第069話 合縁奇縁
「はぁはぁ……げへへっ!ざまあみろってんだ!ガハハハハハハッ!」
「よう!ごきげんじゃねぇか?なんかいいことでもあったか?」
「!!?……へっ!?な、なんでお前がここにいるっ!?死んだんじゃぁ……」
「遅ぇよぉ~、ったく! 待ちくたびれちまったぜっ!……四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!い、痛ぇ!てぇ!てぇ!てぇ!てぇ!痛ぇ!……
ご想像通り!俺たちは転移で脱出してきたのである。
囚われていた3人の女性たちを転送ターゲットに指定するまでの時間はノアハが稼いでくれた。そう…覚えたばっかりの反重力場を生成して俺たちを押し潰そうとしていた大きな岩等々の落下を防いでくれたのだ。
彼女は、瞬時に状況を分析して最善だと思われる方法を考え、即座に実行した。 俺に判断を仰ぐことも、躊躇することもなく実行したのだ。大したものである。
そして、その彼女の行動は俺がシールドを展開するよりも早かった。脱帽だ。
そのお陰で俺は、女性たちの奴隷契約を解除し、隷従の首輪を消して、衣服等を装着させた上で彼女たちを転送ターゲットに指定する……という時間的な余裕さえ持つことができた。
ノアハの分析、判断、決断、躊躇ない実行!たまらんなぁ!惚れ惚れするぜ!
え?翠玉は落盤が起こったときにどうしたか?だって?
彼女は咄嗟に身を挺して……女性たち3人の上に覆い被さって彼女たちを庇おうとしていたよ。俺とノアハはそれぞれ自分たちで切り抜けられるに決まっている。
だから、まず女性たちを救わねば……と考えたのだろうな。
いくら極薄シールドを身に纏っているとはいえ、身を挺してまで他人を救おうとできるとは……翠玉にも惚れ惚れするぜ!二人ともさすがは俺のハニーたちだ!
そんなわけで今、俺たちは洞窟の入り口前の空き地にいる。その場所に野営用のテントを設置して、その外で俺は男をずっと待っていた。
なお、ノアハと翠玉、そして、助け出した3人の女性たちは現在入浴中だ。
俺が男に遅いと言ったのは本心からだ。実際、落盤を引き起こした盗賊のボスが洞窟から出てくるまでにはちょっと時間がかかり過ぎていた。
ボスは大きな荷物を背負っているので、恐らく、徒歩でも持ち運び可能な金目のモノをかき集めていたのだろう……。
「バカな男だ!
しかし、嘗められたもんだなぁ……。あんな落盤で俺たちがどうにかなるわけがねぇだろう?」
……痛ぇ!てぇ!てぇ!てぇ!てぇ!痛ぇ!てぇ!てぇ!……
「このままサンドワームの餌にしてもいいんだがなぁ……取り敢えず修復」
「はぁはぁはぁはぁ……ま、参りやした……ど、どうかもうご勘弁を……」
「正直に言えよ?ここの他にはてめぇらのアジトはねえんだな?」
「は、はい。ありやせん」
「そうか。ところで、あの3人の女性たちはどこから攫ってきたんだ?」
「攫ったと言うよりも拾ったに近いんでやすよ。空からものすっごくでけぇ葉巻が地面に落ちてきやしたので何事かと見に行きやすと……すげぇ勢いで燃える巨大な葉巻の側であのすっげぇ美人3人が倒れていやしたんですよ」
巨大な葉巻?……形から想像してパッと思い浮かんだのは飛行船である。
しかし、この世界に飛行船を作るテクノロジーを持った国があるのかぁ?
