第068話 新ボラコヴィアの新統括神官
震災翌日の朝、新ボラコヴィア。
朝食用として町の人たちにはミックスサンドを2つにコーンポタージュスープ、バナナ1本をワンセットにして袋詰めし、計5000セットを配布した。
全員を神殿敷地内に集めて配布するのではなく、各町内会の自治会長を通じての配布だ。高齢者たちや幼い子供たちに神殿まで足を運ばせるのも気の毒だし、皆を並ばせて順に配布するのも非効率だからそうしたのだ。
この国の庶民の一日の食事回数は、朝・昼・晩の三食ではなく、朝と夕の二食が一般的らしいが、今日の夕食以降は各自で用意してもらう。
俺たちがする食糧支援はこの朝食までだ。
それで大丈夫かと思うかも知れないが……
大型ショッピングセンターに食料品から衣服、生活雑貨等々、生活に必要となる商品を大量に生成して供給し、それらは、通常よりはかなり安い価格で購入できるようにしてある。
そして、この町の大人と子供、男女の区別なく全員に、見舞金として各人が当面生活していけるだけの一定の生活資金を提供してあるから、この町にいて、贅沢な生活を求めるのでなければ、不自由なく暫く生活できるはずだ。
だから、大丈夫なはずだ。
弱者や子供たちの見舞金が詐取されたり、親や力のある者たちによって流用されないかという可能性についても問題ない。
その点については、各自治会長には子供や弱者の見舞金が詐取されたり、不当に流用されないようにしっかりと監視するように言い含めてある。
だがそれだけでは多分不十分だろう。だから全員の、何らかの行動を起こそうと思った時に呼び出されるイベントに、行動を監視して他者の見舞金の勝手な流用はできないようにするイベントハンドラが割り当ててある。
本当は、そんなことをしようとするヤツは、灰になりながら霧散するようにしてやるつもりだったんだが、そのためにはナノプローブが大量に必要となることからそれは断念した。残念だ……。
新ボラコヴィアの人たち全員に念話を繋げて、以上のことは詳しく伝えてある。
悪徳領主は俺が成敗したので、この町は自分たちで守っていかねばなるまい。
この町を警備しているのは今までも神殿騎士のみだったから特に影響はないかも知れないが、念のため警備用の騎士型ゴーレム500体を生成し、この町の神殿の命令に従って行動するようにプログラミングして要所に配置しておいた。
要所とは、この町の東西南北にある門や神殿、浄水場等の重要施設のことだ。
これでこの町から俺たちが離れても大丈夫だろう……
◇◇◇◇◇◇◇
いよいよダンジョンへ戻ろうかと思ったときである。
この町の神殿関係者の全員がぞろそろとやって来た。そして、その先頭を歩いていた男が口を開く……
「いひひひひっ、上様。私奴が新しく統括神官になりましたグルガーと申します。
この度は町をお救いいただき誠にありがとうございました。
今後はこの私奴が上様からお預かりしているゴーレムを指揮し、この町を守っていきますのでどうぞご安心下さいませ」
そうだ。その問題が残っていた。新しい統括神官を決めなければならなかった。
この男、グルガーはだめだ。魂の色はオレンジ色。こんなヤツに任せるわけにはいかない。ゴーレムの指揮権を渡したら何をやらかすか分かったモンじゃない。
「俺は許可した覚えはねぇぞ?なに勝手なことを言ってやがるんだ?」
「え?わ、私奴がこの町の神官ではナンバー2でしたので、次は私奴が統括神官になるのが順当でしょう?それが筋ってモンじゃないですか?」
な~んか慇懃無礼な態度だなぁ。気に食わん。
「それは誰が決めた?」
「だ、誰がって……そういうものでしょう普通は?ねぇ、みんな!?」
そう言うとコイツの後ろに控えていたこの町の神官たちに同意を求める……
神官たち神殿関係者は困ったような顔をして俯いてグルガーとは目を合わせないようにしている。
俺は神殿関係者全員の魂の色を見ている……
この男以外は、最も悪い色でもグリーンだ。他はみんな善良な者たちと言ってもいいだろう。
ん?ひとりだけ魂の色が"スカイブルー"の者がいる。
25歳の女性で名前はリガーチャ……すごい美人だなぁ。この世界で出会う心の綺麗な人たちはみんなすごい美人ばかりだ。
心の色と美人とは何か相関関係でもあるのだろうか……。
いずれにせよ心の綺麗な者に統括神官を任せるのが一番間違いないだろうから、この子に統括神官になってもらうことにしよう。
「グルガーよ、統括神官をやる気になっているお前さんには悪ぃんだがなぁ……、お前さんに統括神官を任せるわけにはいかねぇんだよ。悪ぃな、諦めてくれ。
次の統括神官はもう決めてあるんでなぁ」
「え!?そ、そんなのは横暴だ!私奴以外、誰ができると仰るんですか!?」
威圧する。
「なにぃ?俺の決定には従えねぇって言うのか?てめぇ……死にてぇのか?」
「ひぃぃぃぃぃっ!……め、滅相もございません。し、従います!従います!
