第020話 復讐のもくろみ
「……出会いに乾杯!」
今夜の夕食は……バイキングではない!
マンションの住人はもちろん、新しい仲間たち、農家の面々、そして、神殿関係者も全部招いて、全員でバーベキューを楽しんでいる。
神殿と植物プラント群との間にはちょっとした広さの空き地がある。
今そこには、10台のバーベキューコンロが設置されており、肉の焼ける美味しそうな臭いがあたりに漂っている。
住宅街でのバーベキュー。
やっている者たちは楽しいのだろうが、近隣住民にはたまったものじゃない。
煩いわ臭いわ……ひんしゅくモノである。
それが原因で殺人事件が起こってしまうことさえある。
街まではここからかなりの距離がある。だから、騒音も、臭いも心配ない。
問題はこの神殿施設で暮らしている人たちだ。
バーベキューパーティーを快く思わない人が"ひとりでも"いるのであれば、やめようと思っていた。
ダメで元元!ここに住んでいる全員に、バーベキューパーティーに参加しないかと打診してみることにした。
俺に気を使って、本当のことを話せないかも知れない。気の進まない宴会に参加する苦痛は、俺自身がよく分かっている。
だから、本心を言っているのか、心の声を確認しながら全員に聞いていった。
……そうしたらなんと!嬉しいことに、全員からバーベキューパーティーに参加してもよいとの返事がもらえたのだ!
みんな、即答だった。同意を躊躇う者も全くいなかった。快諾である。
よかった!関係者全員でバーベキューパーティーをすることができる!
これは、親睦を深めるよい機会になること間違いない!
「無くなればどんどん追加するからな!どんどん食べてくれ!」
酒の類いは用意していない。
小さな子供もいるし、若い女性たちもいる。
神殿関係者には禁酒をしている者もいると聞く……。
それに、楽しい酒を飲む者ばかりではないだろう。
くだを巻いて周りを不快にする者もいるかも知れない……。
そう考えて、酒を出すのはやめたのだ。
「あ、そこっ!生肉を掴んだトングで、焼けた肉を皿に取るのはやめておけ!
腹痛になるぞ!」
実際には、レプリケータで加工肉を生成しているし、神術で念のために浄化してからみんなのところに持って行っているので、細菌が繁殖する可能性は、ほぼゼロ
といってもいい。
だが、レプリケータが生成する肉以外を焼いて食べる機会もあるだろう。
その時に備えて、ちゃんとトングを使い分ける"クセ"を付けてもらった方が良いだろうと思ったから、あえて注意した。リスクマネジメントだ!
そういえば、こっちにもカンピロバクターって細菌は存在するのかな?
あれは怖いからなぁ……。
おおっ!ソリテアの家族と、西部開拓を目指していた獣人たちが楽しそうに盛り上がっている。 農業談義に花が咲いているようだな。
よかった……人族と獣人族、互いに敵意でも持っていたらどうしようかと思っていたが、その心配は無いようだ。
特にシオン神聖国によって同胞を虐殺された過去を持つ獣人たちが、人族を快く思っていないんじゃないかと、気になっていたが、俺の取り越し苦労のようだ。
ははは。キャルとシャルもにこにこしながら、他の子供たちと一緒に楽しそうに肉を頬張っているぞ。頬がはち切れんばかりに膨らんでいる。かわいいな。
年の近い子供もいるから、その子たちとは友達になれたのかな?
キャルはおしゃまさんだから、他の子たちと話が合うのかなぁ?
そのうち、みんなキャルのようにおませになったりして……。
は・は・は……。
「シンさん。飲み物です、どうぞ」
「おう!シオリちゃん、ありがとう!
