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52.アロケル

「どういうことだ?」

 望月の言葉を理解できず、他の面々がフリーズしてしまったので、代わりに俺がそう尋ねる。……天草を救う。望月は今、そう言った。だが、あいつはもうバアルになっている。それをどうするって言うんだ。まさか、止めを刺すのが救いだ、なんて陳腐な言葉を吐くんじゃないだろうな。

「さっき、先生たちで話し合ったんだけど……このまま、生徒を殺すのも、殺されるのを見てるのも、我慢できないって意見が殆どだったの」

 望月が話したのは、この学園に在籍する教師の総意。

「ここの先生たちって、私も含めて、みんな何かを抱えてるの。だから―――生徒がバアルに成り果ててそのまま無残に殺される。そんな理不尽に耐えられないの。だから、彼女を救いたいって思う人たちが続出して、ある作戦が立てられた」

 望月の言葉に、俺は如月のことを思い出した。……あいつはかつて、「恵那山事変」で兄を亡くしている。それと似たような境遇の奴らが、それぞれの事情でエクソシストになり、この学園に集まったのか。

「そのためには戦力が必要なの。だから、あなたたちにも協力して欲しい。ここにいる全員の力を借りれば、天草さんを助けられるから」

 そう言って、望月は俺たちに頭を下げた。……こいつがここまでするなんて、そんなに天草を助けたいのか。

「……分かった」

 その言葉に、最初に答えたのは双葉だった。こいつには似合わないほどの真剣な表情で、顔を上げる。

「しーたんを助けられるなら、デスサイズでもアイアンメイデンでもギロチンでも、いくらでも出してあげるからっ……!」

 大切な者がバアルに変わり果て、それが殺されるという状況になって。双葉は、誰かのために戦うということを覚えた。これは、兄としては、喜ばしい変化だ。

「……私も、手伝う」

 次に名乗りを上げたのは、雛山。何を考えているのか分からない無表情なのは相変わらず。けれども、強い意志を秘めていることは見て取れた。

「天草さんを、助けたい。私に出来ることなら、何だってする」

 こちらも双葉と同様に、友を救うために戦う決意をしている。こいつは天草と同じ寮で、一緒にいた時間も長いから、思いの強さは双葉よりも大きいのだろう。

「なんだか置いてけ堀にされているみたいだが……生徒会長たるもの、生徒を救うのに躊躇する必要はないな」

「そうだね。僕も副会長だし、生徒会長の方針に従うよ」

「こうなった以上、私たちも協力するしかなさそうね。ねぇ、真理亜?」

「同感ね。私たちが協力しないのは雰囲気的に無理だわ。ねぇ、安奈?」

「が、頑張ります……!」

 生徒会メンバーの面々も、総じてやる気を見せている。こいつらの中では、生徒というだけで助ける理由になるのだろう。

「……それで、織部君はどうするの?」

 そうして、残っているのは俺一人だけ。俺の真意を確かめようと、望月がそう尋ねてきた。

「……もしここで嫌だと言っても、強引に引っ張り出す奴が二人ほどいるからな」

「さすがお兄ちゃん、分かってるね」

「さすがは織部君」

「褒められても嬉しくないんだが」

 その二人がからかってくるので、俺はそう返しておいた。誰のことかは、言わなくても分かるだろう。

「……みんな、ありがとう。それじゃあ、ついて来て。これからミーティングを始めるから」

 望月に言われ、俺たちは移動を始めた。



  ◇



 ……そうして、生徒会メンバーたちはミーティングに参加した。


「……以上でミーティングを終わります。各員、配置についてください」

 進行役の卯月がそう締め括り、ミーティングは無事に終わった。……参加するのは、教師のほぼ全員と生徒会メンバー、そして俺や双葉、雛山だ。尤も、バアル戦に参加するのはその七割ほど。残りはバックアップとして、戦闘には直接参加しない。

「織部君」

 その直後、俺に話しかけてくる奴がいた。養護教諭の霜月だ。

「大事なポジションだから怪我も多いと思うけど、頼んだわよ」

「そっちこそ。そっちがミスったら、俺たちの苦労は水の泡だぜ」

 霜月の言葉に、俺はそう返した。……俺の役割は前衛。バアルに有効なダメージを与えられるため、目標を消耗させる役を与えられた。対する霜月は作戦の要。バアルとなった天草を元に戻す役だ。どちらも重要だが、後者のほうがその責任は重い。

「分かってるわ。だからこそ、あなたたちがちゃんと足止めしててくれないと、こっちもうまく出来ないわ」

 霜月が使うのは、浄化の方術。ただし、普通の浄化ではない。悪魔祓いに特化し、バアルから因子を取り除く効力を持った―――かつて、俺や双葉を人間にした方術だ。それと同じものを、霜月は扱える。

「まあ、それでも成功するかは分からないけどな」

「そんなことは分かりきってる。けど、出来る限りのことはやらないと。……これ以上、理不尽に命が奪われていくのは耐えられないわ。せめて、助かる可能性があるなら、それに賭けたい」

 その口振りから、俺はなんとなく察した。……この学園の教師たちは、皆、何かを抱えている。望月はそう言っていた。つまり、霜月も何かを背負っているのだろう。それが何なのかはどうでもいいが、それが作戦に影響しないかだけが心配だ。

「霜月先生」

「あら、如月先生」

 そんな俺たちのところへ、如月がやって来た。こいつも前衛メンバーだ。

「織部君を借りてもいいですか? 最終確認をしておきたいので」

「ええ、いいわよ。特に大した話もしてないし」

 如月がそう言うと、霜月は俺たちから離れていった。

「すみません、織部君。お邪魔してしまって」

「いや、別に構わない」

 如月が謝ってくるが、正直雑談とも言い難い内容だったし、それほどのものでもないだろう。

「例のもの、用意できました」

「そうか」

 如月が言っているのは、俺の武器についてだ。相手が大元オリジンバアルである以上、今まで使っていたロンギヌスは役に立たない。だから、あれにも有効な武器を用意する必要があるのだ。とはいえ、俺の能力で補強するから、必要なのは外装だけでいい。だから、準備も然程掛からなかった。

「ですが、本当にそれで通用するんですか? 相手は、元とはいえ熾天使ですよ?」

「だからだ。下手に同質の力をぶつけても殺してしまうし、かといって下位の力では全く通じない。これくらいが丁度いいんだ」

「なるほど」

 俺の説明に、如月は納得したように頷いた。……今回は、ただバアルを倒せばいいというわけにはいかない。ある意味、今までで一番難しいのかもしれないな。

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