↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/16

①41歳独身女、1億円で「家族」を買う。

1億円(いちおくえん)で家族(かぞく)を買いました。


夫 43歳(さい)

長男 10歳(さい)

次男 8歳(さい)


「お買い求め頂(いただ)いた家族(かぞく)の手配(てはい)が整(ととの)いましたので明日(あす)の朝(あさ)、迎(むか)えに参(まい)ります。」

昨日(きのう)の夜遅(おそ)くに販売担当者(はんばいたんとうしゃ)から電話(でんわ)がありました。


そして今朝(けさ)9時。

私は黒のセンチュリーに乗せられて

下町(したまち)にあるマンションの202号室(ごうしつ)の前に来ています。


購入(こうにゅう)した家族(かぞく)の構成(こうせい)は

私の41歳(さい)という年齢(ねんれい)や職業(しょくぎょう)、性格(せいかく)などを考慮(こうりょ)し、

AIが最適(さいてき)と判断(はんだん)したものでした。





2週間前、

家族(かぞく)を買うために足を運(はこ)んだのは都心(としん)のオフィスビルの24階(かい)。


販売担当者(はんばいたんとうしゃ)に

「この様な構成(こうせい)がベストと出ました。ご覧(らん)下さい。」

とタブレット端末(たんまつ)を渡(わた)されました。


液晶画面(えきしょうがめん)にはAIの報告書(ほうこくしょ)の詳細(しょうさい)が表示(ひょうじ)されています。


なるほど私に丁度(ちょうど)いい構成(こうせい)だわ。

さすが先人の知恵(ちえ)の結晶(けっしょう)、AI。


AIイコール過去(かこ)のデータの総括(そうかつ)。

プラス、アルゴリズムか何かで改良(かいりょう)されているのでしょ?

きっと上手(うま)くいくはず。

だから素直(すなお)に従(したが)ってみる事(こと)にしたんです。


次に夫(おっと)となる人を商品(しょうひん)カタログから選びました。


色んな人がいるなと思いました。


「全て同じ値段(ねだん)なのかしら?」

タブレット画面(がめん)をスワイプしながら担当者に尋(たず)ねました。


担当(たんとう)してくれたスタッフは細い銀縁眼鏡(ぎんぶちめがね)を掛(か)けた銀行員風(ぎんこういんふう)の男性でした。

私より少し上に見えたので40半(なか)ばから後半(こうはん)でしょうか。

肌艶(はだつや)が良くボディメンテナンスもきちんとされています。


若いですねと言われるタイプでしょう。


ただ眼鏡(めがね)の奥(おく)の鋭(するど)い眼光(がんこう)や落ち着いた物腰(ものごし)は年(とし)の功(こう)を感じさせるものでした。


なんだか古狸(ふるだぬき)ではなくて古狐(ふるぎつね)みたいな人ね。


「お値段(ねだん)はどの方を選んで頂(いただ)いても同じとなります。

ただ複数(ふくすう)のクライアント様(さま)が同じ『夫』を指名(しめい)した場合(ばあい)、早く契約(けいやく)なさった方に優先販売(ゆうせんはんばい)となります。」

 

顔立(かおだ)ち、身長(しんちょう)、生まれ、職業(しょくぎょう)、年収(ねんしゅう)その他。

それぞれ全然(ぜんぜん)違(ちが)うのに同じ値段(ねだん)なんてどういうことかしら。


心(こころ)の声(こえ)がそのまま顔(かお)に出た様で

 

「好(この)みも需要(じゅよう)も千差万別(せんさばんべつ)ですからね。

誰(だれ)かが誰(だれ)かにヒットするものです。

ですからウチはお値段一律(ねだんいちりつ)で

様々な形(かたち)の『家族』をセット販売(はんばい)をさせて頂(いただ)いております。」


と銀縁(ぎんぶち)さんは如才(じょさい)なく付け加(くわ)えました。


そんなものかしら?