ちょうど今取りに行こうと思っていたところなんだ……。
おっ!なんで俺が緑茶を飲みたいと思ってるのが分かったんだ?」
「なんとなく……です。緑茶でよろしかったですか?」
「ああ、本当にちょうど飲みたいなぁと思っていたところだったんだぜ。
まさかまた念話回線が開きっぱなしじゃないよな?」
「ははは。大丈夫ですよ。ダダ漏れになってませんから……」
「ははは。いやぁ~でもさすがはシオリちゃんだなぁ。ありがとうな」
「いえ」
「どうだ?バーベキューを楽しんでるか?」
「はい。このような食事も楽しくていいものですね」
「そうだろう?じゃあ、これからもちょくちょくやることにしょうかな?」
「はい」
俺とシオリが話しているの見て、ヘルガとカーラ、スケさん、カクさんがやってくる。明日の予定について相談したいようだ。
今夜はさすがに何事も起こらないだろう……と考え、神殿騎士たちにも持ち場を離れる許可を出してある。
彼等も、このバーベキューパーティーを大いに楽しんでいるようだ。
スケさんもカクさんもここにいる。
まぁ、彼女等は近衛兵?というか近衛騎士?みたいなものだから、いつも我々の側にいてくれるのだが……。
「ヘルガ、カーラ、お前さんたちの実家はどうだろう?
ここへ来てくれると思うか?」
「そうですわね……果樹園が軌道に乗っていますから、収入については問題ありませんので、移住を渋るかも知れませんわね。
私の家族は領主様の小作人なんですが、果樹園の植物の所有権は持っておりますので、果樹園の植物を土も一緒にまるごと持ってこられるとしたら、こちらに来るかも知れませんわね」
「なるほどな。じゃぁ、希望したら果実園ごと全部持ってくるとするか」
「えっ?そんなことができますの?」
「ああ、できるよ。
亜空間倉庫に入れて持って来てもいいし、ここへ直接転送してもいい」
「さ、さすがですわね。神様は偉大ですわ。バッチグーですわ!」
「は・は・は……。それじゃぁ、カーラのところはどうだ?」
「うちは昨年跡取りの兄が亡くなってしまいまして、今は、父母と兄嫁、そして、兄夫婦の4歳になる双子の女の子たち……と5人が一緒に暮らしていますが……。
男手が足りなくて大変苦労しているようなんです。
ですから、できれば無理にでもこちらへ連れてきたいと思っています」
「そうか、植物プラントなら労力はあまり必要ないから、十分やっていけるだろうからな。こっちへ来てくれるように説得しような」
「はい」
「スケさん、カクさん、明日も同行してもらっていいか?」
「はい。もちろんですわ」「もちろんお供致します」
「心強いぜ。頼むな!」
「「はいっ!」」
「本当はシオリちゃんにも同行して欲しいんだけどなぁ……。
そうすると、この中央神殿の方がちょっと心配だし……。
さゆりにここを任せるわけにもいかないし、やはり難しいなぁ……」
「はい……。そうですね。
……それでは、明日はさゆりさんを連れて行ってはいかがでしょうか?
この世界に慣れてもらうためにもよいのではないでしょうか?」
「なるほどな。それじゃぁそうするか」
「うーん、そうだなぁ、カーラの実家の方を先に行って、その後、ヘルガの実家へ行くとするかな。
どうだ、ヘルガ?カーラ家族のところから俺たちが帰るまで、こっちで待機してもらえねぇかな?」
「はい。分かりました。こちらでお待ちすることにしますわね」
「じゃぁ、まず、俺とさゆり、カーラ、スケさんにカクさんで先にカーラの実家に行って、こっちに戻った後、俺とさゆり、ヘルガ、スケさん、カクさんでヘルガの実家に行くことにする。みんなよろしく頼む!」
"はいっ!"
さゆりが、ソリテアと話をしているのが見える。
チラリとさゆりがこちらを見たので、こっちへ来るようにと手招きした。
さゆりはソリテアと二言三言言葉を交わした後、走ってこちらへ向かってきた。
「シンさん、何でしょか?」
「明日、ちょっと出かけるんだが、俺たちに同行してくれねぇか?」
「はいっ!喜んでお供します!」
「よし。多分朝食後すぐに出かけることになると思うから、そのつもりでな」
「はい!」
「さぁ、みんな、まだまだ肉も野菜も魚介類も……食べるものはいっぱいあるし、飲み物もいっぱいあるぞ。みんなでバーベキューを楽しもうぜ!」
"はいっ!"
いつの間にか、俺のフィアンセたちがすべて俺の周りに集まっている。
さゆりに、俺たちの出会いから現在に至るまでの経緯をみんなで順順に話を継ぎながら話していく……、みんな大いに盛り上がっている。
さゆりが、タチアナが攫われた時の話や、レッサードラゴンの襲撃を受けた時の話に目を輝かせていたのが印象的だ。
その後、俺は彼女たちのもとを離れ、神殿関係者との交流を深めたり、ソリテアの家族や獣人族の人たちとこれからの夢を語り合ったりした。
ん?キャルとシャルがいないぞ?