いや、多分、別の何かだろうなぁ。そうだ。そうに決まっている。
「他に生存者は?」
「すぐにおっ死んじまいやしたが、他にも14、5人ばかりが燃えながらのたうち回っていやした。全身が火達磨で男か女かも分かりやせんでした……」
威圧しながら……
「てめぇたちが殺したんじゃねぇだろうな?」
「ひぃぃぃぃぃっ!ち、ちげぇやすよぉ! し、信じて下せえ!」
嘘ではなさそうだ。
「その事故はいつ起こった?」
「あの大地震のすぐ後でやんした。昨日の夕方、まだ完全には日が沈んではおりやせんでした」
「その現場はここからは遠えぇのか?」
「いえ。この森を抜けた先にある草原でやす。
興味があるんでやんしたら、なんなら今からご案内しやしょうか?」
『それでは案内しろ』と言いかけたときにテントの中からノアハ、翠玉、助けた女性たち3人が揃って出てきた。
「ダーリン。彼女たちの話を聞こうとしたのですが、言葉が通じません」
「会話能力を持つ魔物たちが使う言語でもないようです。私にも彼女たちが言っていることが理解できませんので」
ノアハと翠玉が順に、彼女たちとは言葉によるコミュニケーションが取れないと告げる……。
俺や管理助手たちは自動翻訳機能のようなものが標準装備だ。だから多分、俺は彼女たちと会話ができるはずだ。
「俺はシンだ。よろしくな」
「あなたは私たちの言葉が話せるのですかっ!?よかった。私はトフルです……」
と言った直後である。その女性の顔に驚きの表情が浮かんだ……
「はっ! う、上様!? ははあーーっ!」
「えっ!?う、上様!」「ええーーっ!?」
3人の女性たちは一斉に跪き……胸の前で手を組み、頭を垂れる。
「ほおぅ? 俺が誰だかすぐに分かるとはなぁ。愛いやつらよのう……。
あっ!跪かなくてもいいぞ。普通にしていいからな。さあ面を上げてくれ!」
「「「はいっ!失礼しますっ!」」」
女性たちは立ち上がるとキラキラした目で俺を見つめている。
て、照れるなぁ。
「あー。この子たちは俺の嫁なんだが、この子たちの言葉がお前さんたちには通じねぇって言っているんだが……お前さんたちは一体……」
「私たちは魔族です。私は先ほども申しましたが、トフルと申します」
「私はリクラです」
「スサクです。ああ……なんということでしょう!上様!
ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。神子に選ばれたときからずっといつかお目にかかりたいと思っておりましたが……つ、ついに念願が叶いました!」
「え?お前さんたちは魔族なのか?しかも神殿神子だって言うのか?」
そういえば、風呂上がりだというのに彼女たちの肌は少々青白いな……。
あ?そうだった!ステータス画面で確認すりゃぁよかったんだな!
彼女たちの種族くらいは一発で分かるよな。どうも未だに慣れねぇなぁ……。
「はい。そうです。お目にかかれて光栄です!私たちはみんな、ずっと上様の后になることを夢見てきました! ああ……なんという幸運なんでしょう!
あの男たちに捕まって奴隷にされたときには絶望しましたが、まさか、こうして上様にお助けいただけるとは……。ああ……上様ぁ……」
感極まったかのように3人とも目にいっぱい涙を溜めて俺の方を見つめている。
「はっ!?も、申し訳ございません!お礼を申し上げるのが大変遅くなってしまいました! この度は私どもをお助け下さりありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
「しかし、なんだってこの国に?」
「はい。実は……」
女性たちの話と彼女たちの魂の履歴に記録されている映像によれば……
彼女たちは魔族の国であるハオインガック東南部にある大都市、アクナスターの神殿神子であることが分かった。
しかも、なんということか!彼女たちは后候補最終選考落選者であったのだ!
彼女たちは首都、ホイングルムにある中央神殿からの呼び出しを受けて飛行船で首都へと向かって飛び立ったのであるが……
飛び立ってすぐにシオン神聖国の男数人にハイジャックされてしまう。
男たちは警備の神殿騎士を殺して彼等に成り済まして乗船していたのだ。
シオン教徒たちめ……どこにでも湧いて出てきて悪さをしやがる!
しかし、まさか魔族に飛行船を建造できるだけのテクノロジーがあるとはなぁ。
他のヒューマノイド種族よりも数段科学技術力が勝っているじゃないか……。
後々このテクノロジーの差が問題になってこなければいいのだが……。
ハイジャック犯は、彼女たちに同行していたアクナスターの市長を人質に取り、北西方向、首都へ向かっていた進路を変更させて、南、このアウロルミア神国へと向かわせた。
ヤツらの目的は神都エフデルファイの神殿横に建てられている建造物に飛行船を突っ込ませることであった。そう、その建造物とは俺たちが住むマンションだ。
全く困ったクソ野郎どもだなっ!
