表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/60

貴族院公開実験(中編)

演習場には重苦しい空気が流れていた。

干渉結界の初実験は失敗。

科導具は暴走し、火花を散らして停止した。

観客席では、失望とも嘲笑ともつかない声が漏れ始める。


「結局、机上の空論か。」

「だから魔導は理論だけでは扱えんのだ。」

「公爵家の坊ちゃんの道楽だろう。」


しかし、アルフレッドはその声に耳を貸さなかった。

彼の視線は、壊れた科導具と測定器の記録だけを追っていた。


エゼキエルは司会役の教授へ歩み寄る。


「実験を中断し、測定結果を確認したい。」


教授は一瞬迷ったが、すぐに頷いた。


「十分間の中断を認めます。」


公開実験では、失敗後の解析も実験の一部として認められている。

むしろ、その場で原因を分析できるかどうかも研究者の力量だった。

二人は演習場の隅へ移動し、壊れた科導具を分解する。


魔石には異常はない。

術式板も焼損していない。

破損していたのは、補助術式を刻んだ細い魔経路だけだった。


アルフレッドは眉を寄せる。


「……やはり。」

「術式そのものではありません。」


エゼキエルが尋ねる。


「何だ。」


「干渉術式は正常に動いていました。」


「問題は。」


壊れた術式板を指差す。


「干渉を受けた火魔導が、逆にこちらへ影響を返しています。」


老人は目を細める。


「反作用か。」


「はい。」


「こちらが魔素構造を乱そうとした結果、その揺らぎが術式へ戻ってきています。」


アルフレッドは紙へ簡単な図を描いた。

干渉結界。火魔導。

その間を矢印が往復している。


「一方通行だと思っていました。」

「ですが実際には。互いに影響し合っています。」


老人はその図を見て頷いた。


「ならば。戻ってくる揺らぎを逃がせばいい。」


アルフレッドは顔を上げた。


「逃がす……。」


老人は地面へ杖で円を描く。


「水路を思い浮かべろ。」

「川を堰き止めれば溢れる。」


「だが。逃げ道があれば流れる。」


アルフレッドは一瞬考え込む。

そして勢いよく設計図を書き始めた。


「補助術式を追加します。」

「干渉を打ち消すのではありません。」

「余分な揺らぎだけを外へ流す。」


老人は笑う。


「それがお前の理論だ。」


十分後。


二人は教授の前へ戻った。

アルフレッドは頭を下げる。


「術式を一部修正したいと思います。」


観客席がざわついた。


「今から直すのか。」

「その場で?」


教授は腕を組む。


「理由を説明してください。」


アルフレッドは測定結果を全員へ示した。

暴走前後の数値。

出力変化。

魔素の揺らぎ。

そして破損箇所。


「干渉結界そのものは作動していました。」

「しかし、火魔導から返ってきた魔素の揺らぎを処理できませんでした。」

「そのため術式が過負荷となり停止しました。」


老学者の一人が手を挙げる。


「質問。」


「どうぞ。」


「君は、その揺らぎが本当に火魔導から返ったものだと証明できるのか。」


アルフレッドは迷わなかった。


「現時点では断定できません。」


会場が静かになる。


「ですが。火魔導を用いない同一実験では発生していません。」

「火魔導を停止した瞬間に揺らぎも消えています。」

「したがって。現時点で最も妥当な仮説です。」


老学者はしばらく黙っていた。

やがて静かに頷く。


「……良い答えだ。証明できないことを証明したとは言わない。」

「研究者として正しい。」


アルフレッドは深く一礼した。

エゼキエルはその様子を見ながら、小さく笑う。

もう、自分が口を出す必要はほとんどない。

青年は自分の力で研究者になり始めていた。


修正は三十分で終わった。

追加したのは、ごく小さな補助術式。

目的は火魔導を弱めることではない。

科導具自身を守るための「逃がし」の仕組みだった。

アルフレッドは修正版を両手で持ち上げる。


「再実験をお願いします。」


教授は静かに頷く。


「認めます。」


再び演習場の中央へ火球が生み出される。


今度こそ理論が試される時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