キャル、シャルと仲良くしていた子供たちの姿も見えないな?
「シンさん、ラフちゃんからの伝言です。
キャルちゃんとシャルちゃん、二人の友達になった子供たちはラフちゃんの部屋で眠ってしまったので、今夜はラフちゃんの部屋に泊めるとのことです」
「ラヴ、教えてくれてありがとう。キャルとシャルの姿が見えないので捜していたところだ。助かる」
今夜の夕食も、非常に充実した時を過ごすことができたな……。
今夜は特に、色々な人と話せて面白かったなぁ。
この世界に戻ってきてからは、食事時が楽しくてしょうがない。
食事をとるのが面倒でしょうがなかった日本人だった頃とは偉い違いだ。
そんなことを考えている時に事件は起こった!
突然、みんなが自身の首を掻きむしりながら苦しみ出したのだ!
そして、地面へと倒れ、のたうち回っている……。
口からは白い泡!?
「毒か?」
俺は近くにいる数人のステータスを確認する。
毒による状態異常が引き起こされている!……致死性の毒か?
俺のフィアンセたちは、みんな動揺しているが毒の影響はない。
毒耐性を持っているので当然である。
さゆりも管理助手であるから心配ない。
俺はマップ上で状態異常に陥っているすべての者をターゲット指定して、一気に体内の毒を浄化してやり、更に、修復神術も施した。
毒にやられた臓器を修復するための処置だ。
数分後にはみんなの状態は完全に回復した。
小さな子供たちは、キャルとシャルと一緒にラフの部屋で眠っている。
幸いなことに、子供たちは毒を摂取しなかったようで何事もなかった。
今、俺とシオリ、さゆりで何に毒が混入されていたのかを調べている。
「シンさん、どうやら、ドリンクディスペンサーのすべてに毒物が混入されているようです」
「何?そうか……。ありがとう、シオリちゃん」
クソッ!誰なんだ!?こんなことをするヤツは……!
また、シオン教徒を名乗る輩なのか?
◇◇◇◇◇◇◇
みんなが毒に苦しみもがいているどさくさに紛れて、密かにこの場から立ち去る女性神官がいた。
「チッ!しくじったか!……クソッ!シンめ!これほどの猛毒でも殺すことはできないのかっ!? 次こそは絶対に殺してやる!首を洗って待っていなさい!」
女は神官服を脱ぎ捨てる……。
神官服の下は黒装束。懐から取り出した黒布でサッと覆面すると、神殿脇に繋いであった馬に跨がり、街の方へと去って行った。
◇◇◇◇◇◇◆
一頭の馬が神都エフデルファイの街中を駆けていく、向かうは代官の屋敷がある方角だ。
馬上には真っ黒な怪しい人影……。胸のあたりが膨らんでいる。
女性のようだ。
あと少しで代官の屋敷だというところで、急に馬はいななき、止まろうとする。 前脚を上げて、目の前の何かに怯えているかのようだ。
「ええぇーいっ!どうした!あと少しではないか!進まんかっ!」
馬上の人物は馬の腹を何度も蹴って、馬を先に進めさせようとするが、しかし、どういうわけか馬は拒み続けている。
その馬の前をよく見ると、そこにも黒い人影がある。
こちらも、胸の膨らみから女性だと判断できる。
馬前の女の姿が確認できるようになると、不思議なことに、馬は前脚を下ろして急に静かになった。
馬はもう怯えてはいない。まるで何事もなかったかのようにしている……。
「待っておったぞ!観念して、大人しく縛に就け!」
「はっ!?お前は誰だ!?
私を代官の妻、カミイラル・ジェイペズと知っての狼藉か!?」
「お前が神官たちに毒を盛った犯人であることはすでに明らかとなっている。
大人しく縛に就けば良し、さもなくば……」
「黙れ痴れ者!ファイヤーボール!」
馬上の女が、馬前の女に向けて、高威力のファイヤーボールを躊躇することなく放つ!
あわやファイヤーボールが直撃かと思われた瞬間、馬前の女の姿が消えた!
直後、馬の背の上には黒い人影が現れ、馬上の女の後ろに立つ!
