「東の砦街か」
遅くなってすみません。もう1話書きたかったのですが、間に合いませんでした。。。
「東の砦街か」
セナンを出発した日の夕方、一行はサニエスタ王国の東端に着いた。
サニエスタ王国騎士団東守備隊が駐屯する砦を中心に広がった街で、特に街の名前はない。
こうした砦街は国境近く駐屯地には必ずあり、街の住人はほぼ守備隊の家族であるが、出入国者が利用するため宿屋など旅人用の施設も調っている。
そのおかげで彼らは2日連続でベッドで眠ることができるのだ。
1日ぐらいセナンでゆっくりするかと提案したのだが、クロードは一刻も早くタスバルに到着したいと言い、ロルはセナンは流通がいまいちなので見るべきものがあまりないと言い、結局一泊しただけで出発することになった。
タスバルまでの道程についての情報収集は、さすがにBランク冒険者というべきか、ユーリが寝ている間にクロードが済ませていたため異を唱えることもできず出発と相成った。
ユーリの本音はセナンをゆっくり観光したかったのだが、依頼人が進みたいと言うのであれば否やはない。『転移』ですぐに来られるという思惑もあった。
そのクロードが集めた情報によると、ロルが流通がいまいちと言うのも当然で、隣国からサニエへ行く商人たちは近年セナンを通らずに北東の砦街を経由するのだとか。
理由は東の砦街から見て南東の国境沿いにある森で、その森に盗賊が隠れていて通りかかった商人を襲うという事件が相次いだらしい。
東守備隊も討伐に躍起になっているが、盗賊たちは危険を察知すると国境の向こう側へ逃げて手出しができなくなるという有り様で、冒険者ギルドでも討伐対象として貼り出されているが、受ける冒険者はなかなかいないという状況のようだ。
北東の砦街は草原のど真ん中にあり、隠れる場所もないため、東より安全だというのが商人たちの言い分で。
全ての商人が北東の砦街を利用するようになれば、盗賊も利を求めて移動するだろうと思うのだが、今のところ変化はなく、商人のみならず旅人も襲われているのだそうだ。
フラグが立ったかなー、とユーリは心の中で呟いた。
宿屋にロルの妻子を残し、一行は街に散った。
ユーリは奥様方の井戸端会議に、フェイは守備隊の詰所に、ロルは商業エリアに、クロードは酒場に、そして子どもたちは子どもたちの遊び場に。目的は情報収集である。
当初アレクたちが参加することに難色を示したクロードだが、宿屋で待つようにという指示を嫌がったのは子どもたち本人だった。
何もかもを大人がお膳立てし、進むべきレールが敷かれている状態で、困ったことはレールから離れたところで大人が解決し、全てが終わってから知らされるというのが我慢ならないと。
気持ちはわからなくもない。ユーリも覚えのある感情だ。きっと誰もが通る道だろう。
どうせそのうちお膳立てをする側になるのだから子どものうちは甘えておけばいい、と今の彼女は考える。彼らも大人になれば、たぶん同じことを思うはず。
ユーリは決定権をクロードに丸投げした。大人とは面倒を回避したいのと同じくらい責任を回避したい生き物なのである。
結果、クロードはイアンとキャシーに言い負かされた。
余談だが、アレクは典型的な脳筋なので、論理的に相手を説得するという芸当はできない。
かくして日暮れをタイムリミットに、各人は街に繰り出したのだった。
情報収集の途中で盗賊に見つかって拐われる、という物語のお約束的なことは起こらなかった。様子を窺っていた盗賊に気づいて尾行してアジトを発見する、という都合の良いこともなかった。
クロードが酒場で酔っ払いに捕まって時間に遅れた程度で、無事に宿屋で再会した。
夕食のあと、クロードたちの部屋で情報交換をすることになった。ロルの妻子以外が集まり、ユーリが遮音の結界を張る。
以下同文になるとかわいそうなので、イアンたちから報告させた。
わかっていることでもかまわないと促すと、クロードの指示通り、遊びながら聞いたことを嬉々として話し出した。
東の森付近に盗賊が出ること、まだ捕まっていないらしいこと、街の外には出ないように言い含められていること、子どもたちは誰も見ていないこと、盗賊ごっこという遊びが流行っていること、だった。
その後、残りの報告が続く。
盗賊が狙うのは国境を通過する商人か旅人で、砦街か国境の向こう側に着けば追っ手は止まること、砦街内での盗賊行為は全くないこと、砦街の住人は森近くで狩りをしていても襲われたことがないこと、アジトが見つからないこと、森はもともとゴブリンの住処だったが数年前に守備隊が一掃してから盗賊が現れはじめたこと、守備隊が警備巡回をする日は現れないこと。
「守備隊の情報が筒抜けっぽいんだよね」
フェイが肩をすくめた。
「耳がいいんだな」
クロードは険しい顔で応じた。