さすがに犬猫(いぬねこ)とは違うしな。

値段(ねだん)が違うと買う身のこちらも

多少(たしょう)後(うし)ろめたさ出てしまう。

そういうのも加味(かみ)して一律(いちりつ)同じお値段(ねだん)なのかしらね。

薄(うす)らぼんやり納得(なっとく)した気になりました。


この人いいな。


目の大きな人でした。

俳優(はいゆう)の様(よう)な笑顔(えがお)をこちらに向けています。


「その人いいですよね。」

銀縁(ぎんぶち)さんはまた私の心の声が聞こえたようで相槌(あいづち)を打って来ました。

「素敵(すてき)ですね。人気(にんき)ありそう。」

「人気(にんき)出るでしょうね。

昨日(きのう)掲載(けいさい)されたばかりですから早い者勝ちですよ。」


「じゃあ この人。」

「かしこまりました。

ただ今日中に契約(けいやく)して頂(いただか)いないと他の方にお買い上げ頂(いただ)くケースもありますのでご了承(りょうしょう)下さい。」

念(ねん)を押(お)されて私は頷(うなず)きました。


わかっているわよ。


次に子どもたち。

イタズラ好(ず)きでワンパクな男の子2人。


その子たちを「やめなさいっ!」て追(お)いかけ回(まわ)しているお母(かあ)さんを想像(そうぞう)しました。


「この子たちがいるだけで幸(しあわ)せ。」


そう言い切れる母親(ははおや)。


素敵(すてき)だわ。


子どもたちも直(す)ぐ決まりました。

性別(せいべつ)と年齢(ねんれい)は先ほど目星(めぼし)を付けてもらっていました。


後(あと)は私に似(に)ている子で夫(おっと)となる人の要素(ようそ)もある子たちを選びました。


私が選(えら)んだ子たちを見て銀縁(ぎんぶち)さんが驚(おどろ)いた顔を見せました。


「上手(じょうず)に選(えら)びましたね!」


何だか褒(ほ)められた気分(きぶん)ね。


カタログから「夫」と「子どもたち」を選んだ後、

私は契約(けいやく)を結ぶサインをすることになりました。

銀縁(ぎんぶち)さんから分厚(ぶあつ)い契約書(けいやくしょ)のバインダーを渡されます。


それと一緒(いっしょ)に『家族(かぞく)取扱(とりあつか)いハンドブック』と題(だい)された文庫本(ぶんこぼん)サイズの冊子(さっし)も渡されました。


「大体(だいたい)のトラブルはこのハンドブックを読んで対処(たいしょ)して頂(いただ)れば解決(かいけつ)致(いた)します。

もし解決(かいけつ)不可(ふか)でしたらこちらまでご連絡(れんらく)下さい。」

ハンドブックの裏(うら)に記載(きさい)されている電話番号(でんわばんごう)を指差(ゆびさ)して私に言いました。


銀縁(ぎんぶち)さんにオフィスビルの出入口(でいりぐち)まで見送(みおく)られ

私は帰途(きと)に着きました。


大きな買い物をしたわ。


疲(つか)れがドッと出て朝まで眠(ねむ)りました。





翌日(よくじつ)、仕事に行くと

「何だか楽しそうですね。」

と総務(そうむ)の女性(じょせい)に声をかけられました。

長年(ながねん)勤(つと)めている50代手前の方です。


いつもは挨拶(あいさつ)と天気(てんき)の話をするくらい。

個人的(こじんてき)なことを聞かれることはほとんどありませんでした。

よほど私が浮(う)かれた感じに見えたのかも知(し)れません。


「昨日(きのう)家族(かぞく)を買ったんです。」

とは言えません。


「ちょっといいことがあって。」


私は濁(にご)して答えました。


「どんなこと?」

教えるまで離(はな)さないわよと総務(そうむ)さんの目が言っています。


総務(そうむ)さんの圧(あつ)に耐(た)えられず

「家族(かぞく)が出来(でき)ることになったんです。」

と言ってしまいました。


ペットのことかしら?

と思われたのかもしれません。


少しの間(ま)の後(あと)、

「ご結婚(けっこん)?」


恐(おそ)る恐(おそ)る聞いてきます。


「ええ、お恥(は)ずかしながら。」


私が答えると総務(そうむ)さんの顔がパッと晴(は)れました。


「あら、おめでとうございます。

バタバタするでしょう。

お手伝(てつだ)い出来(でき)ることがあったら教えてね。」

と手を握(にぎ)って頂(いただ)きました。



私のモノトーンな生活(せいかつ)に一気(いっき)に色がついた瞬間(しゅんかん)でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。