェイ。彼は彼女の言いたいことがわかっているらしい。
「悪事とわかっててみすみす見逃すのもねー」
「あはは。やっぱり」
「バレバレ?」
「うん。バレバレ。で、どうするの?」
「そうねー、宣言どおり足止めしましょうかねー」
「お手並み拝見」
会話の間も視線は盗賊に向いたまま。
「アリアさん、子どもたちの目を塞いでて」
ユーリは彼女が子どもを抱え込んで身体の向きを変えるのを確認してから、盛大に魔法を使った。この世界に再び界渡りをしてから最大規模の魔法を。
それは本当に一瞬の出来事だった。
のどかな草原に、一瞬でいくつもの氷の彫像が乱立した。
イアンとキャシーは息をのんだ。彼らは生身の人間が氷に覆われた瞬間を目撃した。
「さすが。でも殺した方が楽だったんじゃない?」
平常運転なのは本人を除けばフェイだけであった。
「街の人、混ざってるでしょ? 守備隊が盗賊の味方だったら、あたしたちが悪者にされるかなーと思って」
「ああ、残ってるのが死体だけだったら、僕たちは街の人を殺した極悪人に見えるか」
「そうそう。その点、氷漬けなら、服装は盗賊風って見えるし、刃物持って何かを狙ってるってのもわかるから、街の人だからって言い逃れできないでしょ?」
「表情も被害者って顔じゃないもんね」
足元から徐々に凍っていったならば彼らの表情は恐怖に彩られていただろうが、ユーリの魔力を持ってすれば一瞬だった。彼らを襲おうとした表情のまま氷像と化していた。
遠のいていく街とオブジェと化した盗賊たちを見ながら。
「せっかく魔法使いって教えてあげたのにねー」
その呟きに、フェイは苦笑を浮かべ、ユーリの頭を優しく撫でた。
「ところで、あの氷なんだけど」
「ん?」
「いつごろ解けるの?」
撫でるのをやめたフェイが問う。
それはどれくらいの強度なのかという問いだ。どのくらいの魔力を込めたかという意味でもある。
しかし。
「解けないよ」
「え?」
「固定化してるもん。解けないでしょ」
「固定化……」
さすがのフェイも呆然と鸚鵡返しに呟いた。
「うわー……。ユーリの固定化って、それってつまり一生あのままってことか」
固定化の魔法強度はイコール魔力である。ユーリを上回る魔力の持ち主がいるかといえば、いないこともない。ただ、その持ち主が魔法を解除するかどうかは別の話である。
「帰る前に寄れれば解除するけど、その余裕がなかったら仕方ないかなー」
いつもの界渡りのように、いきなり跳んでしまう可能性もある。そう、この世界に来たときのように。
「解除するつもりはあるんだ?」
「一応ね。でも解除できなくてもいいとも思ってる」
「ユーリにしては厳しいね」
「だって、あの人たち、商人を襲って金品を奪ってるだけならともかく、目撃者を残さないために皆殺しでしょ。おまけに女性には乱暴してたらしいし。許せる要素がどこにあるって言うの。殺すのなら、殺される覚悟ぐらいあるでしょ」
珍しくユーリの目が据わっている。
情報収集のときに街の女性から聞いてきた彼女は、そのときからすでに決めていたのだろう。
フェイはため息を吐いた。
「どうせ拘束するのなら、あの少年の意見を聞いてあげればよかったのに」
「アレク君の? 無理だわ。だって盗賊たちを捕まえたとして、引渡し先はどこになるの?」
「あ、守備隊か。確かにそれはダメだな」
今回の場合、守備隊は盗賊の仲間である、と彼らは推測していた。証拠がないので訴えることもできないが。
もしも守備隊が盗賊の仲間ではなかったとしても、今回ユーリたちは守備隊に被害を与えているわけではないので問題は起こらない。
「でしょ?」
「拘束して放置しか手段はないわけだ」
「そそ。フェイだったらどうする?」
「んー、僕なら石化かなぁ」
「あ、そっちのほうが簡単だったかもー」
ユーリは砦街のほうを向いたまま、悔しそうに呟いた。
すでに砦街も氷のオブジェも風景に紛れてわからなくなっていた。
後方で何があっても走り続けるようにと、御者をしているロルに言ってあったため、馬車は走り続けている。
非戦闘員が戦場の真ん中で無防備に立ち止まっても不利になるだけである。それはロルもわかっているようで素直に頷いた。
馬車のスピードが速すぎて誰かが馬車から振り落とされたとしても、ユーリとフェイがいれば助けられるので問題はない。
肉体強化の魔法がかかった馬は、おそらくは誰も見たことがない速さで距離を稼いだ。砦街の守備隊の物見も呆然としていることだろう。
「……すごい」
不意に甲高い声が響いた。
「凄い! 凄い! 凄い! 今の魔法ですよね? すごーい!」
目をキラキラと輝かせてユーリを見つめるのはキャシーである。
ユーリは困惑した。正直なところ、ドン引きものの派手魔法を使ったため、化け物と恐れられると思っていたのだ。
しかし、キャシーはもとよりイアンも興味津々の様子である。
ユーリは失念していたが、彼らは孤児で、クロードから剣の手ほどきをされて、冒険者になろうと思い立った子どもたちだ。つまり、祝福持ち以外の普通の魔法使いを見たことがなかった。
「あたしもあんな魔法使えるようになりますか!?」
興奮を隠さずに叫ぶキャシー。
ユーリはどう答えるべきか困った。
なにしろ、彼女は規格外なのである。存在も能力もそのすべてが。
困ったユーリに助け舟を出したのはフェイだった。
「魔法はね、魔力があればあるだけ好きなことができる。ユーリは魔力が多いから、できることも多いんだ」
「そうなんですか? でも、魔力ってどうやって調べるの?」
「専用の魔法具で調べるんだよ。確か冒険者ギルドに置いてあった。たぶん養成所にもあると思う」
「そっかぁ!」
キャシーの疑問に答えたのはイアンである。
100年前から変わっていないようだ、とユーリは密かに頷いた。
魔力だけでなくステータスは神殿か冒険者ギルドにある魔法具で調べることができる。無論、領主の館にもあるらしいが、誰もが使えるのは神殿かギルドだ。ただし、いくらかの料金が必要だと聞いている。
ステータスと念じればウィンドウが表示されるのは勇者特権で、ゆえに彼女は魔法具を使ったことはない。
「養成所の試験のときに調べられるんじゃないかな?」
「楽しみだね!」
「うん。でも、僕すぐにでも使ってみたいなぁ。魔法、教えてもらえませんか?」
イアンがユーリとフェイの顔を見比べながら言う。
キャシーもその隣で「あたしもあたしも」と騒いでいる。
ちなみにアリアの子どもたちは毛布を頭からかぶって眠っていた。
ユーリとフェイは顔を見合わせた。
そしてフェイが何かを言うより早く。
「あたしパス。教えるの無理」
人には向き不向きがあるのである。
ありがとうございました。