「で、問題はどうするかだけど、あたしの希望は盗賊の出現ポイントを迂回して国境を越えることよ」
「迂回!?」
信じられないと言いたげにアレクがユーリを見る。
「そうよ。幸い順調に進んでいるし、3日ぐらいロスしても問題ないでしょ?」
「護衛の基本は危険を避けること。非戦闘員がいるなら余計避けるべきだね」
「ユーリさん、強いのに?」
ユーリに同意するフェイと疑問を口にするイアン。
彼女はクロードを見た。
「クロード、貴方は彼らに剣しか教えてないんだ?」
「……面目ない」
「責めてるわけじゃないよ。これから学べばいいんだし。そのためにギルドの養成所があるんだし」
「そうだな」
ユーリはイアンに向き直った。
「あのねー、護衛って強ければできるってものじゃないのよー。だって敵が何人いるかわからないじゃない? たとえばゴブリンが100体襲ってきたらどうする?」
「あ……」
「そのうちの1体が護衛対象を襲えば依頼は失敗。そして、死んだ人は生き返らない」
「……うん」
死を軽く見ているということはなさそうだ。孤児院の子どもたちだから親を亡くした子もいるのだろう。
「護衛の依頼を受けた場合は避けられる危険は避けるのが鉄則よ」
「わかった」
「という前提なんだけど、フェイ?」
「うん。北へ抜けるのは難しいかもしれない」
ユーリはフェイに話を振った。彼は笑顔で応じた。
「守備隊? 盗賊? 魔物?」
「どれもかな」
ユーリの問いかけも他者には理解できないが、フェイの答えもまた誰もわからなかった。
「ほうほう」
「守備隊の詰所で北へ抜ける話を相談したら、何人かいたんだけど、みんな物凄く慌てて。街道もないし、強い魔物が出るからやめた方がいいって」
「ええっ? じゃあ、駄目じゃん」
キャシーが叫ぶ。
しかし、慌てているのは少年少女だけだ。
ロルは困ったように、クロードは怪訝そうに、ユーリは面白そうにフェイを見ている。
「セナンのギルドにはそんな依頼は出てなかったが?」
「ええ。貴方から周辺情報は聞いていたので、セナンでも砦街でも魔物の話は聞いたことがないと告げたところ、これまた慌てて。恐ろしい魔物なので箝口令を敷いていると」
「箝口令? でもフェイに話しちゃったんでしょ?」
「僕もそれを指摘したよ。そしたら、また慌てて。誰にも言わないでって。ちなみに誰にも言わないからどんな魔物が出るのか聞いてみたらドラゴンだって。笑えるよね。我慢するのが大変だったよ」
「なるほどー」
クスクスと笑うフェイ。ユーリは苦笑した。
ドラゴンは厳密には魔物ではない。が、世間的には魔物ということになっている。一般人が近づかない方が良いことは確かなので、ユーリとしても訂正はしない。何しろ危険なのだ。
ドラゴンといってもピンからキリまでいて、一番格下のレッサードラゴンやワイバーンですらBランク以上の冒険者が数人がかりでやっと倒せるという有り様だ。上位になればなるほど知能が上がるので、話せばわかりあえるかもしれないが、強さも比例するため、怒らせれば一瞬であの世行きである。
「ドラゴン!? 大変じゃないか!!」
アレクが大声を上げる。
クロードは険しい顔で言った。
「そうだ。本当ならば大事だ。王都へ連絡して調査をし討伐隊を派遣してもらわなければならない。同時に周知徹底して近づかないようにしなければならないのに……」
「うんうん。一介の冒険者でもわかるのにねー」
「ユーリはいつ気がついた?」
「街の住人に被害がないって聞いたときかなー」
「俺もそれはおかしいと思った。だが、考えたくなかったんだろうな」
「……えっ? まさか……」
イアンが目を見開いて呟いた。3人の中では彼が頭脳派らしい。
ロルがため息を漏らした。
「つまり、この盗賊騒ぎには守備隊が一枚噛んでいるのか?」
「ええーっ!!」
アレクとキャシーが同時に叫ぶ。遮音の結界を張っておいて良かったと心底思うユーリだった。
「問題はどう噛んでるかなんだけど」
「できれば守備隊だけにしてほしいところだな」
「ホントにねー」
「街の住人まで噛んでるとは考えたくないな」
フェイ、クロード、ユーリ、ロルの順である。
アレクたちは驚きで声が出せない。
「考えてもわからないことは今は置いといて。やっぱり北に抜けたら追いかけて来そう?」
「うん。守備隊がくるか盗賊がくるかはわからないけど逃がす気はないんじゃない?」
「同感だ。商人がこの街を避けているなら稼ぎがなくて困っているだろう。こんな獲物を見逃すはずがない」
「獲物……」
ユーリの問いにフェイとクロードが答え、クロードの言葉にアレクが呆然と呟く。
「客観的に見るんだ、アレク。俺たちの中で成人男性は3人だ。あとは女と子ども。つまり、3人で足手まとい7人を連れていることになる」