そ、それで誰を次の統括神官になさるおつもりですか?」
「リガーチャ。前へ」
リガーチャはひどく驚き、そして、当惑しているようだ。
俺はリガーチャの方を真っ直ぐに向いて、その目を見つめながら手招きする。
「リガーチャ、お前さんだ。こっちへおいで……。お前さんをこの町の新しい統括神官に任命する。引き受けてくれ!」
「え?ええっ!?わ、私がですかぁ!?無理!無理!無理!無理!無理ですぅ!」
「ね!?ほらぁ、本人もああ言っていますし、あんな女じゃ絶対に無理ですって。荷が勝ち過ぎます!ですからここはやはり私奴が……」
「だ・ま・れ!」
「ひぃぃぃぃぃっ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
強烈に威圧してやったのだ!
神殿関係者に聞く……
「みんなは知っているよなぁ? この子は心が優しく綺麗な人間だってことを」
全員がうんうんと頷く。
「俺はそんなお前さんになってもらいてぇんだよ。ダメか?」
「わ、私は初級治癒神術しか使えませんし……」
「治癒神術が初級だからって統括神官ができねぇ理由にはならねぇだろう?」
「う、上に立つ者の能力が低いというのは組織をひとつにまとめるための吸引力に欠けるというか……能力の高い方々がきっと不満に思うんじゃないでしょうか?
自分より能力が低い者が偉そうに指示するのは面白くないでしょうから……」
「なーんだ。そんなことか?ならばお前さんの能力が高けりゃ問題ねぇんだな?」
「それに……私、人見知りなんです。人と話すのが苦手で……」
まあ、それは自分に自信が持てて、場数を踏めばなんとかなるだろうな。
立場が人を作る……ってこともあるし、な。
「あのな。まず能力の件だが、それは大丈夫だ。俺がお前さんを加護して庇護下に置くからな。攻撃神術から上級治癒神術まで使えるようになるぞ」
「え!?わ、私は上様のお嫁さんになるのですか?」
ああ……なんでなんだ!
"俺が加護して庇護下に置くこと=嫁にする"という式でも世間に出回っているのだろうか……。
「いや。なんでそうなるんだよぉ?
加護して俺の庇護下に置くだけだぜ? 嫁になれとは一言も言ってねぇぞ?」
「そ、そうですかぁ……で、ですよね~、私なんかじゃ無理ですよね……がっかりですぅ。ちょっと期待しちゃったなぁ……とほほ」
リガーチャは肩を落としてうなだれた。
なんかごにょごにょ言っていたが、最後の方の言葉がよく聞き取れなかった。
「お前さんのような美人で心がすっごく綺麗な人が、ここの統括神官になってくれたらここに来るのも楽しみになるんだけどなぁ……引き受けてくんねぇかなぁ?」
リガーチャの顔に笑顔の花が咲く……
「そこなんっすか!?ダーリン、そういうことっすか!?
