43.サブナック
◇
……それから数日。
「はぁ……」
実技訓練の授業中。俺は思わず溜息を漏らした。……ここ数日、雛山が放課後に寮へ来ては邪魔してくる。双葉も、一緒に住んでいるのをいいことに、風呂や布団に入り込もうとしてくるのだ。ラノベを信じているのかと思ったが、単純にラノベで妹キャラがやっていたことに憧れているだけのようだ。つまり、大人しくしている気は毛頭ないということだ。俺にとっては悪夢以外の何物でもない。
「お兄ちゃん、行っくよー!」
「ったく……ロンギヌス」
だが、この生活にも一つだけいいことがあった。実技訓練の相手が双葉になったのだ。……こいつが使うデスサイズは死の象徴。人間が受ければ、掠っただけでもまず死ぬ。そんな奴と模擬戦が出来るのは、俺くらいだ。俺のロンギヌスは神の子の遺体を貫いた槍。故に、「遺体を貫く=死を貫く」ということでデスサイズの力を相殺できる。また、双葉の元ネタは元々力天使だったから、ロンギヌスの射程内だ。要するに、俺たちは互いの武器が相手に対する致命傷になる。だからこそ、同じ条件で戦うことが出来るのだ。相手を傷つけないように細心の注意を払う必要はあるが、人間からの一方的な暴力に苦労しなくて済むのは幸いだ。
「そりゃー!」
「はっ……!」
俺がロンギヌスを構えた直後、双葉がデスサイズで切り掛かってきた。俺はそれをロンギヌスで弾くと、効力を持たない柄の部分を双葉に叩き込む。
「きゃっ……! う~……それなら、えいっ!」
「せいっ……!」
諸に腹へ入れたのだが、双葉は平然として再び切り掛かってくる。致命傷となる刃だけは弾いて、或いは躱しつつ、まるでチャンバラのように切り結んだ。
「うふふっ! お兄ちゃんと遊ぶの、楽しい~!」
「一応授業だからな。遊びじゃない」
触れただけで死を齎す鎌を振り回しながら、双葉は無邪気に笑っている。だが、やっているのは殺し合いと同じだ。それを楽しめる辺り、俺もこいつも人間とは違う種族なのだと実感してしまう。
「まあまあ、そんなこといいじゃん。お兄ちゃんと殺し合いだなんて、普通の妹ならみんな経験してることなんだから。あたしだって一度くらいしてみたいよー」
「これをお遊戯呼ばわりするような可愛げのない妹は御免だ」
双葉を窘めながらも、俺自身、この命懸けチャンバラは楽しいと感じていた。人間相手では俺がボロ負けだし、バアル相手ではどちらかが圧倒することになる。こうやって純粋に打ち合いを楽しむなど、同条件の相手でないと不可能だ。
「よーしっ! じゃあ、これでどうだー!」
「うぉっ……! ったく、なら、手加減しないぞ」
そうして俺たちは、模擬戦を楽しんだのだった。……こうしていると、妹も悪くないと思えるのだが。あまり変なことをしなければ、寧ろ歓迎してもいい。
◇
……その日の放課後。
「……織部君。君は一体何を考えているんだ?」
授業が終わり、そろそろ帰ろうと思っていたら、生徒会長が教室にやって来た。……ここのところ生徒会をサボっていたから、それを咎めに来たのか。
「ここ最近、生徒会に顔を出してないじゃないか。全く……生徒会メンバーとしての自覚があるのか?」
「んなもんはない。そもそも、あんたが無理矢理入れたくせに」
「無理矢理とは失礼な。君だってちゃんと同意したじゃないか」
「あれはもうただの脅しだろ」
生徒会長の台詞に、俺は生徒会に入るに至った経緯を思い出していた。俺が普通の生徒ではないと気づいて、それをネタに脅して生徒会へ引き入れた奴に、生徒会メンバーとしての自覚がどうとかだなんて言われる筋合いはない。こんなんだから顔を出したくないのだ。
「妹さんが編入してきたのは聞いていたから、少しだけならと大目に見てきたが……これ以上サボるなら、こちらとしても考えないといけないんだが」
「……」
生徒会長の言葉に、俺は内心冷や冷やしていた。……今、この学園には俺だけでなく双葉もいる。つまり、その手の噂に関して、教師たちも敏感になっているだろう。俺たちの秘密を―――例え疑惑の範疇であったとしても―――吹聴すれば、最悪処分される。この生徒会長が処分される分には望むところなのだが、それが原因で俺たちまで処罰されては堪らない。だからこそ、この生徒会長には大人しくしてもらわないといけないのだ。
「織部君、どうしたの?」
「お兄ちゃん? 帰らないの?」
すると、俺が教室から出てこないことに気づいた雛山たちが戻ってきた。……このタイミングで来て欲しくない奴らがやって来やがったな。話がややこしくなるだろうが。
「君たちか。……雛山さんもだ。いい加減、生徒会に顔を出してくれないか?」
「織部君、生徒会サボってるから、嫌」
生徒会長が、同じく生徒会メンバーである雛山にも出席を促すが、そう一蹴されてしまう。……こいつほんと、最近俺にご執心だよな。強い奴と戦いたいからと入った生徒会なのに、俺が不参加なら一緒にサボタージュだなんて。まあ、生徒会長や望月に勝てるくらいだから、学内の相手では満足できないのだろう。
「ほ、ほら、妹さんも……そ、そうだ! どうせだったら兄妹で一緒に生徒会活動というのも―――」
「えー? あたし、そんなことよりお兄ちゃんとイチャイチャしたい!」
今度は双葉に矛先を向ける生徒会長だったが、こちらも振られてしまった。……なんか変な単語が聞こえた気がするものの、今はそれどころではないからスルーしてやろう。
「だ、だが、織部君……! 君だけでも生徒会に出てもらわないと……!」
「面倒臭い」
「そんなこと言ってていいのか? 私に逆らったら―――」
「前から言おうと思っていたんだが」
それでも食い下がる生徒会長に、俺は警告することにした。
「―――俺たちの事情に首突っ込むと、消されるぞ?」
「……っ!」
俺の台詞に、生徒会長はたじろいた。実際、もしも本当にばらしたら、こいつが消されるのは間違いないだろう。良くて、余生を隔離されて過ごす。最悪、異端者として処刑されるだろうからな。
「二人とも、帰るぞ」
「うん」
「はーい」
これで話は終わったと、俺は双葉たちを連れて教室を出ることにした。
「……」
そんな俺たちを、生徒会長は何も言わずに見送る。……これで、もうしつこく迫ってくることはないだろう。一応、後で望月か如月辺りに言って、釘を刺してもらうが。