「愚か者めがっ!」
馬上に現れ、馬の背に立った女は一声叫び、代官の妻、カミイラル・ジェイペズの首筋に向かって手刀を放つ!
……代官の妻は『うっ』と呻くと、その意識を手放した……。
次の瞬間、その場に馬だけを残し、2つの人影は姿を消した。
◇◇◇◇◇◆◇
毒殺未遂事件があって、そのまま夕食を続ける雰囲気ではなくなった。
あの後、すぐにバーベキューパーティーはお開きになったのだ。
俺とシオリは、夕食の後片付けを早々に終え、今、謁見の間にいる。
ここにいるのには理由がある。
忍び部隊ムンライトの副隊長のエンから、今回の毒殺未遂事件の犯人を捕らえてくるからここで待つようにという念話をもらったからである。
暫くすると、エンが転移してきた。
エンは左肩になにやら黒いものを担いでいる。
よく見ると黒装束をした人のようだ。
エンは、黒装束をした人らしきモノを床へと無造作に下ろす。
まるで放り投げるかのように……。
「うぐっ……ん……んん?」
床に下ろされたのはやはり人だった。
覆面をしていたのだが、体型から女性であることが分かる。
取り敢えず"見えざる神の手"を使って、その女性をロープでグルグル巻きにしておく……。覆面は剥ぎ取ってやった……プライドが高そうな顔立ちの女性だなぁ。
「上様、今回の毒殺未遂事件の犯人です。
この女は、代官の妻で、カミイラル・ジェイペズです」
そうか……。
俺は甘かった……代官に身内がいることを全く考慮に入れてなかった。
自分自身の思慮不足を心の底から恥じた。
「はっ!?ここはどこ……!!! シンっ!ムケッシュを返せ!この人でなしめ!夫を返せーーっ!返せ--ーっ!」
「返せって言われてもなぁ、お前の旦那はとんでもねぇことを企んでたんだぜ?
『はい、そうですか』とすんなり返せると思うか?寝言は寝てから言いな!」
「ムケッシュは……ムケッシュは何もやっちゃいないでしょうがっ!返せ-っ!」
「あのなぁ……あのままお前の旦那を野放しにしていたら、俺の大事なフィアンセたちが、お前の旦那や仲間たちにさんざっぱら凌辱された挙げ句に、性奴隷として奴隷商人に売られちまうところだったんだぜ?
それが許せるとでも思うのか?お前さんも女なら、それがどれだけ酷いことだか分かるだろう?」
「夫は……まだ何もやっちゃあいない!罪も犯していない者を裁いてもいいわけがあるものかっ!横暴だっ!!神だからってこれを許せるわけがない!」
まぁ、普通の法治国家ならその理屈も通るかもな……。だがな、ここは違う!
「犯罪を実行に移そうとした段階で即!アウトだぜ!
被害者が出てからじゃ遅ぇんだよ。そうだろう?そうは思わねぇか?
それに…これは正当防衛だからなぁ。まさかお前は、凌辱されそうになっても、抵抗すらしちゃぁいけねぇなんて言わねぇよな?身を守るのは当然だろぉ?」
「そんなのは詭弁だ!ムケッシュを返せ--ーっ!!」
「あのなぁ……ここでは俺がルールだ!鬼畜には容赦はしねぇ!絶対にっ!
問答無用だ!死あるのみだ!分かったかっ!」
「きぃーーーっ!!か、返せーーーっ!お、夫を返せ-ーっ!」
どこまで行っても議論がかみ合わねぇに決まってるわな……。
「それよりも……お前、自分の心配をしたらどうだ?
お前は何十人も殺そうとしたんだぜ?
もし俺たちがいなかったら毒を飲まされた者たちはみんな死んでただろうなぁ。
酷ぇことしやがるなぁ~、……だ・か・ら!お前を許すわけにはいかねぇっ!」
「許せないってんなら、どうしようってんだい!?」
「大きな肉食魚の群れと、獰猛な魔獣の群れとどっちがいい?」
「な、ななな、何のことなんだい!?」
「いやなに、お前はどっちに喰われてぇのか?っていう話だよ。選ばせてやるよ。
俺ってやさしいだろう?ははは!」
この会話を端で聞く者がいたら、俺の方が絶対に"悪者"だと思うよなぁ……。
「……」
「さあ、どうするよ?魔獣がいいか?それともサメか?」
聞かれても決められるわけねぇよなぁ……。
「おのれぇーっ!我が恨み晴らさでおくべきかっ!