リガーチャさんが綺麗だから、結局口説いているんっすね!?」
「ぎるてぃ!嫁にするための準備行為と断定!」
ウェルリとジーだ。どうやら誤解しているらしい……。
「そ、そんなつもりは一切ないぞ!この町の統括神官になって欲しいだけだ!」
「一切ないっ!?がはっ!……しょんぼり……ぐっすん……うう……」
リガーチャが大ダメージを食らったかのようにその場に崩れ落ちた。
顔色は真っ青だ。そして、肩を落として泣き出す……。
「あーっ!リガーチャさんを泣かせたっす!ダーリン、酷いっす!」
「鬼畜の所行!期待を持たせて突き放す、鬼!」
「へっ?な、なんで?なんか酷ぇことを言ったのか、俺は?」
「ダーリン、神官や神子を目指している女性というのは皆、ダーリンと契りを結ぶことを夢見ているのですよ。
それなのに嫁にするつもりは一切ないとは……とても残酷ですわ」
「へっ? ザシャア、そうなのか? 信仰と恋愛は別じゃねぇのか?」
「みんなダーリンの嫁になりたいって思ってますよぉ~。当たり前ですぅ」
ソニアルフェの言葉に、ここにいる女性たちがすべて大きく何度も頷いている。
こ、これはやっちまったな……マズい!
「い、いや、『そんなつもりは一切ない』と言ったのは、なんつうかぁ……言葉の綾だ。そう!言葉の綾だぜ!
こ、こんな美人で心が綺麗な女性を嫁にしたくねぇヤツなんていねぇよ。
世の男どもはみ~んな彼女に惚れちまうに決まっている!そうだろう?
そんなリガーチャにはもうきっといい人がいるに決まっているじゃねぇか。
そこへ俺が嫁にしてぇと言ったら、リガーチャが困っちまうだろう?
だから、敢えて……敢えてだ!俺の嫁になる必要はねぇとハッキリ知ってもらうためにああ言ったんだよ。
うん、そうだ!そうだとも!」
「えー!?とってつけたかのようっすね!本当っすかぁ?怪しいっす!」
「そう。姑息」
「姑息って……ジーよ、俺は一時凌ぎで言ってんじゃねぇよ!本心だ!」
「それで、シン、本心はどうなの?
彼女をハーレムメンバーに加えるつもりはあるの?それともないの?」
ユリコの言葉に"惚れっぽい人仕様"の基本システムが……
「そ、そりゃぁ、嫁になってくれるんなら嬉しいぜ。こんなに魅力的な女性なんだからなぁ」
リガーチャの顔に希望の光が差す。
「だが、まだ知り合ったばかりなんだぜ?
男の俺はいいけどよ、女性は貞操を要求されるこの男尊女卑の世界だからなぁ、彼女にはよく考えてから結論を出して欲しいんだよ」
「あのね、シン。人を愛する気持ちって考えてどうこうなるようなことだと本気で思っているの?ダメねぇ……こういうことはパッションよ!」
確かに、論理で結論が出る問題ではないな……。
「まだ知り合ったばかり…って、オークドゥのように一目会った瞬間に恋に落ちることだってあるでしょ? あなた、言っていることがナンセンスよ。違う?」
うっ!そう言われると返す言葉もないな……。
しかし、ユリコの言葉遣いも俺と一緒で、昭和生まれの臭いがプンプンするな。
「確かに……そうだな。リガーチャ、俺に遠慮するこたぁねぇから本心を聞かせてくんねぇかなぁ?俺の嫁になりてぇのかい?」
「は、はいっ!子供の頃からの夢でした!
それに今回、上様のお姿を拝見してますますその思いが強くなりました!
お嫁さんになりたいですっ!」
リガーチャの目はキラキラ輝いている。
ユリコが肩をすくめながら目を瞑り、首をゆっくりと左右に振りながら……
「これでまたあなたの……なんだっけ、ピチピチギャルハーレムだっけ?
そのメンバーが増えるわね。良かったじゃないの」
「ユリコさん、違うっすよ。
リガーチャさんは25歳っすから、ピチピチじゃないっす!」
「ぐはっ!……」
ウェルリの言葉がリガーチャの心にクリティカルヒット!
リガーチャが落ち込む。
「そう。ピチピチじゃない」
「う、ぐはっ!……」
ジーの言葉がリガーチャの心に追い打ちをかけた!
リガーチャのライフはもうほとんどゼロに近い。まるで口から魂が抜け出そうに見えてしまう。
「そうかぁ?俺はリガーチャはちょうどいいくらいにピチピチだと思うけどなぁ。すっごく魅力的だぜ」
リガーチャのライフが一気に回復したかのように元気になる!?
