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46.ビフロンス


  ◇



 ……数時間後。


「諸君、ご苦労だった。これでどうにか目処がつきそうだ」

 パンフレットの製本を終えて。生徒会長は俺たちにそう言いながら、封筒を渡してきた。察するに、報酬の特別クーポンだろう。

「つーか、どうしてこんなぎりぎりに作業してるんだよ?」

 やることはやったので報酬をきっちり受け取りながら、俺は生徒会長にそう尋ねた。……慰霊祭は来週だ。だというのに、どうしてパンフレットの製作を今頃やっているのか? そんなにスケジュールに余裕がないのか? 今まで内容が確定しなかったって可能性もあるが、生徒でやる学園祭と違って、教師たちがもっと前から企画してたんだし、そうそう遅れないだろうからな。

「一つは、織部君たちが抜けて、当初想定した人員が不足してしまったからだ。更には、担当だった望月先生の仕事がいい加減な上に、妹さんの編入手続きで色々手間取ったみたいだな」

「……なんだよその目は? 俺たちのせいだって言いたいのか?」

「口にしないだけマシだと思って欲しいんだがな」

 生徒会長の見通しの悪さと望月の不手際が原因なのに、何故か俺たちに責任を擦り付けられた。俺はそもそも生徒会活動には積極的じゃないし、双葉の編入も上が勝手に決めたことだ。自分たちの失態を無関係な俺たちに押し付けるなんて、生徒会長のすることかよ。

「まあ、ともあれこれでどうにか終わりそうだ。そのクーポンは望月先生が自腹で用意したものだし、遠慮なく使うといい」

「言われなくてもそうするさ」

 しかし、望月は大人らしい方法で自分なりの責任は取ったようだ。……他人の金で豪遊したり、授業をサボれるのは気分がいいな。

「じゃあな。二度と呼び出すなよ」

「全く、君という奴は……生徒会メンバーとしての自覚を持てと何度言えば―――」

「あーはいはい」

 また生徒会長が小言モードに入りそうだったので、俺は雛山、双葉を連れて生徒会室を出た。



  ◇



 ……その後、各々の寮に帰って。


「ただいま」

「あ、おかえりー。生徒会長さんの頼みごと、終わったの?」

「うん」

 生徒会室から出た後。私は真っ直ぐ自分の寮に帰ってきていた。……会長さんから頼まれたとき、天草さんにはメールでそのことを伝えてあった。だから今日は、用事が済んだらすぐに戻ってきたのだ。天草さんだけ仲間外れなのもあれだし。っていうか、どうせならお仕事も手伝ってもらえばよかったかも。

「ボーナスゲットした」

「ボーナス?」

「慰霊祭で使える特別クーポン」

「慰霊祭……」

 クーポンが入った封筒を見せると、天草さんの表情が沈んだ。……そういえば、天草さんは美山町の出身だった。彼女にとって、慰霊祭は普通の学園祭以上に大きな意味があるのだ。それなのに、不用意に口にするのはまずかったかも。

「ごめん……」

「ううん、気にしないで……そっか。もうすぐ慰霊祭なんだよね。楽しんできてね」

「……天草さんは、来ないの?」

「うん……ちょっと、やることがあるから」

 私の問い掛けに、天草さんは目線を逸らしながらそう答えた。……慰霊祭、参加しないんだ。寧ろ真っ先に参加しそうだったけど、やっぱりお祭り気分なのは耐え難いのかな?

「雛山さんは織部君たちと回るんでしょ?」

「うん。二人とも一緒」

「双葉ちゃんも一緒なのはあれだけど……折角のチャンスだから、頑張ってね」

「チャンス?」

 これ以上そのことに触れられたくないのか、天草さんは話題を慰霊祭に変える。だけど、彼女の言うチャンスの意味が分からず、私は首を傾げてしまった。

「うん。織部君ともっと仲良くなれるチャンスだよ。慰霊祭って、そういうのに向いてるんだって」

「そうなんだ」

 それはとても魅力的な話だった。……天草さんが来れないのは残念だけど、今から楽しみだ。



 ……その頃、織部兄妹は。


「いっちっまんえーんっ! たったあれだけでこんなに稼げるなんて、人間って楽勝だね!」

 生徒会長から貰ったクーポンを手に、はしゃぎまくってる双葉。一応、日本円の価値くらいは学んでいるんだな。

「……そのクーポン、額面通りに受け取らないほうがいいぞ」

「どういうこと?」

 そんな妹に水を差すのは気が乗らないものの、後で不満を垂れられても迷惑なので、先に言っておくか。

「そのクーポンの一万円が、日本円と同じ価値とは限らないぞ」

「……どうして?」

「そのクーポンは望月が自腹を切ったらしいが……よくよく考えたら、あの望月がそこまで太っ腹だとは思えない。少なくとも、バイト代に合計三万円は普通じゃない。その一万円、日本円に換算すると千円くらいの価値しかないかもな。要は、額が大きくても、買える物の値段も上げれば価値は小さくなる」

「……それって、詐欺じゃないの?」

 俺の話に、双葉が表情失っていく。……可哀想だが、ここは兄として、妹に人間社会の恐ろしさを教えてやらねばな。

「生徒会長は、特別クーポン一万円分としか言わなかった。それが日本円の一万円と同等の価値を持つとは言わなかった。それに、このクーポンは元々各自の成績に応じて配布されるものだ。現金と交換するシステムじゃない。なら、十分に考えられることだろ? 或いは、出店の食い物とかは日本円と同じ値段設定でも、単位取得のミニゲームとやらは割高って可能性もあるな。何しろ、授業をサボれるわけだし」

「……」

 そうして、双葉は完全な無表情になった。まるで鬼のよう……いや、こいつはバアルだったか。俺もだけど。とはいえ、鬼型のバアルもいるし、別に変な表現でもないか。

「妹よ……人の世は非情なんだ」

「人間なんて愚かな種族、滅ぶべきだと思う」

「だから、俺たちみたいなのが出てくるんだろうな」

 恐らくは、人間の愚かさが俺たちバアルを生み出しているのだろう。かつては心の支えにしていた信仰が破綻し、忘却され、そうして行き場のなくなった思いが形となって現れたのがバアルだ。バアルが出現するのは、教会などの宗教施設跡地、強い宗教観念や信仰が残る場所が多い。北欧神話を題材にしたアニメの聖地でも現れるくらいだから、条件自体はとても緩いはずだ。まだ現れていない場所でも、今後出現する可能性はあるのだ。

「あの生徒会長さん、デスサイズで切り殺してあげようか……ううん、苦痛と処刑の象徴である拷問道具のフルコースっていうのも捨て難い」

「とりあえず、仕返しは当日確かめてからにしろよ」

 双葉は生徒会長への復讐を考え始めていたが、今はまだ推測の段階なのだ。早まらないで欲しい。……本当だったときは、ちょっと止めようがないと思うがな。

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