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38.ハルファス


「お前は……何者なんだ?」

 突如現れ、トールを屠った女児。その正体にはある程度見当がついているが、俺はそう問い掛けずにはいられなかった。

「その説明、今したほうがいい? 色々問題ありそうだけど」

 だが、女児は至って真面目そうに返してきた。……そういえば、すっかり失念していたな。ここには雛山もいるから、もし俺の予測が当たっていれば、こいつには聞かせられないだろう。

「お兄ちゃんは、もう少しちゃんと考えてから行動しようね?」

「……つーか、俺はお前みたいな妹を持った覚えはないんだが」

「だーかーらー、今話したら、困るのはお兄ちゃんだよ?」

 それはそれとして。この、「お兄ちゃん」呼ばわりには虫唾が走る。……ただ年上の男性という意味で遣っているのだろうか? いや、俺と同じ出自の者ならば、言葉通り「妹」なのだろう。だからこその不快感なのだと、逆に納得できた。

「……織部君。とにかく私たちも下山しましょう。皆さんと合流しなくては」

「……そうだな」

 気になることはあるが、如月の言うように、今は生徒会メンバーと合流するべきだ。またトール並みのバアルが出るとも限らないし。



  ◇



「織部君……! 無事だったか……!」

 山の入り口まで戻ると、生徒会長以下生徒会メンバーが揃っていた。どうやら、ゲートに常駐しているエクソシストに報告していたらしい。

「まあ、お陰様で全員無事だ」

「そうか……良かった」

 俺たちを見て、生徒会長は安堵の息を漏らした。……いつもは自分が率先してバアルの相手をしているのに、今回の合宿では―――特に今日は、完全に足手纏いだったからな。なるほど、これは貴重な経験なのかもしれない。と、俺は今更ながら、この合宿の趣旨を思い出していた。

「それで……その子は」

「ん? ああ、なんか突然現れて、加勢してきた」

 生徒会長が女児に視線を向けてきたので、俺は事実を端的に話した。……まあ、死地から戻ってきた仲間が幼女を連れていたら、普通は不思議に思うよな。ましてや、そいつが敵を倒したとは夢にも思わないはずだ。

「そうなのか……いや、私たちが事情を話して応援要請をしたら、その子が山に入っていったんだ。大丈夫だとは言われたが、さすがに心配だったんだが……」

 だが、生徒会長曰く、こいつは俺たちを助けるために駆けつけたらしい。……とはいえ、さすがに子供では、生徒会長も不安だったのだろう。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん、この人たち誰?」

「「「「「お兄、ちゃん……?」」」」」

「そんな目で見られても知らん。なんかそう呼ばれてる」

 女児が俺に呼び掛けると、その呼称が気になったのか、合流した生徒会メンバー全員から変な目を向けられた。……いや、なんで俺が悪いみたいな感じになってるんだよ? そりゃ確かに、妹でもない幼女に「お兄ちゃん」呼ばわりされてたら、危ない奴だと思われても仕方ないんだろうけどさ。何故そこで普通に妹だという方向に思考が向かない。いや、妹じゃないはずなんだが、妹とも言えなくないわけで―――複雑すぎる。

「ねぇ、お兄ちゃんってば! この粗暴な女とか、チャラチャラした優男とか、変な双子とか、地味子とか、誰なの?」

「そ、粗暴……?」

「優男って、僕のことかい……?」

「あらあら……このガキ、ちょっと調子に乗ってないかしら? ねぇ、真理亜?」

「そうね……このガキ、少々懲らしめないとだわ。ねぇ、安奈?」

「じ、地味子って、もしかして私のこと……?」

 そして女児は、生徒会メンバーにさりげなく喧嘩を売っていた。……こいつ、素じゃなくて、態とやってるよな? 侮られたのが気に食わないのか?

「あー……生徒会の愉快なメンバーたちだ。怒られないうちに失言を謝ったほうがいいぞ?」

「えー? どうしてこんな下等生物に謝る必要があるの?」

「……織部君。私たちはその子を懲らしめても許されると思うんだが、さすがに子供に手を上げるのは大人気ない。だから、「お兄ちゃん」として、責任を取ってくれないか?」

 俺が謝罪を勧めるも、女児がより強烈な罵倒をし始めたので、生徒会長が額に青筋を浮かべながらそう言い出した。……要約すると、「むかつくからお前を代わりに殴らせろ」って感じか? 冗談じゃない。

「……お兄ちゃんに、何するの? 暴力女」

「ぼっ……!? ……織部君、妹の躾くらいちゃんとしてくれないか?」

 女児に暴力女呼ばわりされて、さすがにそのまま殴ろうとはしてこなかったが、生徒会長はそう苦言を呈してきた。……何なんだよ? これは、俺が悪いのか? どうして俺が批難されるんだよ?

「つーか、お前、名前はなんていうんだよ?」

 俺は話の流れを変えるためにも、女児の名を尋ねた。……それで大体、俺の予想が正しいかも分かるからな。

「あたしの名前? えっとね―――」

 そうして、女児は勿体つけるようにしながら、名乗るのだった。

「織部双葉だよ。よろしくね、お兄ちゃん」



  ◇



 ……とりあえず、一同は宿泊している旅館まで戻ってきていた。


「……にしても、さっきの子はなんだったんだい? 織部君の妹さんらしいが」

 如月の部屋に集まったところで、生徒会長は溜息を漏らしながらそんなことを言い出した。……とりあえず、あいつは俺の妹―――俺がその辺の幼女に「お兄ちゃん」と呼ばせて悦に入ってるというわけではなくて―――ということで納得したらしい。実際は違うが、正確な事情を知らないのにこれ以上突かれても面倒なので、そういうことにしておいた。

「妹の教育くらいはちゃんとして欲しいものね。ねぇ、真理亜?」

「そうね。私たちみたいに一心同体というわけでもないのだから、ちゃんと調教して欲しいものね。ねぇ、安奈?」

「妹を調教するのは鬼畜だと思うんだけど……確かに、あの言葉遣いはいけないね」

「じ、地味子って言われた……」

 他の生徒会メンバーも各々不満を漏らしている。庶務の大村なんか、未だに地味子呼ばわりされたことを引き摺っているらしい。いや、実際地味だし。治療以外には特に特徴もないだろ。

「さっき確認しましたけど、どうやらここへ研修に来ていたらしいです」

「研修?」

 すると、如月がそんなことを言い出した。……多分、こいつらに話すために用意された「表」の事情だろうな。俺も話を合わせておくか。

「織部君の妹さんは優秀なエクソシストで、恵那山に来ていたのはその研修のためだとか。ここはエクソシストが経験値を積むための場所ですから」

 如月が話す事情は、確かに不自然ではなかった。寧ろ、この状況では自然すぎるくらいだろう。

「ほぅ、織部君の妹さんがねぇ……織部君も優秀なエクソシストだとは思っていたが、妹さんもなのか」

 その甲斐あって、生徒会長たちも納得していた。……俺が優秀なのかは知らんが。

「ともかくです。皆さん、お疲れ様でした。合宿は実質的に今日で終わりです。明日には学園へ戻りますから、最後にゆっくりと休息を取ってくださいね」

 如月がそう言って、ミーティングを締め括った。……なんか色々あったが、これでこの合宿も終わりか。

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