「リガーチャさん、そのままがいいのでしたら別ですが……。ダーリンから加護を授けられる際に若返らせてもらってはいかがでしょうか?」
「え?そ、そんなことがお出来になるんでしょうか?」
リガーチャの目がらんらんと輝く!
「ああ。それがいいっすよ。それでピチピチになれるっす」
「そう、名実ともにピチピチギャルハーレムメンバー」
「あ……ああ。できるよ。ただし、生娘に戻っちまうけど」
「だ、大丈夫です!私はヴァージンですからっ!」
「そ、そうか……それならそうしようか。今のお前さんが放つ大人の女性の魅力も捨てがたいんだがなぁ……」
「え?……」
リガーチャに悩む表情が浮かぶ……だが、それは一瞬だった。
「わ、若返らせて下さい!お願いします!」
リガーチャは両の拳を固く握り、力がこもった言葉を発した。
俺は気圧されてしまう……
「お、おおぅ……わ、分かった。希望通りにしよう」
リガーチャの顔にこれでもかっ!……というくらいの笑顔の花が咲く!
一度は片付けた野営用のテントを再び出してその中でリガーチャにハニー仕様の加護を授け、俺の庇護下に置いた。完全修復により彼女は16歳に若返った。
リガーチャは他のハニーたちと談笑している。彼女は満面に笑みを湛えている。
ああ。もちろん、ハニー装備一式を彼女にプレゼントしたのは言うまでもない。
この後、彼女を鍛えるために一緒にダンジョンに連れて行くことにした。
リガーチャには当面、この町の統括神官をしてもらうつもりだ。彼女には毎日、俺たちのもとから転移で通勤してもらう。
神殿騎士数名と、ゴーレムとミニヨンをそれぞれ数体、彼女の護衛として付けるつもりではいるが、彼女にもある程度は強くなってもらわないといけないと考えている。
だから、暫くの間はダンジョンの第7階層ボス部屋のロイヤル・ミノタウロスを
相手に神術等々の練習をしてもらう。
他のハニーたちは練習、及び、実戦経験を積んだことでかなりレベルアップしている。個人差は当然出てきているが、全員がハニー仕様のステータス初期値よりもかなりレベルアップしている。
いずれリガーチャにも他のハニーたちと連携攻撃等を行う機会があるだろうが、今のままだとレベル差が問題となりかねない……
それゆえダンジョン第7階層ボス部屋では彼女を鍛えることが最優先だと考えている。
しかし、統括神官を決めるだけのつもりだったのに……、
なんか知らんけどいつの間にか嫁がひとり増えてしまった。
どうしてこうなったのか……???だ。
ん!?次の統括神官になるつもりでいたグルガーが不服そうにリガーチャを睨みつけているぞ!?憎憎しげに見えるな。不服を言うわけでもないが……どうも気になる態度だなぁ。
こういう輩は絶対に何かしてくるだろう……。
リガーチャや他の神殿関係者に何かちょっかいを出してくる前に手を打っておく必要がありそうだな。
「グルガー、お前さんは不服があるんじゃねぇのか?」
「ど、どうせ不服を申し立てても、私奴が統括神官になることはないんでしょう?
でしたら、誰がなろうと一緒ですし、言っても無駄なんですから言いません」
「そうか……後で何か言っても一切聞かねぇぞ、それに……」
威圧する。
「妙な気は起こすなよ?妙な気を起こすと……殺すぜ。
容赦はしねぇからな。覚えておけよ。これは脅しじゃねぇ。分かったか?」
「ひぃぃぃぃぃっ!わ、分かりました!分かりましたとも!」
信用はできない。
『ナノプローブを転送注入。何らかの行動時に呼び出されるイベントに……』
そう。いつものように、イベントハンドラをイベントに割り当てて、己の欲望に従って他者に危害を加えたり、他者の金品を占奪しようとした場合は、灰のようになりながら霧散するようにプログラミングしておいた。
「リブート!」
グルガーがまるで糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちそうになるのを"見えざる神の手"で支える……
「……はっ!?な、何が起こったんだ?」
「お前さんが何か良からぬ事を考えると灰になって死ぬようにしてやったんだ。
だから、くれぐれも妙な気だけは起こすなよ。確実に……死ぬぜ」
グルガーは逃げるようにこの場を去って行った。
その日の夜グルガーは、ボラコヴィアの神殿、統括神官の執務室に忍び込もうとしたようだが……彼は執務室に忍び込む前に一瞬で灰になって霧散してしまったのだった。その様子は警備のミニヨンがすべて記録していた。
◇◇◇◇◇◇◆
時を元に戻そう……グルガーが去って行った直後だ。
「あのう……私たちはこれからどうしたらいいのでしょうか?」
シオン教徒の女性たちだ。
「どうしたらいいって、お前さんたちはどうしてぇんだい?
