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48.ハーゲンティ


  ◇



 ……一時間後。


「ロンッ! 満貫直撃八千点ね」

「「「……」」」

 望月のメンタンピンに双葉が振り込んだ。……ここはミニゲームコーナー、麻雀の間。ミニゲームは全てアナログゲームの形式を取っており、ポーカー、ブラックジャック、ルーレットなど、何故か賭け事ばかりだった。この麻雀もその一つであり、担当は望月。クーポンを五千円単位で点棒と交換し、担当を飛ばすかラスにすれば勝ち。参加した全員に一単位が与えられるというルールだ。因みに、望月の点数は五千点固定。三人で協力すれば簡単に単位を得られるからと参加したのだが、結果は見ての通り散々だった。

「……これ、選択間違えたんじゃないのか?」

 無論、望月が普通に強いってのもある。恐らくはかなり場慣れしてるんだろう。だが、それを差し引いても誤算が大きかった。一つは、一番の持久力を持つ雛山が麻雀未経験だということ。一応ルールは教えたものの、十分に理解しているとは言い難く、まともな戦力にならない。俺と双葉は実験の一環で打ったことはあるものの、さすがに望月ほどの場数は踏んでいない。

「まあ、子で五千点削ろうとすれば四翻直撃か、三倍満自摸、或いはこっちが親で跳満自摸かな。親ならもっとハードル下がるけど、どっちにしろ、私から攫おうとするには力不足だね」

 得点計算を改めてされると、確かに無謀だったと反省する。望月から二度和了るのは困難だし、かといって一度で削りきれるほどの役は作れない。……ここは一旦退却するべきだろう。双葉たちも反省しただろうし。



  ◇



 ……更に一時間後。


「ふぅ……どうにか、当初の目的は達成したな」

 俺は溜息を漏らしながら、ミニゲームコーナーから出た。……結局、俺たちは所持金の大半を消費して、どうにかそれぞれ三単位の獲得に成功した。しかし、俺と双葉の残金は一万、雛山も三万しか残っていない。慰霊祭はこれからだが、もう出来ることは多くないのだ。尤も、俺は別に慰霊祭を楽しみたいわけじゃないし、このまま帰るのもありだな。

「よーっし! いよいよこれからだよー!」

「豪遊するなら、あっちに出店があるから、食い倒れしよう」

 だが、この女共は俺の都合など気にしない。まあ、このクーポンは今日しか使えないんだし、使い切ってしまったほうがいいだろう。

「くーいだーおれー! くーいだーおれー!」

「まずはお昼ご飯、そしておやつ増し増し」

「……ったく」

 出店に向かって、歩き出す双葉たち。俺はそれを、呆れながらも追いかけるのだった。



「りんごあめー」

「わたあめおいしい」

 単位を確保して、私たちは出店でお菓子を食べていた。私のクーポンはまだ余裕があるし、織部君と双葉ちゃんにも色々ご馳走してあげる。

「織部君も、わたあめ食べる?」

「要らん。つーか、さっきあんだけ食ったのに、これ以上入るかっての」

 私のわたあめを織部君にも分けてあげようとしたけれど、彼はそう言って断る。……さっきは焼き蕎麦とたこ焼きと人形焼きくらいしか食べてないのに、もうお腹一杯なの?

「お兄ちゃんって小食だったっけ?」

「いや、別にそういうわけじゃないが……そんなに食ってると、太るぞ?」

「私、太りにくいから平気」

「あたしも成長期だから問題なし~♪」

 織部君が嫌味っぽくそんなことを言うけど、私たちは意に介さない。……でも、他の女の子は傷つくと思うから、そういうことはあまり言わないほうがいいと思う。

「……あれ?」

 そんな時、私は視界の端に気になるものを見つけた。……それは、気のせいだったのかもしれない。けれど、一度気になったら、その姿を追ってしまう。

「どうした?」

「……」

 そんな私に気づいて、織部君が声を掛けてくる。けれど、私はそちらに目が向いてて、反応できなかった。

「うーたん?」

「とうとう頭が壊れたんだろう。放っておけ」

 織部君が失礼なことを言ってくるけど、それも一旦無視。……私の視線の先には、屋外訓練場へ続く道があった。そちらのほうへ誰かが―――それも、よく見知った生徒が、入っていったのだ。

「……織部君」

「何だよ?」

「天草さんがいた。あっちのほうへ歩いていった」

「は?」

 私が屋外訓練場のほうを指差すと、織部君は間の抜けた声を漏らした。けれど、実際に天草さんが屋外訓練場へ向かうのが見えたのだ。少なくとも、誰かが入っていったのは事実なのだから仕方ない。

「天草は慰霊祭に出ないんじゃなかったのか? それが何でこんなところに。しかも、あっちは屋外訓練場のほうだろ?」

「しーたん、どうしたのかな?」

 天草さんのことを話すと、二人はそうやって不審がっていた。……最近の双葉ちゃんは、彼女のことをしーたんと呼ぶようになっていた。双葉ちゃんも天草さんと仲良くなっていたし、余計に気になるのだろう。

「追いかけるか?」

「……うん」

 織部君の問い掛けに、私は頷いた。……天草さん、どうしたんだろう? 今日という日は、彼女にとって特別なもののはずだ。なのに、慰霊祭にも出ないで、屋外訓練場で一体何をやっているのか。あそこにはバアルも出るから、一般生徒は普段立ち入らないのに。

「ったく……まあ、見過ごせないか」

「うんっ! しーたんにバアルの相手なんて無理だし、死んじゃう前に助けてあげないとねっ!」

 それは私の我侭だったけど、二人は了承してくれた。……天草さん、どうか無事でいて。



「……」

 慰霊祭の最中、一人の少女が屋外訓練場へ足を運んでいた。慰霊祭の間は教師たちが巡回することもなく、故に彼女が見つかる道理もなかった。

「……」

 そして少女は、昨日と同じ場所へと向かった。彼女はここが、バアルの出没する危険な場所だと理解していた。それでも、少女はここへやって来たのだ。昨日も、今日も。

「……ふぅ」

 微かに息を切らして、彼女は昨日と同じ場所までやって来た。瓦礫の山しかないこの場所まで、少女はバアルに襲われるどころか、遭遇することすらなかった。……いや、バアルも彼女を襲う気などないのだ。何せ、彼女はここのバアルたちよりもずっと高次の存在だったのだ。生徒たちに討伐されるほど下等なバアル如きが襲い掛かるなど、恐れ多いにも程があった。

「……ようやく、この日が来た」

 彼女は、この日を待ち望んでいた。この学園に来るためには今年まで待たねばならなかったし、彼女の内に眠る力はこの日だけ増幅される。

「……今から、行くからね」

 彼女の、人間としての自我は、強大な力を隠すためだ。いや、その力が、彼女の内側に隠れていたと表現するべきか。どちらにせよ、彼女の体は、大いなる意思によって動かされていた。彼女の本心は家族との再会であって、他のことはどうでもいいとまでは言わないが、然程気にかけることもなかった。今までの幸せな時間は、この瞬間まで見続けた夢に過ぎない。

「……今から、みんなのところに」

 けれども、その辺りのことは、彼女の表層心理にはなかった。故に、彼女は自分の中にある異質な存在にも気づかないし、心の奥底では、人間としての生活は未だにかけがえのないものだった。しかしながら、家族との再会を望むのも、それが叶うというのも理解していた。結局のところ、彼女の自我そのものが、大きな矛盾を抱えていたのだ。

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