シールドが常時展開されているから飛行船ごときが突っ込んでも全く問題ない。
結果は明白だ。ただ飛行船が大破するだけ。それで終わりである。
彼女たち3人は捕らえられ、他の乗務員たちと一緒に飛行船のコクピットの隅に集められ、座らされていた。全員がロープ等による拘束は受けていなかった。
市長と船長の二人は、ロープで縛られて他の者たちからは離され、コクピットの操縦席近くで拘束されていた。
ハイジャック犯はシオン教徒たちだ!しかも全員が男である!
そう!シオン教徒の男どもはみんなクソクズ野郎ばかりだ!そのクソ野郎どもが彼女たちにちょっかいを出さないわけがない!
飛行船のコクピットを制圧して一息ついたシオン教徒の内の幹部3人が、今度は下卑た笑いを浮かべながら女性たちを舐め回すように見始める……
そして、最初に俺の后候補だった女性たち3人を凌辱しようと客室へ引っ張って行こうとしたのだ!
く、クソ野郎がっ!許せん!
既に死んじまっているのだが、蘇生させてボッコボコにしてから再びぶっ殺してやりたい衝動に駆られる。
絶対にヤツらの魂は"奈落システム"へぶち込んでやると誓った!
その時である。シオン教徒たちにスキが生まれた……
捕らえられている者たちは全員が大人しくしている。だから、彼等が自分たちに逆らうことはないだろうと勝手に思い込んでいたらしいこと、女性たちを凌辱することだけに執心していて注意力が散漫になっていたことからスキが生じたようだ。
オスとしての欲望を満たすことばかりに意識が向かい、油断したのである。
彼女たちが客室へ連れ込まれ暴行されると悟った船長と市長、全乗務員が、ほぼ同時に捨て身で行動を起こす……そう、偏に彼女たちを助けるためだ!
彼等はこの世界の魔族担当管理助手であるシズからある厳命を受けていた。
それは、俺の后になることがほぼ確定している3人の神子たちを何が何でも守り抜けというものであった。
その『守る』という意味には彼女たちの貞操も含まれていた。俺の后になるかも知れない大切な女性たちだからということがその理由らしい。
ごく普通の魔族であっても、ランクSの人族魔導士が有する魔力容量のおおよそ100倍の魔力容量を生まれながらに持っている。そして、この世界では、魔法の威力は魔力量にほぼ比例すると言っても過言ではない。
彼等は生まれながらにほぼ全員が、全属性の魔法を使えるチートな種族である。
だから、たとえ人族のランクS魔導士であっても、単に魔法威力だけを比較するとしたら、魔族の赤ん坊にすら敵わないのだ。
魔族はなぜか普段あまり他種族との交流を行わない。
そんなこともあって、シオン教徒たちには魔族に関する詳細なデータが不足していたのかも知れない。
あるいは知っていても犯人たちが単にバカなだけだったのか……
ヤツらは致命的なミスを犯す。
当初市長の首に短剣が突きつけられていたために、万が一を考えて乗務員たちは手出しができなかったのだが……
男どものおもちゃにされるために3人の女性たちが目の前で引きずられていこうとしていることに気を取られた監視役の男が、間抜けなことに短剣を市長の首から離してしまったのだ……下半身で物事を考える大馬鹿者である。
これがヤツらの油断から生じたスキである。
事態は一瞬で逆転し、決着する……
ハイジャック犯のスキを見て、市長と船長が監視役の男たちに体当たりしてその側を離れると、乗務員たちがシオン教徒たちに向かって一斉にウインドカッターを放ったのだ! それでお終いだった。呆気ない。
こうして、3人の女性たちの……いや、飛行船に同乗していた全女性たちの操は守られたのである。
だが、ここで問題が発生する。
ある乗務員が犯人に向けて放ったウインドカッターが、犯人の身体を両断しても勢いが収まらず、コクピットの操縦席付近を直撃して大ダメージを与えてしまったのである。それによって飛行船は制御不能となってしまったのだ。
いくら魔族であっても、魔法で飛行船を修復することはできない。
人体の他、魂や魔石を持つ者の修復は魂や魔石にその設計データが含まれているために修復神術・修復魔法による修復が可能である。
だが、物の修復ということになると話は別である。正確な設計図が神術・魔法の発動者の頭の中に無いと修復は不可能なのだ。
当然管理システム内にあるデータベースにレプリケーターをリンクさせる権限を持っている俺や管理助手であれば、設計図が頭の中に入ってなくても簡単に修復や生成が行えることは言うまでもない。
