①41歳独身女、1億円で「家族」を買う。
1億円で家族を買いました。
夫 43歳
長男 10歳
次男 8歳
「お買い求め頂いた家族の手配が整いましたので明日の朝、迎えに参ります。」
昨日の夜遅くに販売担当者から電話がありました。
そして今朝9時。
私は黒のセンチュリーに乗せられて
下町にあるマンションの202号室の前に来ています。
購入した家族の構成は
私の41歳という年齢や職業、性格などを考慮し、
AIが最適と判断したものでした。
2週間前、
家族を買うために足を運んだのは都心のオフィスビルの24階。
販売担当者に
「この様な構成がベストと出ました。ご覧下さい。」
とタブレット端末を渡されました。
液晶画面にはAIの報告書の詳細が表示されています。
なるほど私に丁度いい構成だわ。
さすが先人の知恵の結晶、AI。
AIイコール過去のデータの総括。
プラス、アルゴリズムか何かで改良されているのでしょ?
きっと上手くいくはず。
だから素直に従ってみる事にしたんです。
次に夫となる人を商品カタログから選びました。
色んな人がいるなと思いました。
「全て同じ値段なのかしら?」
タブレット画面をスワイプしながら担当者に尋ねました。
担当してくれたスタッフは細い銀縁眼鏡を掛けた銀行員風の男性でした。
私より少し上に見えたので40半ばから後半でしょうか。
肌艶が良くボディメンテナンスもきちんとされています。
若いですねと言われるタイプでしょう。
ただ眼鏡の奥の鋭い眼光や落ち着いた物腰は年の功を感じさせるものでした。
なんだか古狸ではなくて古狐みたいな人ね。
「お値段はどの方を選んで頂いても同じとなります。
ただ複数のクライアント様が同じ『夫』を指名した場合、早く契約なさった方に優先販売となります。」
顔立ち、身長、生まれ、職業、年収その他。
それぞれ全然違うのに同じ値段なんてどういうことかしら。
心の声がそのまま顔に出た様で
「好みも需要も千差万別ですからね。
誰かが誰かにヒットするものです。
ですからウチはお値段一律で
様々な形の『家族』をセット販売をさせて頂いております。」
と銀縁さんは如才なく付け加えました。
そんなものかしら?
さすがに犬猫とは違うしな。
値段が違うと買う身のこちらも
多少後ろめたさ出てしまう。
そういうのも加味して一律同じお値段なのかしらね。
薄らぼんやり納得した気になりました。
この人いいな。
目の大きな人でした。
俳優の様な笑顔をこちらに向けています。
「その人いいですよね。」
銀縁さんはまた私の心の声が聞こえたようで相槌を打って来ました。
「素敵ですね。人気ありそう。」
「人気出るでしょうね。
昨日掲載されたばかりですから早い者勝ちですよ。」
「じゃあ この人。」
「かしこまりました。
ただ今日中に契約して頂いないと他の方にお買い上げ頂くケースもありますのでご了承下さい。」
念を押されて私は頷きました。
わかっているわよ。
次に子どもたち。
イタズラ好きでワンパクな男の子2人。
その子たちを「やめなさいっ!」て追いかけ回しているお母さんを想像しました。
「この子たちがいるだけで幸せ。」
そう言い切れる母親。
素敵だわ。
子どもたちも直ぐ決まりました。
性別と年齢は先ほど目星を付けてもらっていました。
後は私に似ている子で夫となる人の要素もある子たちを選びました。
私が選んだ子たちを見て銀縁さんが驚いた顔を見せました。
「上手に選びましたね!」
何だか褒められた気分ね。
カタログから「夫」と「子どもたち」を選んだ後、
私は契約を結ぶサインをすることになりました。
銀縁さんから分厚い契約書のバインダーを渡されます。
それと一緒に『家族取扱いハンドブック』と題された文庫本サイズの冊子も渡されました。
「大体のトラブルはこのハンドブックを読んで対処して頂れば解決致します。
もし解決不可でしたらこちらまでご連絡下さい。」
ハンドブックの裏に記載されている電話番号を指差して私に言いました。
銀縁さんにオフィスビルの出入口まで見送られ
私は帰途に着きました。
大きな買い物をしたわ。
疲れがドッと出て朝まで眠りました。
翌日、仕事に行くと
「何だか楽しそうですね。」
と総務の女性に声をかけられました。
長年勤めている50代手前の方です。
いつもは挨拶と天気の話をするくらい。
個人的なことを聞かれることはほとんどありませんでした。
よほど私が浮かれた感じに見えたのかも知れません。
「昨日家族を買ったんです。」
とは言えません。
「ちょっといいことがあって。」
私は濁して答えました。
「どんなこと?」
教えるまで離さないわよと総務さんの目が言っています。
総務さんの圧に耐えられず
「家族が出来ることになったんです。」
と言ってしまいました。
ペットのことかしら?
と思われたのかもしれません。
少しの間の後、
「ご結婚?」
恐る恐る聞いてきます。
「ええ、お恥ずかしながら。」
私が答えると総務さんの顔がパッと晴れました。
「あら、おめでとうございます。
バタバタするでしょう。
お手伝い出来ることがあったら教えてね。」
と手を握って頂きました。
私のモノトーンな生活に一気に色がついた瞬間でした。