シオン神聖国に帰りてぇってんなら転送してやるぜ」
「シオン様への信仰心が揺らいでしまいましたし、使命を果たせなかった私たちがこのまま国に帰ったら待っているのは死だけです。
他に行く宛もないですし、一体これからどうしたらいいのか……」
「この町に住んでもらってもいいが、問題はどうやって収入を得るかだなぁ」
彼女たちはプロパティ等を調整して一般的な町娘程度のステータスにしてある。 魔導士として生きてきた彼女たちには手に職もなく、このままでは多分苦労することになるだろう。
それに、彼女たちが元シオン教徒だったことは知れ渡っている。普通の職業には就けないと思った方がいいだろう。
この町の人々の役に立つような仕事に就いてもらうことで人々に受け入れられるようにお膳立てしないといけないな……そうしないと彼女たちは孤立して最後には野垂れ死にするようなことにもなりかねないからなぁ……。
さて、どうしたものか……人々の役に立つ仕事で……元魔導士かぁ……
そうだ!彼女たちには医師に……というか人々の怪我や病気を治す治癒神術師になってもらおう!
「どうだい?この町の神殿で治癒魔法師というか、治癒神術師として町の人たちの健康を守る仕事をするってぇのは?」
「え?でも……ご存じの通り私たちはもう一切魔法が使えないのですが……」
「ああ。だから、治癒系神術が使えるようにしてやろうと思う。
ただし、女神シオンへの信仰を捨てる必要はねぇけど、形だけでも俺を崇拝するふりをしてもらう必要がある。じゃねぇと格好がつかねぇからなぁ。ははは」
「こ、こんな私たちにまでお慈悲をお垂れ下さいますとは……うう……」
「どうだい?魔導士だったお前さんたちには向いている仕事に思えるんだがなぁ?
それに、この町には治癒系神術使いが少ねぇからお前さんたちがなってくれると助かるんだがなぁ。やってくれねぇかなぁ?頼むよ」
「た、頼むだなんて恐れ多いです。こちらこそお願いします。そして、ありがとうございます。本当にありがとうございます!」
徳を以て怨みに報ゆ……憎っくきシオン教徒ではあるが、彼女たち12人の魂の色は悪くない。徳を以て報いてやることの方がきっといいだろう……。
町の人々も初めは敬遠するかも知れないが、彼女たちが献身的に取り組んでいくことで、そのうちにきっとみんなは彼女たちを受け入れてくれるだろう。
彼女たちのプロパティ等を編集して、治癒系の上級神術のみが使えるようにすることにした。治癒系神術なら、たとえ悪意を抱いても攻撃には使えないだろう。
まぁ……魂の色から判断する限りにおいては、万が一にも彼女たちが悪意を抱く可能性はないとは思うんだがな。
今日、ここに国内でも神都に次ぐ規模の大治癒院が誕生した。
数年後、他の町や外国から治療に訪れる人々によって落とされるお金がこの町の貴重な収入源となっていくのである……。
◇◇◇◇◇◆◇
なんだかんだでお昼近くになってしまった。
さあ、今度こそ本当にダンジョンに戻ろうと思っているところに逼迫した状況に置かれているのか、緊迫感が漂う念話が届く……
『神様!た、助けてーーっ!お願いです!助けてっ!』
マップで確認するとこの新ボラコヴィアの西方10kmほどの位置にある村から発信された念話であることが分かった!
どうやら50人ほどの盗賊らしき集団に襲われているようだ!
「ハニーたち!俺はこれから盗賊に襲われている村へ助けに行く!
ノアハ!翠玉!一緒に来てくれ!
