光無き工場
「マジックギミックス」最新話です。
よろしくお願いします。
「ぐッ!」
涼のその焦燥の声と同時。さびれた工場の入り口前……月明かりが照らされた木々の隙間で、短剣が空気を引き裂く音だけが響き渡る。
「諦めてください。あなたたちでは私には勝てません。ハツキの仲間ですし、ここで降参すれば命までは奪いません」
セリナの目は、昼に見た優しそうな目とは全く違った。別人と思ってしまうほどの冷ややかな視線が涼に向けられ、その眼光からは明らかな敵意を感じ取れた。
「な、何言ってんだよ。お前。いくら日本からの来訪者だから手厚くもてなそうって思考でもさすがにこのドッキリは無理があ……」
「ドッキリではありません。そもそも、こんな危ないドッキリをするのは日本だけでしょう。私たちの国では日本の面白いドッキリなどをクレイジージャパニーズテレビショーと言いますよ?」
右手の短剣を振り上げたまま余裕の表情で海斗に向けて言葉を放つ。
「……好意的な意味だと捉えておこう。それで、さっき透哉さんを殺そうとしたことはどう説明する気だ? ハツキの仲間は殺さない……その言葉と矛盾しているんじゃないか?」
龍弥がセリナに敵意を向け、それでも怒りの色を押さえた声で言う。
「透哉さんは例外です。それより、いいんですか、海斗さん。手元、ちゃんと見とかないとですよー」
セリナが昼間のようなおっとりとした声に戻る。しかし、その声の裏に隠れた感情はおっとりとしたものではなかった。
「手元……? うおっ! う……うそだろ……」
気づかなかった。ただその後悔に似た考えだけが海斗の頭を駆け巡る
海斗の視界には、、照準器と銃口が短剣によって串刺しにされた自動拳銃があった。
「私のその短剣……最近開発されたもので、正式な名称は切穿、というのですが、これがものすごい切れ味でして。たまにこの短剣用のホルダーさえも切ってしまうことがあるんです。そのため、この短剣にいくつかホルダーを買い変えさせられたんですよね。試作品として一本だけ渡されていたものなのですが、まさかここまでとは」
海斗はその時気づいた。先ほどまでセリナの左手にあった短剣が無くなっていたことに。
(まさか……涼に向けて短剣を振り上げたのと同時に……? それも、音もなく……)
海斗がそう考えた瞬間だった。
「グラビティア」
その声の直後、海斗の腹に痛烈な一撃が襲いかかる。
「ぐ……ああぁ!」
海斗は後ろにあった木に叩きつけられ、気を失った。
一瞬の出来事だったので、涼と龍弥は全く状況を理解することができなかった。ただわかったのは、海斗が持っていた銃がなぜかセリナの手に現れ、さらにセリナが1mほどの高さまで足を上げているという視覚的な事実だけだった。
「見えませんでしたか? 今の私の動作が。これが経験の差というものです。経験を失ったあなたたちには分からないでしょうが」
経験を失った……その言葉は涼と龍弥には理解できなかった。だが、考える暇もなく、その時は経験をしてこなかった、という解釈をした。
「……力の差は歴然、ってわけか。上等だ。そっちの方が燃える……」
涼は冷や汗を流しながら必死に強がった。
「ふふ、強がりもいいですが、ここでは少し雰囲気が似合いません。……殺し合いには闇に閉ざされた場所の方がぴったりですよね」
そう言ってセリナは工場の中に姿を消した。
「くそ、待て!」
涼はセリナを追いかけるために走り出した。
工場は完全に暗闇となっていた。恐らく昼間や夕方は少し明るいのだろうが、今はとっくに外が暗くなっていて、工場内を照らす明かりは三日月のわずかな光しかない。
入り口こそ足元ぐらいは見えるものの、少し工場の中に入ると一筋の光もない暗黒の世界だった。
「何も見えないな……」
「……! 涼! 上だ!」
言葉と同時。龍弥の警告のおかげで紙一重で避けたものの、その頬に短剣が掠った痕が残ってしまった。
「……はずしましたか」
「この……!」
頬の血を右手で拭き、そのまま手を引いてセリナめがけて拳を放つ。
「そんな攻撃……」
セリナは両手で構えた短剣を交差させ、涼の拳を受け止めようとした。
しかし、
「! な……」
セリナは驚愕した。鉄などを使った合金でできているはずの短剣の刃がガキン! という音と共に砕け散ったからだ。
(そっか……。涼さんの魔術は血を別の物体に付着させて材質を変えることもできるんでしたね……)
セリナは涼の魔術を思い出し、よろけながら後退した。
「行け!」
龍弥が叫ぶと同時に、龍弥の手からセリナに向かって炎が放たれた。
「! 間に合わない……! ……とは、思ってませんが」
セリナはそう言うと、さっきまでふらついていたのがウソだったようにいきなり空中に身を投げ出し、回転しながら宙返りをして炎を避けた。
炎はトロッコの木製のレールに当たって燃え移った。
そして、セリナは同時にホルダーに入っていた短剣を一本取り出し、涼めがけて投げた。
「!」
涼は自分にその短剣が突き刺さったことに驚いた。そして、
「このまま気を失っていてください」
そう言うとセリナは、重力を無視しているかのように……否、重力を無視してジャンプし、また空中で身を回転させながら涼の目の前に着地した。同時に、
「てい!」
涼の顔に強烈な裏拳をたたき込んだ。
「ぐ……あ……」
涼もそのまま気を失ってしまった。
「あと一人ですね」
そう言うとセリナは天井に向かって軽くジャンプした。
龍弥が天井を見上げると、
「え……天井に……くっついてるのか……?」
レールに燃え移った炎で照らされた天井……そこには、髪もスカートも上を向き、足も天井に着けている、少女がいた。
セリナは今、天井を地面としているのだ。
「気づいていたとは思いますが、これが私の魔術です。重力操作。暗闇の中で重力場を観測して質量のあるものを視覚化することだってできます。ここで……この場所で私と戦ったのが運の尽きでしたね。龍弥さん」
セリナは不敵な笑顔を浮かべて言った。
読んでくださり、ありがとうございます。
一週間更新なしですみませんでした。
今回の話もセリナちゃんに絶望させられっぱなしでしたね。強すぎィ! ってやつです。はてさて、龍弥たちに勝ち目はあるのでしょうか。
先日逆〇ん裁判が発売されたのですが、テストがまだ一日残ってる! という状況でのプレイでした。次の日テストでした。社会、死にました笑
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