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35.マルコシアス


「どうやら危なかったみたいだね」

「あらあら、生徒会長も油断していたみたいですね。ねぇ、真理亜?」

「そうですね、生徒会長でもそういうことがあるのかしら。ねぇ、安奈?」

「大丈夫?」

 他の戦闘も終わり、生徒会の面々が戻ってきた。どうやら、全員怪我一つなくバアルを倒せたようだな。……女川姉妹が妙に嫌味ったらしいが、今に始まったことではないので、気にしないで置こう。

「あ、織部君……もしかして、右腕を痛めてるの?」

 すると、大村が俺を見てそんなことを言ってきた。……無意識のうちに右腕を擦っていたから、気づかれたようだな。

「み、見せてみて……今、治療するから」

「要らん」

 十字架のペンダントを取り出し、方術による治療をしようとしてくる大村。だが、俺の体は方術と相性が悪い。適切なもの以外は、寧ろ体を傷つけることになるのだ。そして、大村に適切な方術は使えないだろう。実力云々の問題ではなく、こいつは俺の体質を知らないからだ。

「で、でも……」

「くどい」

 故に俺は断ったのだが、それでも大村は俺に手を伸ばしてきたので、俺はその手を払った。

「あ……」

 すると、大村はおずおずと引き下がる。……少々きつかったのかもしれないが、下手な方術で体を荒らされては敵わない。そうなれば、こいつは余計な責任を感じるだろうしな。つーか、払うのに使った手が痛い。

「……さ、行くぞ」

 ただ、場の雰囲気が気まずい方向に流れてしまったので、俺はそう言って歩き出した。



  ◇



 ……夕方。


「……ふぅ」

 日が傾き始めて、俺たちは旅館に戻ってきた。俺はトイレで用を足し、一息吐いていた。

「ったく、面倒なことになったな……」

 便座に座りながら、俺は今日のことを思い返す。……恵那山に出没するバアルはネフィリムと聞いていたのだが、実際は北欧神話系統の巨人だった。まあ、正教以外のバアルについては、重要度が低いとはいえ機密扱いだから、黙っていた如月を批難する気はない。どっかの誰かみたいに重要機密をうっかり漏らさないだけマシだ。だが、問題なのは装備のほう。今はまだ手持ちの装備で足りているが、今後厄介な巨人などが増えてくれば、装備が足らなくなる可能性もある。実際、ミョルニルを放つための金槌は残り二つだけだし、他は槍とロープだけだ。これでは、特定のバアルに対して有効な手が使えないこともあり得るだろう。

「まあ、嘆いていても仕方ないか」

 俺は立ち上がると、水を流してトイレから出た。

「織部君」

「如月かよ……」

 すると、トイレの前で如月と出くわした。……いや、待ち伏せされてたんだろう。男子トイレの前で待ち伏せとか、趣味が悪いな。

「何の用だ?」

「さっきの、大村さんに対する態度です」

 そこまでするからには相当重要な話でもあるかと思えば、返ってきたのはそんな言葉。……大村って、さっきの治療の件か。

「仕方ないだろ。俺の体質上、下手な方術を受けたらダメージになるんだからな」

「それは分かっています。ですが、それならそれで言葉の選びようというものがあります。……雛山さんとのイチャラブ混浴イベントで少しは丸くなったと思ったのに、とんだ期待外れです」

「お前は俺に何を期待しているんだよ……?」

 尤もらしい説教をしながら、さらりと自分の欲望を混ぜてくる如月。お陰で、別に雛山とイチャコラしていないという突込みをし損ねただろ。

「ともかく、俺は何も間違ったことはしてない。文句があるなら、俺の正体を隠してるお偉いさん方に言え」

「そ、それは……」

 だから俺は、こいつが絶対に返せない台詞でこれ以上の会話を断念させる。……エクソシストという存在は、組織は、決して綺麗ではない。寧ろ醜い面ばかりが隠れているのだ。こいつは、それを嫌というほど分かっている。

「……」

 そして俺は、如月を放置して自分の部屋に戻る。そんな俺に、如月は何も言わなかった。



  ◇



 ……それから、生徒会メンバーは恵那山でバアルと戦い続けた。北欧神話系のバアルにも慣れてきた合宿四日目。五日目は移動日なので、この四日目が実質的な最終日だ。


「……ふぅ」

 バアルとの戦闘が終わり、俺は一息吐いていた。……先程出現したのは、ワルキューレの群れ。ワルキューレ自体は容易に倒せるのだが、さすがに数が多くて手間取っていた。俺や如月もフォローではなく前に出て、ワルキューレを倒し続けていたのだ。

「それにしても……妙ですね」

「ああ、確かにな」

 如月が漏らしたその言葉に、俺は同意した。……事前情報と、出現するバアルの種類が違いすぎる。ネフィリムは霜の巨人と間違えていただけだったが、その他のバアルが多すぎるのだ。

「この辺りは巨人のバアルしか出てこないはずなんですが……どういうことなんでしょうか?」

「知らん。こっちが聞きたいくらいだ」

 一年でバアルの分布が変わることはないとはいえないが……それにしても極端じゃないだろうか?

「……そういえば、ずっと聞きたかったんだが」

「何ですか?」

 そこで俺は、一つだけ気になっていたことを確かめようとした。丁度、他のメンバーは息を整えていたし、大村はメンバーの世話に掛かりっきりだから、聞かれる心配もなくて好都合だろう。

「この恵那山って、「オーディン様の手の上で」の舞台じゃないのか?」

「……よく気づきましたね。あれのヒントは、原作のほうだと地理的位置くらいしか情報がないのですが。っていうかよく知ってましたね」

 俺が挙げたのは、あるラノベ作品。とある田舎に、北欧神話の神々が美少女化して登場する話だ。その舞台が、この恵那山に酷似していたのだ。

「ということは、ここに北欧神話系統のバアルが出るのも、それが原因か」

「でしょうね。あれはライトノベル黎明期というか、まだあまり広まってない時期からの作品でしたから。長期シリーズ化、アニメ化、更にはライトノベル人気も相まって、ここでも結構なイベントがあったみいですね。いわゆる聖地ですから」

 かなり古いラノベ作品の聖地で、しかもその作品が北欧神話を題材にしていた……なるほど、これでようやく合点がいった。それでここは、北欧神話のバアルが多いのか。

「だが、それだけでは分布の変化が説明できないか」

「それです。恐らく、バアルの分布は原作に準じていたんだと思いますが……それが崩れたというのは」

「単なる野生化ってわけでもないよな。それだと、一年で急に、ってとこが不可解すぎる」

 バアルが現れるのには、大抵理由がある。バアルの種類や分布もそれに依存していることが多い。その分布が崩れるのは、そもそもの理由からバアルの存在が外れてしまう野生化なのだが、それも一年やそこらで起こる現象ではない。最低でも二、三年ほど、徐々に起こるものだ。

「まあ、考えても仕方ないか」

「そうですね。……もしかしたら、上のほうが何か掴んでるかもしれませんが、私の方へは降りてこないでしょうし」

 とりあえず、考えても答えが出ない疑問は棚上げすることにした。

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