シェリー、指揮を執ってこの町を守ってくれ!
オークドゥ!ハニーたちを頼む!守ってやってくれ!」
"はいっ!"
ノアハと翠玉が俺に抱きつく……
「それじゃぁ、行ってくる!……転移!」
◇◇◇◇◇◆◆
"ひゃっほほほーーぃっ!""ガハハハハハハッ!"
"きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!””うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……"
「家に火を放てっ!女子供を逃がすなよ!男どもは皆殺しにしろっ!」
目の前に繰り広げられているのは盗賊たちによる蹂躙!
人口200人ほどのこの村はおおよそ50人ほどの盗賊たちによっていいように踏みにじられている!
「翠玉!敵のボスを生きたまま捕まえろ!」
「はっ!」
<<全知師!
魂の色が赤以下の悪者たちをターゲット指定しろ! 急げ!
>>承知!
魂の色による検索を開始……検索完了!
ターゲット指定開始……ターゲット指定完了!
次の指示を待機!
<<よし!後はこっちでやる。ありがとう!
「ボスを確保しました!」
「よし!翠玉、良くやった!そいつを連れてここに戻ってくれ!」
「はっ!ただちに!」
「ノアハ!これから盗賊たちを中央にある広場へ転送して、シールドで覆うから、烈火の壁で焼き尽くせ!」
「承知しました!」
「転送!」
「転送を確認!……烈火の壁!」
とまあ……こんな感じであっさりと盗賊たちを殲滅した。
ボスを生きたまま捕らえたのは、コイツらのアジトへと案内させるためだ。
その前に生存者を村の中央広場へと転送してからすべての火災を消火し……
その後、焼けた家を修復して、盗賊たちに殺された者たちをすべて蘇生させた。
「ああ……我らが神よ。ありがとうございます!私は村長のルルメイです」
「ああ。酷ぇ目に遭ったなぁ?全員助かっているか確認してくれ」
「はい」
村長のルルメイは後ろに控えていた村人たちの方に向き直り……
「誰か行方不明になっている者はいないか?」
みんな首を横に振っている。大丈夫なようだ。
「この野郎!ぶっ殺してやる!」
ひとりの村人の男がバットくらいの大きさと太さの木の棒……こんぼうを右手に握りしめて、盗賊のボスの方へと殴りかかってきた。
俺は男が振り下ろすこんぼうを右手で弾いて言う……
「待て!お前たちが怒るのはもっともだが、コイツにはアジトへ案内させる必要がある。だから手を出すな!いいなっ!」
盗賊のボスに殴りかかってきた男は唇を真一文字に結び、その目はボスの顔を睨み付けている。そして、その身体はわなわなと怒りに震えている。
「と、盗賊のアジトなんてどうでもいいじゃないですかっ!コイツをぶっ殺させて下さい!お願いします!」
「あのなぁ……アジトへ案内させるのには2つの理由がある。
1つは、攫われた女子供がアジトに捕まっているかも知れねぇからだ。捕まっていたらすぐに助けてやるつもりだ。
そして、2つ目はコイツらの仲間がまだ残っているかも知れねぇからだ。残っていたら、すべてぶっ殺し、コイツらを根絶やしにするつもりだ。
だから、コイツをここで殺させるわけにはいかねぇんだよ。分かったか?」
「ん……ぐぐっ……くっそう!わ、分かりました」
「おお、そうか。すべてが終わったらコイツはサンドワームの餌にしてやるから、心配するな」
「へっへっへっ!誰がアジトの場所を白状するかってんだ!バーカっ!」
「おのれぇーーっ!上様に向かってなんという無礼な!四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!
「あ、ノアハさんに先を越されてしまいました。ダーリンをバカにしたコイツには私も報いを受けさせたいです。
ですから……修復!……そして、己の愚行を思い知れ!四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!…………
盗賊のボスは絶叫するがすぐに気絶してしまった。
「修復!」
ベグシャッ!ブシューーーーッ!……ゴロンゴロン……ゴロン。
"きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!"
ああ……またやっちまった……
盗賊のボスの身体を元に戻したが、まだ気絶していたので頬を軽くはたいて目を覚まさせようとしたのだが……やりすぎた。
ボスの顔は頭蓋骨が陥没しながら潰れ、ちぎれ飛び地面を転がったのだ!
