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42.ウェパル


  ◇



 ……数時間後。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい、雛山さん」

 織部君の寮を出て。私は自分の寮に戻ってきていた。寮には既に天草さんがいて、私を出迎えてくれる。

「ご飯出来てるよ。食べる?」

「うん」

 帰って早々、天草さんが用意したご飯を食べる。今日の献立はカレー。私が好きな―――というか、天草さんの料理の中で一番好きなメニューだ。

「今日も生徒会?」

「ううん、織部君のところ」

 天草さんも自分のカレーを食べながら、そう尋ねてくる。けれど私は、今日は織部君の寮にいたのだ。

「織部君? もしかして、織部君の寮にいたの?」

「うん。双葉ちゃんも一緒に」

「双葉ちゃんって、織部君の妹さんだよね? もしかして同じ寮なの?」

「うん」

 天草さんも同じクラスだから、双葉ちゃんのことは知っている。けれど、兄妹とはいえ同じ寮なのは予想外だったみたい。

「そっかー。双葉ちゃんって、お兄さん思いのいい子だよねー」

 天草さんにとって、双葉ちゃんは織部君のことが好きないい子のイメージみたい。最初の一言は完全にスルーされてるのかな。

「話が合うから、結構長居しちゃった」

「そうなんだ。うん、確かに雛山さんと話が合いそうだよね」

 天草さんがどういう意図でそう言ったのかは分からないけど、他人から見ても私と双葉ちゃんはお似合いのようだ。他の人にはきつく当たる双葉ちゃんだけど、私には暴言を吐かないし、向こうも気が合うと思ってくれてるのかもしれない。

「双葉ちゃん、今頃は織部君と一緒にお風呂かな?」

「……あの二人、一緒にお風呂入るの?」

 私の言葉に、何故か表情を引き攣らせる天草さん。……双葉ちゃんも、織部君とお風呂入りたいはず。私は前に入ったからいいけど、それでもちょっと嫉妬しちゃう。



 ……その頃、織部兄妹は。


「お兄ちゃん、お風呂入ろー!」

「寝言は寝て言え」

 雛山が帰り、夕食を終えて。双葉がまた寝惚けだしたので適当に突っ込んで、俺は手元のラノベに目を落とす。

「えー?」

「だが、ちゃんと話を聞かせてくれたら、考えなくもないぞ」

「話……?」

 けれども、双葉は絶対に諦めないだろう。だからこそ、せめて自分が有利になるよう交渉することにした。……こいつの正体は如月から聞いていたが、まだ詳細な情報はない。それならば、本人から直接聞くのが手っ取り早いだろう。本当に俺の同類ならば、隠す必要もないだろうしな。

「お前の正体、いい加減話せ。今なら部外者もいないだろ」

「あー、そんなことかぁ。いいよ。お兄ちゃんに隠し事はしないし」

 俺の要求に、双葉は意外にもあっさりとそう答えた。……これ、交渉した意味あったのか?

「でも、もう分かってるんでしょ? 「バアルお兄ちゃん」」

「……やはり、「アガレス」だったか」

 彼女が放った一言で、俺は自分の考えが正しいと確信した。……こいつの正体は、ソロモンの悪魔序列二位、アガレスだ。つまりは、人間化したバアル。それがこいつの―――そして、俺の正体なのだ。

「けれど、俺以外にもいたんだな。こんな奇天烈なものを作る連中が、ただの一体で満足するとは思ってないが」

「まあ、そうだよねー。そもそもバアルを捕獲して人間化するって発想自体がトンデモだから」

 エクソシストにとって、バアルは言うまでもなく殲滅対象だ。そのバアルで実験するだけならまだしも、人間を作るなどと知れたら、エクソシストの権威は地に落ちる。だからこそ、俺たちの正体を他の学生に知られたらまずいのだ。最悪、俺たちが処分される。

「それで、お前がここに来たのは、俺と同じ理由か?」

「そ。エクソシストとして利用するための研修と、人間社会に馴染むための訓練って名目でね。お兄ちゃんがいるここなら、余計な情報を新たに流す必要がないからって」

 俺たちのことは、学園の中でも望月や如月などの一部にしか知らされていない。もしも双葉を別の学園に入学させると、機密情報を余計な人間に漏らす必要が出てくるのだ。だから俺のところへ来たのだろう。

「じゃあ、お前の能力は何なんだ?」

「んー? あれは、一般的な概念を武器化する能力だよ。お兄ちゃんの能力があまりにも地味だったから、今度はもっと強い能力を付与したんだって」

「地味で悪かったな」

 俺と双葉に備わった能力は、俺たちが持っていたバアルとしての特性に指向性を与えて調整したものだ。しかし、俺の能力は調整を間違えたらしく、名前を与えるという扱い辛いものになっている。それに対して双葉の能力は、武器を作り出すという便利なものだ。武器そのものは自分で用意しなければならない俺のものとは大違いだな。

「でも、バアルによっては一般概念より神話の武器のほうが有効だし、そこまで悲観的にならないでいいと思うよ。妹のほうが優秀なのも普通だし」

「お前は俺を持ち上げたいのか落としたいのかどっちなんだよ……?」

 俺を褒めたり持ち上げたり、かと思えば貶してくる。この妹は俺のことをどう思ってるんだ?

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ? どんなに周りから見下されても、みんなを潰して一番してあげるし」

「それなら相対的に一番だろうが……止めておけ。俺は悪目立ちしたいわけじゃない」

「冗談だってば~。まあ、お兄ちゃんに危害を加える愚かな連中には死の鉄槌を下すだけだけどね」

「だからそれを止めろっての」

 前々から思っていたことだが、こいつの倫理観は色々とおかしい。少なくとも、人間社会で生きるには不都合だろう。このままだと、何かある度に人を殺しかねない。もっと別の訓練が必要だと思うんだが。

「いいか? 俺の妹を名乗る以上、俺に恥をかかせるな。お前が無闇に人を殺せば、俺は殺人犯の兄貴になるんだぞ?」

「お兄ちゃんを馬鹿にする奴は皆殺しにするから大丈夫だよ?」

「だから、お前のその態度が原因なんだろうが。お前が大人しくしててくれれば、余計な恥をかかずに済むんだ」

「? お兄ちゃんを傷つける奴をぶっ殺すのは妹の義務でしょ?」

 何度話しても、会話が平行線のままだ。……普通の会話ならば、話を聞かないのは放置すればいいが、今回は今後の学園生活にも影響を与える。無視するわけにもいかんだろう。

「いいから、殺人はなしだ。場合によっては兄妹の縁を切るぞ」

「えー? お兄ちゃん、人間になって甘くなってない?」

「いいんだよ。俺は、ラノベが読める生活が出来ればそれでいい」

 俺の平穏な生活を壊す妹には、しっかり釘を刺して置けねばな。

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