修復に必要なデータはレプリケーターに接続されているデータベースが保持しており、しかも、この世界で新たな"物"が作られると、即座に管理システムが構造を解析してレプリケーター用にデータ化してデータベースに登録している。
つまり、データベースにはこの世界のありとあらゆる物が登録されている……
だから、俺や管理助手たちは頭の中に設計図が無くとも、一切苦労することなく簡単に、物の修復や生成が可能なのである。
「四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!てぇ!痛ぇ!てぇ!てぇ!てぇ!……
俺とハニーたち、そして、3人の女性たちが、女性たちの魂の履歴に記録されていた映像に夢中になっているのを見て、盗賊のボスがそろりそろりとこの場を離れようとしたのだ。
「俺は間抜けなシオン教徒とは違うぜ。てめぇには逃げ場はねぇよ……この世界のどこにもな。はははははっ!……修復……そこで大人しくしていろ!」
魂の履歴に記録されている映像を見ている最中の出来事だったため、ついつい、飛行船を乗っ取ったシオン教徒たちとは違うという意味で言ってしまったのだが、盗賊のボスにはなんのことだかサッパリ分からなかったのかも知れない。
彼は荒い息づかいで首を傾げている。何を言われたのか理解できないようだ。
取り敢えずボスをロープでグルグル巻きにして口には猿ぐつわを噛ませて転がしておく……。
さてと……その後飛行船はどうなったんだろうな……
制御を完全に失ってしまった飛行船はこの岩山がある森の近くまでやって来る。
そして、ちょうどそのタイミングであの大地震が発生した……というか実際には自然に起こったのではなく、シオン教徒の手によって引き起こされたのだが……。
すると森の中から鳥たちや魔物たちが一斉に飛び立ち……
その森から飛び立った魔物たちの中にいた一匹のレッサードラゴンが飛行船へと向かって飛んで来て、飛行船が大地震を引き起こしたのだと勘違いしたのか執拗にファイヤーボールを放ったのだ!
飛行船は硬式飛行船で、水素ガスが入ったガス袋は船体構造と分離されていた。 船体内部がいくつかのセルに分かれており、そのセル単位毎に1つずつガス袋が収められていた。
初めのうちは、レッサードラゴンが放つファイヤーボールを船体外皮が弾き飛ばしていたのだが、十数発目のファイヤーボールが、ついに葉巻状の船体外皮を突き破って船体内部のガス袋にまで到達してしまったのだ!
ガス袋の中は水素ガス……たちまち爆発的な燃焼が巻き起こり、それは瞬く間に他のセルへと連鎖し始めたのだ。
燃えさかる炎に包まれた船体は浮力を失い、地上へと自由落下を始める。
全員が死を覚悟した。当然彼女たち3人も同じだった。
「上様。不思議なものですね……死を覚悟した瞬間でしたが、幼い頃の思い出からごく最近の出来事まで、映像が頭の中をすごい勢いで流れていきました」
なんか聞いたことがあるな。走馬灯のように思い出が巡るとかなんとか……そういった類いのものなのかな?
彼女たちが助かったのは偶然ではない。 船長と市長が彼女たちを助けたのだ。
船体が炎に包まれると落下を予測したのか船長が、高威力のファイヤーボールをコクピットの壁に目がけて放ち、それを吹き飛ばし……
市長がつむじ風を発生させて3人の神子たちを包み込み、そのまま船外へと逃がしたのである。その時には既に船体は地表近くまで落下していた。
3人の神子たちはつむじ風に包まれながらソフトランディングできた……いや、市長が己の命を捨ててまで彼女たちを安全に着地させたのである。
その直後に大炎上しながら飛行船は地表に激突し、なんとか死を免れた者たちも燃えさかる炎に包まれてその命を失ったのであった。
3人の神子たちは間一髪で救われた。船長と市長が彼女たちを救ったのだ!
◇◇◇◇◇◇◇
「修復!からのぉ~蘇生!……そして、飛行船を完全修復!」
俺たちは盗賊のボスに案内させて飛行船の墜落現場へとやって来た。
たった今、シオン教徒のハイジャック犯たちを除く魔族全員を蘇生させ、彼等が乗ってきた飛行船を完全修復し終えたところだ。
もちろん、ハイジャック犯であるシオン教徒たちの魂はすべて"奈落システム"へ放り込んでやった。
当然だ!シオン教徒ども!地獄を味わうがいい!