頭がもげたあと一瞬の間を置いて吹き出したボスの血であたりは血の海になっている。村人の女性たちからは悲鳴が上がった。彼女たちは顔を両手で覆っている。
「う、上様……私たちに殺すなと仰ったのに……殺しちゃったんですね?」
「あ、ああ……つい力の加減を間違えちまったぜ。は・は・は……」
さっきこんぼうを振りかざした男から指摘されてしまった。
「修復!からのぉ~蘇生!」
"おおおぉぉぉぉぉーーっ!""き、奇跡だ……"
村人たちから尊敬の念がこもった感嘆の声が上がる。
さっきも殺された村人たちを蘇生させてやったんだがなぁ……バタバタしているときだったから村人たちには理解できなかったのかな?
「はぁはぁはぁ……」
「てめぇのアジトには攫ってきた者たちはいるのか?あ、嘘を言っても分かるから正直に答えた方が身のためだぜ、いいな?」
「ああ……いねぇよ……」
嘘である。バカなヤツだ。
「四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇようっ!
「嘘は通じねぇって言っただろう?バカが!……修復!」
「はぁはぁはぁ……い、いやす。いやす。女を3人捕まえてありやす。じょ、上玉ばかりだから正直に言うのがもったいねぇと思っちまいやした。はぁはぁ……」
「上玉?それじゃぁ、手は出してねぇんだな?」
「ああ……もちろんでやす。商品価値が下がりやすからねぇ……げひひひ」
「女性を商品だとぉ!?ふざけるなっ!四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇっ!
「修復。……やいクソ野郎!それじゃぁアジトに案内してもらおうか?」
「はぁはぁはぁ……ああ、分かりやしたよ。ちゃんと案内しやすよ。
だから、そのししなんちゃらってのはやめてくだせぇ~。頼みやすからさあ」
「ああ。てめぇが素直に案内すればやらねぇよ。さあ、案内しろ!」
◇◇◇◇◆◇◇
盗賊のボスに案内されたのは先ほどの村の北5kmほどの位置である。
深い森の真ん中にある岩山の麓にアジトがあるらしい。
岩山の麓にはちょっと見では分からない洞窟がある。その中がアジトであった。
アジトにはまだ盗賊が10人ほど残っていたが、一々片付けるのは面倒なので、すべてをターゲット指定して、サンドワームの餌にしてやったぜ。はっはっはっ!
「て、手下の者たちは一体どこへやったんで?」
「ん?気になるか?お前さんもすぐに仲間のもとに送ってやるから心配するな」
「え?そ、それはどこなんでやす?」
「砂漠地帯にあるサンドワームの巣の中だよ。今頃はきっとサンドワームの腹の中だろうがなぁ。ははは」
盗賊のボスの顔は真っ青だ。ガタガタ震えてもいる。
「さあ、女性たちのところへ案内しろ。分かっているだろうが、妙な気は起こすんじゃねぇぞ?」
「わ、分かっておりやすって!も、もうあの痛みは懲り懲りでさぁ。
ほら、あそこでさぁ。あの岩陰に牢がありやす。その中に3人ともおりやす」
岩陰には確かに牢がある。
そして、その中には隷従の首輪を嵌められた素っ裸の女性が3人座っていた。
俺とノアハ、そして、翠玉が女性たちを助けるために急いで牢の中へと入ると、盗賊のボスは牢の外で立ち止まった。
そして、俺たちが囚われている女性たちに気をとられているのを見て……
盗賊のボスはサッと身を翻して洞窟の出口方面へと走り出し、少し距離を置くと地面にあった突起物を蹴り倒したのだ!
次の瞬間……
ガラガラガラガラ……ズッドーン!、ガゴーンッ!ドガッ!ガラゴロガラ……
牢の前にある通路部分の天井が突然轟音と共に崩れ落ちてきた!
「ガーハッハッハッハッハッハァーーッ!死ねっ!」
俺とノアハ、翠玉、そして、3人の女性たちは洞窟内にある牢の中に生き埋めにされてしまったのだった。
タッタッタッタッ……
盗賊のボスらしき足音が遠ざかっていく……