例え我が身が滅んでも、必ずや死霊となってお前を取り殺す!覚えておけ!」
「はいはい。お前が死んだらキッチリと奈落の底へ落としてやるから安心しろ!
もう二度と蘇ることはできねぇから、地獄の苦しみをた~っぷりと味わいながら消えちまいなっ!あ・ば・よっ!……転送っ!」
「おのれぇーーっ!祟ってやるぅーー……」
恨みの言葉を吐きながら女は魔獣が待つ森へと転送されていった。
「おエン!良くやった!見事な手並みだ!
これほど早く犯人を捕まえてくるとは、いやぁ~大したものだ!」
「勿体なきお言葉……恐悦至極に存じます」
「何か褒美を取らそう!欲しいものはあるか?」
「いえ、お気持ちだけで十分でございます!」
この謙虚さがいいっ!
オリハルコン製の忍刀を生成して与えることにする。
刀の柄の中には、半径2mの球形シールドを発生させられるシールド発生装置を内蔵させておいた。これをおエンに褒美として与えよう。
あ、そうだ。一応、おギンの分も作っておこうかな……。
さてと……おエンが喜んでくれるといいのだが……。
「欲がないのぅ……。ますます気に入った!では、これを授けよう!」
「ははっ!ありがたき幸せに存じます!家宝と致します!」
この子たちと話をしているとどうしても時代劇がかってきてしまうな。
あ、シオリがあきれた顔をして笑っている……。は・は・は。
「その忍刀には、仕掛けがある。
柄のところにあるそのボタンを押すと、半径2mの球形のシールドが柄の部分を中心として展開されるようになっておる。
ほとんどの攻撃を防ぐことができる優れものじゃ!うまく使い熟せよ!」
「はっ!必ず使い熟してご覧に入れます!」
「よし!それでは下がれ。今夜はゆっくりと休むがよい!」
「はっ!失礼します!」
そう言うと、おエンはどこかへ転移していった。
彼女には心から感謝している。
彼女がいなければ、犯人の特定には時間が掛かっていただろう……。
◇◇◇◇◇◆◆
翌朝、朝食は、コッペパンに、自分の好きな具材を挟んで"コッペパンサンド"にして食べられるように各種具材を用意した。
タマゴサラダ、コロッケ、メンチカツ、トンカツ、エビカツ、チキン南蛮、ハンバーグにソーセージ、ウインナー、ナポリタン、焼きそば、レタス他の野菜類等、その他にもたくさん種類を用意してある。
それにタマネギを具材のベースにしたベーコン入り野菜スープと、各種飲み物も用意しておく。
今朝も朝食はマンションの1階ホールで、みんなで食べることにしている。
キャルとシャルが、ラフと一緒にホールに入ってきた。
二人とも、何度もあくびをし、目をこすりながらトコトコと歩いてくる。
ソリテアも家族と一緒に食事をしたいだろうと思い、彼女の家族もここへ呼んである。
さゆりは、まさかコッペパンサンドがこの世界で食べられるとは思わなかったと言って感激していた。
俺が地球の料理についてのデータを持っていて、レプリケータにリンクしてあるとは思ってもみなかったらしい。全部シオリちゃんのお陰なんだけど……ね。
◇◇◇◇◆◇◇
今朝の朝食もみんなで和気藹藹とした雰囲気であった。みんな本当に楽しそうであった。もちろん、俺自身もとても楽しかったのは言うまでも無い。
朝食の後片付けを終えてから、昨夜立てた計画通りに、まずはカーラの実家へと向かうことにする。
メンバーは、俺に、カーラ、さゆりに、スケさんとカクさんである。
カーラの意見を参考にして、我々はすでに村人風に変装済である。
この神国から東南東に2000km程のところにあるトークルマアプ。
そこは獣人国家ニラモリアとの国境近くにある大きな町だ。その町の神殿も7大神殿のひとつであり、その神殿でカーラは后候補に選出された。
カーラの実家は、そのトークルマアプから見て南西の方向、約48kmの位置にある農村ヴァルジャンの中にある。
まずは、ヴァルジャン近くの森に俺たちは転移する予定だ。
「ようしみんな、準備はいいか?よければ俺の周りに集まってくれ!……転送!」
◇◇◇◇◆◇◆
ヴァルジャン村の入り口には門番がいた。
だが、カーラの知り合いだったので、すんなりと村の中に入ることができた。
村の中心へと足を進めると、中央広場に人だかりができている。
「いやぁ、マチアスデイルはやっぱりすげぇなぁ!まさか本当に神都の神官試験に合格しちまうとはな!」
「ああ、1万人にひとりしか合格できないんだよな?すごいぜ!」
「そうなんだよ。トークルマアプ周辺で今までに合格した者はいなかったんだからなぁ、マチアスデイルはすごいよ。天才だな!」
どうやら、神都エフデルファイにある中央神殿、つまり俺たちが拠点としている神殿だが、その神殿が行った神官採用試験にマチアスデイルという青年は合格したらしい。
しかし、1万人にひとりしか合格できない試験?