「市長、船長。俺の大事な神子たちを救ってくれてありがとうな!」
二人は蘇生されたばかりだからなのかボーッとした顔で俺を見ている……
「はっ!?う、上様!?ああ……。あの世というのは本当にあったのですね……」
「おいおい市長さんよ。お前さんたちは死んでねえよ。
って言うか、死んだんだけど俺が蘇らせたんだ。だから、みんなちゃんと生きているぜ、死んじゃいねぇし、ここはあの世じゃねぇよ」
船長は今漸く蘇生されたということを自覚したのか……
「え?死者となった我々を蘇らせて下さったということなんですか?」
「そうだ。俺の大切な神子たちの命を救ってくれたしなぁ。お前さんたちみてぇな良いヤツらを死なせるのはもったいねぇからな」
「ああ、上様!ありがとうございます!ああ…我が神はなんと偉大なんだ!」
大袈裟だよなぁ……なんか居心地が悪いぜ。
神子たち3人と市長、船長、そして、飛行船に同乗していた者たちは再会を喜び合っている。
◇◇◇◇◇◇◆
『シズ。聞こえるか?』
『はい。ダーリン。聞こえます』
俺の魔族担当助手のシズが神子たちのことを心配しているといけないから、取り敢えず連絡しておこうと思ったのだ。
『あのさあ……スサク、リクラ、トフルって神子たちを知っているだろう?』
『はい。存じております。ですが、実は彼女たちが行方不明になりまして……』
『ああ。知っている。今ここにいるぜ』
『え!?ええーーっ!?どうしてそちらに?神国ですよね?』
シズはマップ上でスサクたちを捜していたらしいのだが、捜索対象を魔族の国に限定していたために見つけられなかったらしい。
まさか神国まで来ているとは想像だにしていなかったのだろう。
『そうだ。実はな。彼女たちが乗っていた飛行船がシオン教徒たちにハイジャックされちまってなぁ……』
『え? はいじゃっく?ですか? すみません、意味がちょっと……』
そうか……この世界には該当する言葉は存在しないから、翻訳されずにそのまま伝わったのか。
『えーと……飛行船が武装したシオン教徒たちに乗っ取られたんだ。
それをハイジャックというんだ。覚えておけよ』
『はい。勉強になります。それで彼女たちは無事なんでしょうか?』
『ああ。全員が無事だ。彼女たちはなぁ……』
シズに対して事件のあらましを説明した。
『……なるほど。なんという偶然なんでしょう!
ああ。よかった!ダーリン、彼女たちを助けて下さってありがとうございます!
実は彼女たちは后候補最終選考に落ちた者たちなんです。ダーリンからの要請で中央神殿に来てもらう途中だったのです』
『ああ、知っているよ。彼女たちから后候補最終選考に落ちたと聞いたからな。
こうして俺自身の手で彼女たちを助けることができたというのも、彼女たちとは少なからぬ縁を感じるぜ』
一村雨の雨宿り……。一樹の蔭一河の流れも他生の縁……。
袖の振り合わせも五百生の機縁……。行き摩りの宿世……。
ついでに……縁は異なもの味なもの!縁とは不思議なものだよなぁ……。
『不思議なものですね?』
『そうだな。神である俺が不思議だというのもアレなんだがなぁ……ははは』
『それで……彼女たちは后になることを望んでいますか?』
『いや。聞いてねぇよ。さっきも話したが、盗賊に捕まっているのを助けたり……色々あったんでなぁ……』
『后候補最終選考の際、彼女たちはダーリンの后になることを強く望んでいましたので、聞くまでもないかも知れませんけど……』
『そうなのか?』
『はい。それで……彼女たちはこれからどうすると言っていますか?
