バイナモ平原の戦い3
〜エルー・アスパニ皇国軍陣地〜
大量の炎のがそこには灯っていた。
(まるで昼間の様な暑さと明るさだ……)
ラドミール・クロウチル伯爵兼少将は目の前の光景を見てそう思った。
彼の目の前には多数の大型窯が設置されており、その炎の中に平民出の平民達が硫黄の塊を放り込んでいるのである。
「本当にこれがリクハルド攻撃の切り札となるのであろうな……なぁ?ボルツマン殿?」
彼は手でレイピアの柄をいじりながら後ろの男に問うた。彼はボルツマンが進言したこの作戦が信頼できず不安だったのである。
「大丈夫ですよ。貴方はただ硫黄を焼いて出来る煙を詰めた袋をリクハルドの前で開ける様に命令すれば良いのです」
クロウチルは後ろに振り向いた。
彼から見てボルツマンの服装はとても奇異であった。将校のくせに地味な軍服。自分達の様な二角帽子では無く円筒に鍔と飾りを付けた変な帽子。そして、騎兵でも無いのに持っているサーベル。ボルツマンはその見た目、態度からしてクロウチルの不信の目を向けられていた。しかし、ボルツマンはクロウチルからの不信の目を気にせずに話しを続けた。
「それに……もし、万が一失敗すれば我々が気球から塩素を散布しますので問題は有りませんよ」
クロウチルは最後の話の内容が理解出来なかった。しかし、もし失敗すれば悪い事になる。つまり、自分にとって不利になるという事は理解出来た。
クロウチルは勝たなければならないという強迫観念に似た何かが湧き出たのであった。
〜エルー・アスパニ皇国軍陣地外周〜
「やはり……剣とクロスボウだな」
第二偵察隊は倒したエルー・アスパニ皇国軍の装備を確認していた。
「本当にこれで良かったのでしょうか?」
誰かがそう呟いた。
それは彼等の抱いていた"殺人"への罪悪感を表面へ持って来る事に一瞬で成功した。
彼等は自衛官である。しかし、殺人者では無い。そう、人を殺した事がないのだ。そんな人間が、人を殺した事が無い人間が人を殺したら?とても重い十字架を"殺人"をしたという事実を背負い、潰れてしまうだろう。勿論、今回のは相手が攻撃したから攻撃したという正当防衛である。だが、剣と銃どちらが強いか?一方的な虐殺と化してしまったのが不味かった。
彼等のしている敵装備の確認だって敵がファンタジー的な何かで自分達以上の力を持っていたと信じ、心理的安定を図るためなのだ。
「しょうがない。我々自衛官は上の命令に従うのが仕事だ。そして、我々の仕事はその中でも威力偵察だ。敵の戦力を調べ、それを大規模戦闘に活かすのが仕事だ」
部隊長の一言により鬱の様になっていた彼等は思い出した。自分自身は何かという事を。
彼等は自衛官である。敵と戦い、敵である人を殺すのが仕事である。何の為の訓練か?人を殺す為の訓練である。国防の為の訓練である。相手は敵、日本を間接的にでも脅かす存在である。彼等は自己の正当化によって鬱から脱げだした。
「では、これより敵戦力把握の為陣地への潜入を行う。小規模戦闘があるかもしれんがいいな?」
この時を狙って部隊長がそう指示を出した。
これに隊員達の出した返事は1つはっきりとした物であった。
「「「了解!」」」
〜エルー・アスパニ皇国軍特別テント群〜
「やはり、文明圏外国家は幾ら教育しても文明圏内国家には及ばないか……」
そう愚痴を言いながらボルツマンは野営テントを出た。彼の目の前には同じ様な軍服の軍人が数十人程歩哨に立っており、中央の巨大なテントを守っている。
ボルツマンは巨大なテントの中に入った。中にはガスの抜かれた気球が数基有り、ガスボンベが大量に置かれていた。気球は紋章の上にペンキでエルー・アスパニ皇国の紋章が塗られており他国の介入を示唆していた。
「塩素ボンベの動作確認と気球の整備をしておけ!あと気球取付用機関銃の整備もだ!どうせ明日使う事になるんだからきっちりやっておけ!」
ボルツマンは中にいた兵士にそう命令した。
彼が見回ろうとしたその時、
「大尉殿。少し、お話があるのですが……」
副官が話かけてきた。
「外に行こうか……」
ボルツマンと副官は外の人が少ない所へ来た。
「で、話とはなんだ?」
ボルツマンは少し苛つきながらそう聞いた。
「はっ!列強から情報らしいのですが、我々が赴任するきっかけとなった"日本国"とやらがリクハルドで防衛に付いているそうです」
副官は敬礼しつつそう答えた。ボルツマンは少し考えこむようにしていたが指を鳴らしたかと思うとすぐにこう言った。
「日本国とやらはバーク陸戦条約加盟国か?あぁ、後その敬礼は鬱陶しいので下げて宜しい」
副官はすぐさま答えた。
「いいえ、かの国はバーク陸戦条約非加盟の国であります!」
それを聞いてボルツマンはニンマリとした笑みを浮かべ、呟いた。
「ならば、毒ガスをかけても国際法違反にはならないという訳か。完璧だな」
しかし、その笑みはすぐに終わった。遠くの茂みの方にすぐさま顔を向けリボルバーを構えたのだ。
「何事でしょうか?」
副官はそう聞いた。ボルツマンは数秒間銃を構えたままだったが、
「どうやら気のせいだった様だ」
と言い銃をしまって、テントの方に帰って行った。