「俺たちは足手まといじゃない!」
アレクの叫びにキャシーは頷いたが、イアンが止めた。
「アレク。今は赤の他人から見たら僕たちがどう見えるかって話をしてるんだ。実際僕たちは子どもだしね」
「イアン……」
アレクが泣きそうな顔でイアンを見る。
「今は子どもなんだ。冒険者にもなれないくらい。だけど、いつまでもこのままじゃない。そうだろ?」
「うん……」
「そうだよ、アレク。それに悔しいのはアレクだけじゃない。あたしたちだって同じ気持ちよ」
「……そうだな。いつか大人たちを見返してやろう!」
あと3年で大人を見返すチャンスが来るのかな、3年後には大人だけど、とユーリは思ったが空気を読んで口には出さなかった。
微笑ましい3人のやり取りを見て、クロードは一瞬笑みを浮かべ、厳しい表情に転じた。
「つまり、足手まといが多いということは行動が遅れるということで、盗賊側からすればつけこみやすいんだ」
「私たちは実際足手まといだしな」
ロルがため息を吐いた。
「北でも東でも襲われるなら、わざわざ遠回りして北に抜ける意味がないわねー」
「宿を伝えてきたから、このあと下で接触してきたら当たりかな」
フェイはにっこり微笑んだ。
「……フェイって嵌めるときはとことんやるよね」
「確認できることはしておかないと。ね?」
「確かにそのとおりなんだが……」
語尾を濁して苦笑いを浮かべるクロード。
「接触されたら魔法使いだって教えてあげて」
ユーリがそう言うと、フェイは目を瞠って驚きを示した。
「優しいなぁ。最後通告ってわけ?」
「優しいわけじゃないよ。無駄なことを避けたいだけ」
それが本音か否かは付き合いの長いフェイにも読み取れなかった。
実際のところ魔力の無駄遣いは避けたいので言葉通りなのだが。
「いいの。僕が優しいと思ったんだから、それでいいの」
さすがに恥ずかしくて頬を染めるユーリ。それを見て、さらに甘い顔で微笑むフェイ。
しびれを切らしたのはアレクだった。
「で、結局どうすんだよ?」
「どうって、馬と馬車で突っ切るしかないでしょ」
「国境を越えれば諦めるんだしね」
「あたしとフェイが魔法で妨害するからその隙に国境を越えてくれたらいいわ」
「僕たちは魔法に集中したいから馬車の荷台に乗りたい。馬はクロードに任せていいかな?」
「ああ。わかった。アレクと馬に乗ろう」
クロードも暴走するとすれば誰かわかっていた。走っている馬車から飛び降りるより、走っている馬から飛び降りる方が怖いし、躊躇うだろうという配慮だ。
案の定、
「ええーっ! 捕まえるんじゃないの!? 悪い奴らなんだろ?」
捕り物を期待したらしいアレクが異を唱える。
ユーリは肩をすくめ、フェイはため息を吐き、クロードを見た。
再び丸投げされたことに気付いたクロードは、どう説明するべきか頭を悩ませた。確かにユーリたちに依頼したのは御者代わりで、それ以外を求めるのは筋違いだとわかっている。だが、それでも少しぐらい手伝ってくれてもいいのではないかと恨みたくなる。
クロードの心の声が聞こえたのか、ユーリが軽く息を吐き出して言葉を発した。
「いいわよー。アレク君が捕まえたいなら好きにしてくれて」
アレクが満面に喜色を浮かべる。対してイアンは訝しげに眉を寄せる。
まったく良いコンビである。
「じゃあ、」
「ただし、あたしたちは手伝わないけどねー」
「え……」
アレクは目を瞠った。
何でそんなことを言うのかわからないと顔に書いてある。一方でイアンはやっぱりと頷いている。
「みんなに聞いてみようかなー? 盗賊を討伐したい人は手を挙げてー」
手が挙がったのはアレクだけだった。
「え!? なんで!? どうして!? だって盗賊なんだろ!? 悪い奴らだろ!? 何でダメなんだよ!!」
アレクの叫びに、しかし誰も頷かない。
「キャシー、イアン、お前たちまで何で!?」
「……だって、怖いんだもの」
「え?」
キャシーの答えを聞いたアレクはぽかんと口を開けた。
「だって、相手は何人いるかもわかってないんだよ? おまけに騎士団の人たちかもしれないんでしょ? だったら、凄く強いはずだよ! もしも負けたら? 死んじゃうんだよ! ……ううん。あたしたちだけなら自業自得で済むけど、キアちゃんやジス君まで巻き添えにできないよ! 守りながら騎士団の人を相手に戦うなんて、それで絶対負けないなんて言う自信ないよ……。逆にアレクは怖くないの?」
アレクは息をのんだ。
「僕もキャシーの言うとおりだと思う。それに相手が強い人だと手加減できないから殺しちゃうかもしれないし。僕はその覚悟がまだできてないってのもある」
イアンの言葉に、アレクは目に見えて青ざめた。
ありがとうございました。
ちょっと切れ目が中途半端かなあと思いながらも、ここで切ります。