私としましては、彼女たちの良さをよく知ってもらうためにも、こちらへお越しいただくまでダーリンと行動を共にして欲しいと思っているんですが……』
『ちょっと待ってな。今聞いてみる』
スサク、リクラ、トフルは熱に浮かされたような目をしてこちらを見ていた。
こっちに来て欲しいと手招きをすると、みんな嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あのさあ、今シズと話をしているんだがな。お前さんたちはこれからどうするか知りてぇらしいんだよ。だから、これからどうしてぇのか教えてくんねぇかな?」
「上様の后になりたいですっ!」「私も!」「私もですっ!」
へっ?そういうことじゃないんだけどなぁ……
「い、いや。そうじゃなくて、魔族の国の中央神殿に市長たちと一緒に行くのか、それとも俺と行動を共にしてぇのか……っていうことを聞きてぇんだよ」
し、しまった!こう聞いたら答えは多分1つだ。
「「「はいっ!上様とご一緒したいですっ!死ぬまで一緒に!」」」
ああ……やっぱりだ……聞き方を間違えた。
ラノベやアニメなんかで出てくる魔族をついイメージしてしまうからなのか……
魔族ってクールなイメージだったんだが、彼女たちはかなり……熱いな。って、類型論的思考か……これは。
そう。魔族だからこういう性格だ……という決めつけた見方は、血液型性格診断くらい非科学的で、非論理的だ。
俺としたことが……バッカみたいだ。ははは。
「そ、そうか。分かった。でも……
実は今、俺たちはあるダンジョンを攻略中なんだが、コイツがちょっと厄介なダンジョンでな。女性を凌辱しようとする魔物がうじゃうじゃ出てくるんだよ。
それでもお前さんたちは一緒に来てぇのかい?」
「はい!もちろんです!それに、上様が守って下さるんでしょ?」
スサクがそう聞く……
他の二人は俺の返答を不安そうに待っている。
「ああ。それはもちろんだ。もちろん守ってやるし、お前さんたちを加護して俺の庇護下に置こうとも思っているよ」
彼女たちの顔に笑顔の花が咲いた。彼女たちは頬を染める……
もともとが青白い肌の色だけになんとも形容しがたい不思議な光景だ。
「「「ご一緒したいですっ!!!」」」
3人とも俺の顔の前にズンッ!という音でもしそうなくらいの勢いで自分たちの顔を近づけて言った!すごい圧だ!顔が触れそうなくらい近い……
「そ、そうか……じゃ、じゃあこれからよろしくな」
「「「はい!よろしくお願いします!」」」
3人は手を取り合ってピョンピョン跳ねながら、満面に笑みを湛えて喜び合う。
『シズ。聞いての通りだ。彼女たちは暫く俺が面倒をみるから安心しろ。
あ!市長たちはどうする?飛行船に乗せて一気にそっちへ転送してやろうか?』
スサクたちの希望を聞く前に、シズと3人の神子たち、そして、俺、5人に念話回線を繋げておいたのだ。だから、俺とスサクたちの会話の内容はすべてシズにも聞こえていた。
『そうですね。市長たちには別件で話もありますから……そうしていただけますと嬉しいです』
『分かった。すぐに転送してやるからな。そうだなぁ……神殿上空に転送するぞ?それでいいかい?』
『はい。お待ちしています』
『よし。分かった。それじゃぁな!』
『はい。お手数をおかけします。では、失礼します』
シズとの念話回線を切った。
市長や船長、乗組員等にこれからハオインガック首都、ホイングルムの中央神殿上空に送ってやることを説明し……彼等の準備ができたところで転送してやった。
◇◇◇◇◇◆◇
魔族の飛行船をホイングルムへと転送させた後すぐにスサク、リクラ、トフルの3人を加護し、俺の庇護下に置いた。
もちろん、ハニー装備一式もプレゼントしてある。
彼女たちはさすがは魔族である!
