表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/60

科導端末(前編)

王都の夜。

以前なら、日が沈めば多くの場所が暗闇に包まれていた。

貴族街や大商人の屋敷では魔導灯が使われている。


しかし、それは限られた者だけのものだった。

魔経路、魔力を持つ者。そして魔力の供給を維持できる者。

それ以外の人々にとって、夜の明かりは油灯や薪によるものだった。


火事の危険。燃料費。

煙による汚れ。

多くの問題を抱えていた。


そんな街角で。


一つの小さな光が灯る。


科導灯。発動こそ魔経路が必要だが一度灯せば魔力を補充しなくても光り続ける。

冒険者の宿。商店。工房。

少しずつではあるが、科導灯の明かりは広がり始めていた。


しかし。

アルフレッドは満足していなかった。


工房の研究室。


机の上には大量の資料が積まれている。


魔石。術式板。魔素測定器。

失敗した試作品。

そして何十冊もの研究記録。


エゼキエルが部屋へ入る。


「まだ続けているのか。」


アルフレッドは顔を上げた。


「はい。」

「魔経絡なしで科導を扱う研究です。」


老人は机の上を見る。


「現在の科導具では不可能なのか。」


アルフレッドは首を振る。


「起動するだけなら可能です。」

「しかし。工程に問題があります。」


現在の科導具。


その仕組みはこうだった。

内部の魔石が大気中の魔素を取り込み術式が制御する。

それを使用者が魔経路で調整する必要がある。


結果。

魔経路をもつ持つ者にしか扱えず。

大量販売にも向かない。汎用性もない。


アルフレッドは図面を指差す。


「必要なのは。」

「人間の魔経路の代わりに調整を行う仕組みです。」


エゼキエルは頷く。


「制御装置か。」


「はい。」


アルフレッドは研究を始めた。


最初の案。

魔石へ複雑な術式を直接刻む。


結果。失敗。


術式が固定されすぎて、環境変化に対応できない。


暑い日。寒い日。湿度。魔素濃度。

わずかな違いで性能が変化した。


次の案。

複数の魔石を組み合わせる。


結果。成功率は上がった。


しかし。価格が高すぎる。

一般家庭では買えない。


アルフレッドは頭を抱える。


「また同じ問題です。」


研究として成立しても。

商品として成立しない。


ある日。


彼は冒険者時代の記録を読み返していた。


水路清掃。荷車修理。薬草採取。

そこには多くの人々の言葉が残っていた。


農民「雨が少ない年は困る。」


商人「夜間でも安全に荷物を運びたい。」


職人「魔導士を雇う費用が高い。」


アルフレッドは気付く。

彼らが求めているものは。

高度な魔導ではない。簡単に使える道具だった。


彼は設計思想を変えた。


万能な道具を作る。

それをやめる。


複雑な制御を利用者へ求める。

それもやめる。


術式を単純化し

必要な機能だけを持つ。

誰でも迷わず使える。

それこそが重要だった。


照明なら。

光る。消える。

それだけでいい。


温度調整なら。

暖める。冷やす。

それだけでいい。


新しい術式が完成した。


魔石内部に制御用術式を書き込む。

使用者の操作は単純な入力だけ。個人ごとの調整は必要ない。


試作品を作る。最初の実験者は。

工房で働く職人の娘だった。


彼女には魔経路がない。

アルフレッドは新型科導具を渡す。


「この部分を光れと考えながら押してください。」


少女は恐る恐る指で触れる。

次の瞬間。柔らかな光が灯った。


少女の目が大きく開く。


「……使える。私でも」


アルフレッドは何も言わなかった。

ただ、その光を見つめていた。


その夜。


エゼキエルは研究記録を読んだ。


「成功したな。」


アルフレッドは首を振る。


「まだです。」

「量産化。安全性確認。価格調整。」

「課題は残っています。」


老人は笑う。


「昔のお前なら。」

「成功と言っていただろう。」


アルフレッドも笑った。


「昔なら。」

「理論が完成した時点で満足していました。」


「今は違います。」

「人が使えて。壊れなくて。買える価格になって。」

「初めて完成です。」


しかし。


数日後。


王立魔導師協会から一通の手紙が届いた。


内容は短かった。


> 「新型科導具について、説明を求める。」


アルフレッドは封筒を見つめる。


予想していたことだった。


魔導は長い間。


一部の才能ある者だけが扱える特別な力だった。


その前提が。今、崩れようとしている。


数日後。


王立魔導師協会。重厚な会議室。

並ぶのは、王国でも有数の魔導研究者たち。

その一人が口を開いた。


「アルフレッド卿。」


「あなたの技術は危険です。」


アルフレッドは静かに聞く。


「なぜでしょうか。」


老魔導士は答える。


「魔導とは。」

「才能ある者が学び、管理するものだ。」

「誰でも使えるようになれば。」

「制御できなくなる。」


部屋が静まり返る。

アルフレッドは考えた。

これは単なる反対ではない。

彼らは本当に危険を恐れている。

技術が広まることで起きる問題を。


ならば。

必要なのは否定ではない。

証明することだ。


科導は。

管理不能な力ではない。


正しく設計された技術なのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