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39.マルファス


  ◇



「……織部君」

「ああ」

 ミーティングが終わって。案の定、如月が俺に声を掛けてきた。……あの双葉とかいうガキのことだろう。

「あの子、やっぱり……織部君と同類みたいですよ。それも、二番目の」

「そうか……」

 俺が思った通り、あいつは俺と「同じ」だったようだ。……道理で、トールを一撃で倒せるわけだ。

「それから、もう一つ。……あの子、もうすぐ来るみたいです」

「来るって、どこに?」

「学園―――「A・ジェイク学園」に編入するとか」

 「A・ジェイク学園」。言うまでもなく、俺たちが通っている学校だ。そこにあいつが入ってくるのか……?

「多分、あなたと同じクラスに編入することになるでしょう。……その場合、厄介な事態になるのは明白ですけど」

「もう既に面倒だけどな」

 現状でも雛山に絡まれて面倒なのに、そこへ二番目が入ってくるとか……俺をストレスで殺したいのか?

「そうなれば、望月先生が担当になるはずですけど……あの人の性格から考えて、全部織部君に投げそうですね」

「っていうか絶対そうするだろ……」

 おまけに、担任はあの望月だ。あいつのことだから、俺の同類ってことで、全部俺任せにしてくるだろう。あいつはもう少し、勤勉さというものを身につけて欲しい。

「とはいえ、私たちが戻ってすぐではないようですし、それまでに対策を考えておくべきでしょうね」

「対策なぁ……俺と同類なら、人間に危害を加えることは出来ないはずなんだが」

 あの双葉とかいうガキ……さっき会った感じだと、俺の同類とは思えないような雰囲気だったな。生徒会長たちに喧嘩売ってたし。それに、トールを倒したあの鎌も気懸かりだ。あれは恐らく、万人に等しく訪れる「死」を象徴した武器だろう。それはつまり、あの力は人間にも通用する可能性があるということでもあった。

「……あいつがトールを倒したときの鎌、どう思う?」

「あれですか? あれは恐らく、デスサイズですね。本人も言ってましたし。生ある者全てに訪れる死の象徴、死神の持つ鎌です。その意味は、命を刈り取る。草を刈る鎌の性質を、生命を奪う、つまり死に準えたのですが、あの攻撃はそれでしょう。トールもヨルムンガンドと相打って死亡していますから、死そのものを象徴する方術からは逃れられません」

 如月も、あの鎌がデスサイズだというところまでは同意見だった。だが、あれが人間を害する可能性があるところまでは考えが及んでいない様子。

「それが人間に使われた場合、どうなる?」

「え……? 方術を、人間にですか?」

「普通の方術ではなく、あいつの能力だった場合、影響はどうなる? あのトールのようなことにならないだろうか?」

「……」

 俺の指摘に、如月は黙ってしまった。要するに、全く想定していなかったのだろう。

「俺たちは人間に危害を加えられない。だが、あいつの力がその法則を超えてしまったらどうする? その辺、ちゃんと問い合わせたほうが良くないか?」

「……そうですね。すぐに確認を取ります」

 如月はそう言うと、そそくさと立ち去った。あいつの担当と連絡を取るのだろう。……つーか、最初に確認しとけよ。一番重要なことだろ。



  ◇



 ……翌日。今日は合宿最終日で、生徒会メンバーは学園へ戻るため、バスに乗り込んだ。


「……ふぅ」

 俺は座席に着くと、思わず溜息を漏らした。……この合宿では、いつも以上に働いて、結構疲れた。特に昨日は、トールという大物が相手で、疲労感が酷い。

「……」

 そして、行きと同じく、隣には雛山の姿も。……こいつもいい加減にして欲しい。もう突っ込むのも相手をするのも面倒で無視しているが、俺の疲労は何割かがこいつのせいだからな。責任取れとは言わないが、もう二度と関わらないで欲しい。

「……織部君」

「……」

 雛山が話し掛けてくるが、俺は寝た振りをして無視。実際、夜寝た分だけでは不十分だし、もう一眠りしようか。

「……」

 すると、雛山の顔が近づいてくるのが気配で分かった。……それでも、俺は無視する。ここで反応したら負けた気がする。

「……」

「……っ!」

 だが、そんな俺を弄ぶように、頬に何か―――恐らくは雛山の手が触れ、俺は飛び上がるようにして目を開けた。

「織部君」

 案の定、雛山は俺の顔に手を触れていたらしく、俺に手を伸ばした状態で固まっていた。

「何するんだよ?」

「だって織部君、呼んでも返事しないから」

 俺が文句を言うと、雛山はそう返しながら、顔を近づけてくる。……無論俺も顔を離すのだが、俺が座っているのは窓際で、後頭部が窓に当たってしまった。これ以上は距離を取れない。

「何で顔を近づける?」

「織部君の顔、もっとちゃんと見たい」

「見なくていい」

「見たいの」

 これ以上近づくなと言っても、聞く耳持たない。いつもの我侭だが、ほんとに迷惑だな。

「……」

 互いの吐息が感じ取れる距離まで近づき、無言になる雛山。その視線は俺の目へと注がれている。

「おやおや、相変わらず二人はお熱いね」

「合宿のお陰で更に距離が縮まった感じかな?」

「あらあら、今にもキスしそう。ねぇ、真理亜?」

「そうね、熱い口付けを交わそうとしているわね。ねぇ、安奈?」

「……Zzz」

「雛山さん、ファイトです」

 そしてまたもや、外野が騒ぎ立てる。……俺も大村みたいに寝たいんだが。つーかお前ら、止めてくれよ。

「……えいっ」

「うぉっ……!」

 それに触発されたのかは分からないが、雛山は突然俺の頭を掴むと、自分の胸に抱え込んだ。俺から見ると、俺が雛山の胸に顔を突っ込んでいるような形になる。……何するんだよ? 薄っぺらい胸板では口と鼻は塞がれないが、強い力で抱き締められ、頭蓋骨が悲鳴を上げている。

「お、大胆だな」

「役得だね、織部君」

「あら? キスではなく赤ちゃんプレイなのね。ねぇ、真理亜?」

「みたいね。まあ、男と女なら十分あり得るプレイでしょうけど。ねぇ、安奈?」

「これはこれで……眼福眼福」

 この突発的な行動に、外野も盛り上がる。……如月、後でエクソシストの倫理委員会に色々とチクるからな。覚悟して置けよ。

「織部君、ずっと一緒だよ……」

「……」

 俺は今すぐにでも離別したいのだが、抵抗するのは無駄だと分かりきっているので、仕方なくされるがままになっていた。……この抱擁は休憩時間まで続き、俺は頭蓋骨だけでなく、無理な体勢で首や背中まで痛めるのだった。

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