表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/60

竜炎(後編)

青白い光がアルフレッドの腰元から静かに広がる。

水科導具が起動した。

魔石の内部に刻まれた術式が大気中の魔素を取り込み、真素へと変換していく。

アルフレッドは測定器から目を離さない。


炎竜を見るのではない。

魔素流を見る。

赤い針は一点を指していた。


胴体と首を結ぶ接続節。


膨大な魔素がそこへ集まり、頭部へ送られている。

レオンハルトは最後の一撃を放とうとしていた。


炎竜が口を開く。

高密度の火炎が収束を始める。

通常の火球とは比較にならない熱量。

教授席の防御結界が自動的に強化される。


「危険域です!」


術式管理を担当する教師が叫ぶ。

しかし審判は首を振った。


「制御下にある。」

「規定内だ。」


レオンハルトの制御は乱れていない。

限界ではあるが、暴走ではない。


アルフレッドは右手を前へ突き出した。


干渉結界はまだ発動しない。

先に起動したのは水科導だった。

青い術式が足元へ展開される。

空気中の魔素が魔石へ集まり、水が生成される。


それは掌ほどの量ではなかった。

研究を重ねた結果、魔石内部の蓄積容量を増やしていたのである。


生成された水は、胴ほどの球体となって宙へ浮かぶ。


観客席がざわめいた。


「水魔導ではない……。」

「詠唱がない。」

「魔力の流れも違う。」


教授たちは測定器へ目を向ける。

水科導は魔導とは異なる魔素の流れを示していた。


アルフレッドは続けて第二術式を起動する。


熱科導。

魔石内部で生成された熱が水球へ伝わる。


沸騰。蒸発。急激な体積膨張。


巨大な水球が一瞬で白い蒸気へ変わる。

轟音と共に大量の高温蒸気が噴き出した。


だが、それは炎竜へ向かって放たれたわけではない。

蒸気は炎竜の進路、その斜め前方へ放出される。


レオンハルトが眉をひそめた。


「外した?」


違う。


アルフレッドは狙っていた。

蒸気そのものではない。

急激な体積変化によって生じる圧力波を。

狭い範囲へ集中させた圧力変化が空気を震わせる。


その衝撃が、炎竜の接続節をわずかに揺らした。


ほんの一瞬。


魔素流が乱れる。

アルフレッドはその瞬間を待っていた。


「今だ!」


干渉結界が起動する。

透明な術式が接続節へ重なる。


熱を消すのではない。

炎を吹き飛ばすのでもない。

魔素を運ぶ流れへ干渉する。

術式の維持そのものを乱す。


レオンハルトの表情が変わった。


「しまっ……!」


遅かった。

接続節で魔素の流れが途切れる。

頭部への供給が止まる。

火炎が不安定になった。

炎竜は咆哮するように揺らぎ、その輪郭を保てなくなる。


胴体。首。頭部。

順番に崩壊していく。


巨大術式は自己修復を試みる。


しかし圧力波による乱れが残り、魔素流は再接続できない。

赤い巨体は光の粒となって空中へ消えていった。


演習場が静まり返る。

誰一人、声を出せない。


レオンハルトは静かに杖を下ろした。


魔力はまだ残っている。

戦えないわけではない。

しかし彼は理解していた。


今の術式は破られた。


偶然ではない。

理論によって。

解析によって。

研究によって。


「……参った。」


彼は苦笑しながら右手を上げた。


「降参だ。」


審判が宣言する。


「勝者――アルフレッド・フォン・アルヴェイン!」


歓声が演習場を包んだ。


しかし歓声以上に大きかったのは、困惑だった。


教授たちが席を立つ。

研究者たちがノートを手に駆け寄る。

学生たちもアルフレッドを取り囲んだ。

最初に口を開いたのは、王立魔導研究所の老教授だった。


「今の術式は何だ。」

「魔導ではないな。」


別の教授も続く。


「火魔導を打ち消したわけでもない。」

「術式を壊したのか?」

「いや、魔素流へ干渉していた……。」


議論が始まる。

誰も答えを知らない。

全員がアルフレッドを見る。

アルフレッドは静かにレオンハルトへ一礼した。


「ありがとうございました。」


レオンハルトも深く頭を下げる。


「勉強になった。」


二人は互いの健闘を称え合った。

そしてアルフレッドは観客席へ向き直る。

静かに息を吸い、はっきりと告げた。


「これは魔導ではありません。」


演習場は水を打ったように静まり返る。


「自然法則を参考に、魔導法則を組み合わせて構築した、新しい学問体系です。」


彼は続ける。


「魔導を否定するものではありません。」

「魔導をより深く理解し、より広く活用するための新しい理論です。」


一拍置き、力強く言い切った。


「その名は――科導です。」


その言葉は、その場にいた全員の胸へ刻まれた。

後に歴史書は、この日を「科導元年」と記すことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