彼女たちの魔法のレベルはすべてがMAXであったので、神術のレベルはすべてMAXにしておいた。その点だけは他のハニーたちと異なるところだ。
彼女たち3人はいきなり、神術のレベルだけはノアハを越える神術使いとなったのである。
そう、レベルだけは……である。
3人は3人とも攻撃魔法も含めて全魔法レベルがMAXであったにも拘わらず、飛行船がハイジャックされた時、シオン教徒たちから凌辱されそうになっても自ら彼等に攻撃を加えることはできなかった。
戦い慣れていなかったからなのかも知れないが、所謂宝の持ち腐れ状態だったと言える。
彼女たちには攻撃神術の行使の仕方から教え込まないとダメなのかも知れない。
戦わずして済むのであればそれに越したことはないのであるが……
シオン教徒どもが世にのさばっているこの現状においてはリスクマネジメントの観点からも、彼女たちには攻撃神術の使い方や敵との戦い方を教えておかなければならないだろう。
ダンジョンに戻ったら、新ボラコヴィアの新統括神官となったリガーチャと共に彼女たち3人も重点的に鍛え上げることにしよう。
◇◇◇◇◇◆◆
さて、新しく冒険者パーティーメンバーが増えたのは良いが、問題はハニーたち同士のコミュニケーションをどうするかだなぁ……
ん?あれ?念話でもダメなのかな?一応、試してもらった方がいいな。
「ノアハ。ちょっと」
「はい。なんでしょうか?」
「魔族の子たちと念話で話ができるか試してもらえねぇかな?」
「ああ、なるほど。やってみます」
ノアハは念話で話しかけているのだろう、まるで石化されてしまったかのように固まっているように見える。
「ダーリン、大丈夫です!念話ですと会話可能です!」
「そうか!よかった! ならば暫くの間は、念話でお互いにコミュニケーションを取ってもらうことにしようかな。ありがとう、ノアハ」
「はい。新しくピチピチギャルハーレムメンバーになった彼女たちと会話ができることが分かって嬉しいです」
えっ?そ、そういう認識なのか?そうなのか?
まあ……3人も嫁になることを望んでくれているようだし、元元その場合は俺の嫁になってもらうつもりでいたんだから、そう思ってもらっててもいいかな。
我がハーレムは加速度的に拡大していく……
◇◇◇◇◆◇◇
「さあ、今度はてめぇをどうするかだよなぁ……どうして欲しい?」
盗賊のボスへ質問した。ヤツの答えは聞くまでもない……。
「ど、どうかお慈悲を!もう二度と悪い事はしやせんから、お許し下せい!」
やっぱりそう言うだろうな。
魔族の女性たち…もうハニーたちと言ってもいいかもなぁ…と結果的に巡り会うことができたのは、コイツら盗賊が村を襲ってきたからなんだし、もしもコイツが、
『覚悟はできましたどうぞ処刑して下さい』
とでも言ったのなら、助けてやる検討だけはするつもりだったんだがなぁ……
……って、まあ……検討するだけで結果は結局同じなんだけどな。ははは。
「ダメだな。てめぇだけを助けたらサンドワームの餌になったてめぇの手下たちに悪ぃし……それにてめぇが襲った村人たちとも約束してきたからなぁ。
てめぇもキッチリと手下たちが待っているサンドワームの巣に送り届けることにするぜ」
「ひぃぃぃぃぃっ!ど、どうかご勘弁を!お願ぇしやす!どうかっ!」
この男の魂の色はほぼ真っ黒だ。情けをかける必要など全くない。
「あ、そうそう。ひとつ言い忘れていたんだが……
てめぇたちは死んだらそれで終わりじゃねぇからな。覚悟しておけよ。
死んだ後は地獄行きが決まっているからせいぜい苦しんで消え去るがいいぜ。
それじゃぁな!あばよ!あーははははははっ!」
「た、助けておくんなせいっ!どうか……」
「転送!」
「ぎゃっ……」
盗賊のボスは絶叫しようとした瞬間、転送されて行った。
転送先で待つサンドワームたちの腹の中では、ヤツの部下たちが待っていることだろう。
◇◇◇◇◆◇◆
一旦村へ戻った後、すぐに俺たちは新しい仲間となった魔族の女性3人を連れて新ボラコヴィアの神殿へと戻った。
「あーーっ!?ダーリンがまた新しい嫁を連れて来たっす!」
「処置無し。女好きのダーリンに付ける薬はない」
まあなぁ……こうなるだろうとは思っていたが、ジーとウェルリには参った。
ノアハと翠玉が俺の隣で苦笑いしている。
魔族の女性たちは……って、もう今後はハニーと呼ぶことにしたぞ!改めて……
魔族のハニーたちは『新しい嫁』と言われたのが嬉しかったのか、満面に笑みを湛えながら、両手で頬を挟むようにしてもじもじくねくねしている。
元元が青白い肌なので、頬はピンク色と言うよりも薄い赤紫色になっている。
「ああ、そうだ!紹介しよう!この女性たちは魔族だ!
