新たなる研究者たち(中編)
魔素反応記録。
それは。アリア・フェルミナが長年追い続けてきた研究の中で、最も奇妙な結果だった。
しかし。彼女はすぐに発表しなかった。理由は単純だった。
証拠が足りない。
研究室。
アリアは何度も同じ実験を繰り返していた。
測定装置を変更する。観測場所を変える。時間帯を変える。季節を変える。
条件を変えても。同じ傾向が現れる。
魔素反応。一定間隔で変化する波形。
まるで。規則を持った信号。
助手の青年が画面を見る。
「やはり。何度見ても偶然とは思えません。」
アリアは頷く。
「ですが。規則があることと。意思があることは別です。」
研究者として。そこを混同してはいけない。
過去。
多くの研究者が同じ失敗をしてきた。
説明できない現象を見つける。
そして。自分の望む答えを当てはめる。
しかし。
科導の歴史は。その逆だった。
現象を観察する。仮説を立てる。検証する。
間違っていれば修正する。
アリアは慎重に研究計画を立て直した。
目的。「未知存在との通信」
ではない。
まず。「規則的な魔素変化の原因を特定する」こと。
研究チームは調査を開始した。
反応が強く現れる場所。
古代森林。高濃度魔素地域。人間の影響が少ない場所。
数週間後。調査隊は山奥へ入った。
そこは。古代から手つかずの自然が残る地域だった。
案内役の冒険者が言う。
「この辺りは危険ですよ。」
「魔獣が多い。」
アリアは頷く。
「だから調べる価値があります。」
かつて。冒険者たちは戦う者だった。
しかし。科導文明の時代。
冒険者の役割も変化していた。
未知の地域を調査する。
危険な環境を記録する。
研究者を護衛する。
それもまた。文明を支える仕事になっていた。
森の奥。魔素観測装置を設置する。
すると。反応が現れた。
しかし。予想とは違った。
魔素の流れは。一方向ではない。
周囲全体から集まり。また広がっていく。
まるで。森そのものが呼吸しているようだった。
アリアは記録する。
「魔素流動は。」
「生命活動と関連している可能性があります。」
その時。同行していた冒険者が声を上げた。
「何かいます。」
木々の間。一頭の巨大な生物が姿を現した。
ドラゴン。
しかし。古代伝承にあるような凶暴な存在ではなかった。
静かにこちらを見ている。
冒険者が警戒する。
「下がってください。」
しかし。アリアは動かなかった。
理由があった。観測装置が反応している。
ドラゴンから発せられる魔素波形。
それは。先ほど記録したものと一致していた。
アリアは気付く。
「この反応。あなたが出していたのですね。」
当然。ドラゴンは言葉を話さない。
しかし。魔素の変化が起こる。
一度。二度。三度。観測装置が記録する。
それは。単なる魔力放出ではなかった。
一定の構造を持つ。情報。
アリアは震えた。
「まさか……。」
ドラゴンは。魔素を使っていた。
しかし。人間の魔導とは違う。
術式を組むわけでもない。
魔経絡を意識的に操作するわけでもない。
もっと自然な方法。
生命活動そのものが。魔素との関係を持っていた。
アリアは記録を続ける。
そして。一つの仮説へ到達した。
「魔導は。」
「人間が作った技術ではない。」
「生命が世界と関わる方法の一つだったのかもしれない。」
それは。
アルフレッド。
エゼキエル。
レオン。
何世代もの研究者が追い続けた問いへの。新しい答えだった。
しかし。同時に。新たな疑問も生まれる。
なぜ。人間だけが。
魔素を人工的に制御する技術を発展させたのか。
なぜ他の生命は自然な形で利用しているのか。
そして。
なぜ人間には魔力を持つ者と持たない者が存在するのか。
研究は。さらに深い領域へ進もうとしていた。
その夜。野営地。
アリアは古い記録を読み返していた。
アルフレッドの言葉。
> 「理解できない力を、理解したと思い込むな。」
彼女は思う。
自分たちは。まだ入口に立っただけなのだ。
翌朝。さらに調査を進めるため。
アリアたちは森の奥へ向かった。
そこには。古代遺跡が存在していた。
しかし。その遺跡は。
人間が作ったものではなかった。
壁面には。古代文字。
そして。魔素によって刻まれた記録。
アリアが読み取る。
そこに書かれていた言葉。
> 「我々は魔素を使う者ではない。」
> 「我々は魔素と共に存在する者である。」
アリアは息を飲む。
これは。新しい文明の発見ではない。
人間が知らなかった。
もう一つの世界との出会いだった。a