本当にそんなに受験者がいるのか??
かつての中国、清代末期まで行われていた"科挙"みたいだな……いやそれ以上の難しさか。
俺は中央神殿の神官たちのことをちょっと見直した。
「まさに破天荒だな……」
「えっ?あの人神経質そうに見えますよ?豪快な人には見えないのですが?」
さゆりが俺の呟きを拾った。
「あちゃぁ、お前さんも、どこぞの芸人が広めた誤用の方で意味を覚えた口か?」
「えっ?誤用とは?」
「"破天荒"というのはな、"豪快で大胆な人"とか、"傍若無人なふるまいをする人"っていう意味じゃねぇぞ?」
「えーーーーっ!そうなんですかぁ?そうだとばっかり思っていましたよ!」
「まぁ、俺が日本にいた頃はテレビのアナウンサーですら間違って使うヤツがいたくらいだからな、しようがねぇといえばしようがねぇのかなぁ……」
「それで、本当の意味は何でしょうか?」
「ああ、"誰も成し遂げたことがない偉業を成し遂げる"って意味だ。
まさに、あのマチアスデイルって青年が成し遂げたようにな……。
このあたりで初めての合格者らしいからな。この言葉にはぴったりだろう?
そう思わねぇか?」
「はい!思います! メモメモっと……。勉強になりまっすっ!」
「まぁ、もし万が一にも日本に戻ることがあったら、気ぃつけて使うんだな」
「は・は・は……」
さゆりが望むのなら、日本へ送り返してやってもいいんだけどな……。
いや、だめだな、可哀想だ。あの管理者のもとじゃなぁ~。
ん?さすがは神官を志す青年だ。マチアスデイルは俺が誰なのか分かったようで人々をかき分け走り寄ってくる。 そして、俺の前まで来ると跪いた。
「上様、このようなところまでようこそお越し下さいました」
「おう!お前さん、がんばったな!中央神殿の神官試験にパスしたんだってな?」
「はい。ありがとうございます」
「期待してるぜ、無理せずがんばってくれ」
「はい。がんばります!よろしくお願い致します!」
「カーラさん、上様と一緒ということは……おめでとうございます。お后に選ばれたんですね?」
「はい。ありがとうございます。私も夢が叶いました。マチアスデイルさんも合格おめでとうございます」
「ありがとうございます。神都では色々とお世話になるかと思いますので、どうかよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
村人が遠巻きにしてこちらを見ている。
「おっと、こうしちゃぁおられんな……俺たちはこれからカーラの家へ行かなきゃならんのだ。それじゃぁな、また、中央神殿で会おう」
ん?マチアスデイルが俺たちの後をついてくる。
「どうした?まだ何かあるか?」
「じ、実は今……かつて上様が神官たちに語られたと言われている言葉を勉強しているのですが、その真意がどうしても分からないものがあるのです。
それで、直接その真意を伺えたらと思いまして……。
その言葉は、魔族の方が書かれた本の中に記述があるのですが……」
マチアスデイルが、左肩からたすき掛けにしていた鞄の中から、一冊の本を取り出した。
俺が語った言葉と言われてもなぁ、記憶は全く無いし……困ったな。
魔族だって俺の信徒だからいいんだけど、魔族が神学書を書くってのは、なんか妙な感じがする。違和感があるな……。
「どんな言葉か知らねぇが、俺には語った記憶すらねぇよ。
見せられてもな、本当に俺が言ったかどうかも分からん。
だから、聞かれても困る。
取り敢えず……本をしっかり読めば分かるんじゃねぇのか?」
本をチラッと見る。
原書じゃなくて、翻訳書のようだ。
「ただ、ひとつアドバイスしてやろう」
「はい。ありがとうございます!お願いします!」
「ああ、簡単なことだ。本は原書を読め。
翻訳されたものは情報のエントロピーが増大している可能性が高いからな」
「えんとろぴー?ですか?……申し訳ありません。よく分からないんですが?」
「伝言ゲームって知ってるだろ? あれと同じことだ。
つまり言いてぇのは、人の頭を経由すると情報に劣化が生じる可能性が高いってことだ。
伝言ゲームで、最後の人が答えた内容が、最初の、問題文の内容とは、まったく異なっちまうことがあるだろう?