3人とも神子で俺の嫁になってくれる予定だから、今後はこの子たちもハニーと呼ぶからみんなよろしくな!」
ウェルリたちの顔には『え?冗談かと思っていたのに本当にそうなの?』という表情が一瞬浮かんだ。
「そ、そそ、そうっすか。よ、よろしくっす」
「△&!%$&※……」
「彼女たちの言語は理解不能」
「ぜ、全然何言っているか分からないっす……」
「ああ……魔族語はお前さんたちエルフでも理解不能か。なるほど。
それじゃぁ、みんな!彼女たちとは念話で話をするようにしてくれ。
念話なら会話できるはずだからな」
「念話での会話は成立する。理解可能」
「わぉっ!本当っす!すっげぇっす!」
他のハニーたちは順に念話で新しいメンバーとなった魔族のハニーたちと挨拶を交わしている。
「あらあら、シン、お盛んね?
さっきリガーチャさんを嫁にしたかと思ったらもう新しいお嫁さんなの?
しかも3人も。信じられないわ。
スケべぇの権化ね……って、元元神だから権化って表現はおかしいのかな?
でも……分かるでしょ?私が言いたいことは? なんか最っ低ぇ……」
ユリコは言いたいことだけいってぷいっと横を向いて俺から離れて行った。
そうだよなぁ……俺自身だってなんか信じられないもんなぁ……。
マルルカにマイミィ。リガーチャにスサク、リクラ、トフル。この二日間だけで6人も嫁が増えたことになる。まぁ、ダンジョン攻略が終わってからという話にはなってはいるが俺のことだ……マルルカもマイミィも恐らく嫁にするに違いない。
その後野営用テントの部屋数を増やす拡張工事を行い、新しい仲間たちも含めてみんなでテント内の食堂で遅めの昼食をとることにした。
それはゆっくりと昼食をとりながらの団欒の一時であった。
みんなとのおしゃべりを心ゆくまで楽しんだ後、今度こそ何事も起こらず本当にダンジョンへと戻ることができた。
なんか色々なことがあったなぁ……。
俺たちが転移してきた場所はダンジョン内第7階層のボス部屋の前室である。
俺たちがいない間にボス部屋内で何らかの変化が生じている可能性も考えられたのでそうした。リスクマネジメントだ。
ボス部屋へと通じる扉は開いている。
念のために以前と同じように俺だけが中へと入ってみた。
その直後に扉は閉じられたが、暫く待ってみたがロイヤル・ミノタウロスは現れない……。
この間にハニーたちもこの部屋に転送しようかと思ったが、なぜか気が進まないのでもう少しだけ様子を見ることにしたのだが……ロイヤル・ミノタウロスは現れない。
俺たちがこのダンジョンに転移してくるほんの少し前に、他の誰かがロイヤル・ミノタウロスを倒して先に進んだんだろうか?
そんなことを考えていると漸くロイヤル・ミノタウロスたちが出現した。出現の仕方は先ほどと変わらない。戦ってみたが戦った感触も同じだった。
ロイヤル・ミノタウロスどもを、同時に放ったウインドカッター10発で一気に仕留めてからボス部屋の内部を改めて調べてみると……
ボス部屋の地面に墓標がごとくロングソードが突き刺してある。俺たちがここを出るまではなかったものだ。
その墓のような場所からは虚数空間内の魂へと伸びる紐のようなものが出てきているから間違いなくそこには死体が埋まっている。
土属性魔法で、遺体があった場所を遺体と一緒に陥没させて、適当に土を被せただけのようなお粗末な埋葬の仕方だ。
死者に対する思いが何も感じられず、やっつけ仕事のようにして作られたとしか思えない。
埋葬されている者のことが気になり調べてみると……
この場所に埋葬されている死者の魂の色は"ブルー"であった。善人ということになる……そして、それは19歳の女性だった。
こんな雑な埋葬方法なら魔法を使って数秒で完成ってところか……。
一緒にいたヤツらはこの子とはあまり親しくない者たちだったか、それとも余程先を急いでいたのかなぁ……。
こんなところで死んで、しかも、こんな雑な埋葬のされ方とは……。
かわいそうだなぁ……取り敢えず蘇生させてやろう。
そして、事情を聴いてみることにしよう……
土属性の神術で墓を掘り起こす……
こういうときに神術のありがたさを痛感する。
掘り起こされた墓から出てきた女性の遺体は見るも無惨!バラバラだった!
思わず戻しそうになるのを必死で堪え……
「修復!と完全浄化!からのぉ~、蘇生!」
「う……ううう…ん……」
先ほどまで死者だった女性が息を吹き返す……