そういった情報の劣化が、翻訳の際にも生じる可能性がある。
それだけじゃねぇよ。翻訳者が勘違いすることもあるだろうし、意図的に内容をねじ曲げていねぇとも限らねぇしな。
だから、本は原書を読まねぇとダメなんだよ。翻訳版はやめた方がいいぜ」
「な、なるほど」
「あ、それとな、もうひとつ……本は懐疑的に読め!」
「懐疑的?ですか?」
「ああ、間違っている箇所を見つけるつもりで読め。盲信しちゃダメだぜ。
そうやって読んでるとな、誰も思いつかなかったすげぇことを発見するヒントを見つけられることもある。
それになぁ……ヒューマンエラーは人間にゃぁつきもんだしな。いいな?」
「はい。気をつけます。ありがとうございました」
「悪ぃがちょっと急いでるんでな、じゃあ、また神殿でな!」
「お、お忙しいところを申し訳ありませんでした。失礼します!」
「おう!じゃあなっ!」
マチアスデイルは去って行った。
偉そうにアドバイスしたが、みんな大学時代の恩師から受けたアドバイスの受け売りだ。だが、マチアスデイルにもきっと役に立つだろう。
自分で言っておいてアレなんだが……ヒューマンエラーかぁ。
これは本当に人間の特性じゃなかろうかとさえ思える。
ソフトウェア開発に携わっていると、特にそう思えてくる。
どんなにキッチリとプログラミングしたつもりでも、なんか知らんけど、バグが入っちまうんだよな……。
慢性的な疲労感の中でプログラミングしているからって訳でもなかろうし……。
不思議でしょうがない。
◇◇◇◇◆◆◇
カーラの実家の前に来たのだが……何やら玄関口で男女が揉めている。
その男の両脇には、いかつい顔をしたがっちりした体型の男が二人、腕を組んで立っている。俺たちに気が付いたようで、こっちを睨むようにして見ている。
「……だから、私の息子が一人前の男になるための儀式の相手をすれば、小作料は免除してやると言ってるんだ!悪い話じゃないだろうが?
お前も夫を亡くして毎晩寂しい思いをしているんじゃないのか? ちょうどいいじゃないか?」
「ですから、さっきからお断りしているじゃないですかっ!私は嫌なんです!他をあたって下さい!」
……ふぅ、またゲス野郎の登場なのか?
しかし、多いなぁ、この世界ってゲス野郎の巣窟のようだぜ。
話の内容からすると……こういった農村では、所謂日本で言うところの"褌祝"のような風習があるようだな? でも、女性に無理強いはダメだろう……。
「おい!てめぇ!嫌がっているじゃねぇか!?」
高速移動で玄関先で揉めている男の背後へと移動した俺は、男の後ろ襟を掴んで "かる~く" 後ろへと引っ張る……。
ぐべっ!ぐがぁっ!びべっ!ザザザザザーーーーッ!!
し、しまった!また力加減を間違えてしまった。ホントに難しいな……。
男は、強制的にバック転をさせられながら、俺たちの後方へとバウンドしながら飛んで行く。最後は顔面から地面に着地すると、そのまま、ザザザ……と音を立てながら、地面を滑っていった。
飛んで行った男の用心棒らしき二人のマッチョマンは、突然の出来事に、呆気にとられてただ見ているだけである。
なんか、このパターンって多いなぁ……。またまたトラブル発生かよ?
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