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22.イポス


  ◇



 ……そして放課後の生徒会。


「―――さてと。それでは、今年の合宿について説明するぞ」

 生徒会長はそう言って、俺たちに資料を配った。合宿のしおりみたいだな。

「合宿先は恵那山。―――かの「恵那山事変」の舞台となった場所だ」

 「恵那山事変」……この前の授業でもやっていた、日本がエクソシストを受け入れることになった大事件。バアルの脅威を国民に煽った当時の政府は、自衛隊を軍に再編成し、更には足りない人員を徴兵制や企業からの貸与で賄い、血税を注ぎ込んで装備を整えていった。にも拘らず、用意した軍も装備も当のバアルには全く通用せず、出動した部隊は悉く壊滅。躍起になって戦闘員の七割をぶつけてそれらがほぼ戦死すると、見かねたエクソシストが強引に介入してバアルを撃退。そのまま済し崩し的に他の場所でのバアル掃討も任せることになり、結果エクソシストは日本で大きな影響力を得たのだ。

「恵那山の強力なバアルを討伐するのが今回の合宿なわけだが……正直、あそこのバアルはとても強い。故に、参加は強制しない」

「じゃあ不参加で」

「―――ただし、織部君は別だ。君は強いから、問題ないだろう」

 生徒会長の説明に便乗しようとした俺だったが、そんな希望も呆気なく潰える。……思いっきり強制してるじゃねぇか。

「レナは大丈夫だよな?」

「勿論」

「安奈と真理亜も問題ないな?」

「当然ですわ。ねぇ、真理亜?」

「そうね、問題ないですわ。ねぇ、安奈?」

「里奈は……やめておいてもいいぞ? 去年の様子を見てると、とても無理強いは出来ない」

「だ、大丈夫です……多分」

「そうか。ならいいが」

 二年生以上は全員参加の模様。大村が若干怪しかったが、生徒会長は承諾していたので問題ないだろう。

「それで……雛山さん、君はどうする? 君はまだバアルとまともに戦ったことがない。今回はパスしてもいいんだぞ?」

 そして最後に、雛山の参加意思が確認される。……けど、こいつの性格から言って、辞退するわけないよな。合宿のために訓練をさせてるくらいだし。

「いえ、大丈夫です」

「本当にか? 確かに貴重な経験にはなるが、本来なら一年生にはきついと思うんだが」

「大丈夫です」

 案の定、雛山は参加すると言い出した。生徒会長は珍しく心配しているようだが、彼女の態度は頑なだ。

「ふぅ……そこまで言うなら構わないが。ただし、当日は私や引率教官の指示に従うこと。独断専行は厳禁だからな? 勿論、それは織部君もだが」

「はい」

「了解」

 生徒会長は諦めたのか、それとも雛山の意思を尊重したのか、溜息混じりにそう言った。

「さてと。それじゃあ、具体的な説明に入るぞ。合宿は来月の初旬。後一ヶ月ないくらいだな。参加するのは生徒会メンバー全員の他、引率として如月先生も同行する」

 如月といえば、俺たちの近代史の授業を担当していたな。他にも神学や聖書の授業も持っていて、実戦系の授業が多い望月とは対照的な印象だ。しかし、二クラスの担任であり、授業中に見せた気迫に満ちた笑顔といい、雛山がバアルに襲われたときにも駆けつけたことも考えると、かなりの手練れであるのは想像に難くない。

「日程は五日間。一日目と最終日は殆ど移動だから、実質的には間の三日間だな。宿泊は麓の旅館で、昼間に山へ登って夜になる前に戻ってくる。それの繰り返しだな」

 明るい昼の間にバアルを狩り、危険な夜の前に終了。移動が面倒な気もするが、安全面を考えるとそれが妥当か。

「それで、出現するバアルはどんな種類なんだ?」

 正直、その辺のことはしおりにも書いてあるし、今聞く必要はない。あるとすれば、それはしおりに載っていなくて、かつ重要なこと。例えば、出没するバアルについて、詳細な情報だ。

「バアルの種類か? 去年は巨大な個体―――ネフィリムが主だったな」

「ネフィリムか……」

 偶然にも、今日雛山と話していたバアルだった。聖書にも登場する、古の巨人たち。……バアルの種類が分からないと、俺もどんな武器を用意すればいいのか分からないからな。

「それから―――」

 その後も生徒会長の説明は続く。またもやしおりの内容と同じだったが、正直どうでもいいので、俺は聞き流すことにした。

「―――というわけだ。一応、当日までは雛山さんにも稽古をつけるから、それまでに練度が足りないと思ったら辞退して欲しい」

「分かりました」

 説明はものの五分で終了した。そしてそのまま解散へ。……珍しく早く終わったな。さっさと帰って読書でもするか。

「ああ、織部君は雛山さんに稽古をつけるように。屋外訓練場の申請はしておいたぞ」

 と思ったのも束の間。生徒会長はそんなことを言い出した。……お前が稽古をつけるんじゃないのかよ?

「それでは、また明日」

「……はぁ」

 言い返す暇もなく帰ってしまった生徒会長に、俺は溜息を吐くことしか出来なかった。



  ◇



 ……数十分後、屋外訓練場にて。


「……で、どうして私まで呼び出されたのかな?」

「文句言うなよ。担任だろ?」

「それってかなりの暴言だと思うんだけど……」

 生徒会長に雛山の稽古を命令されて。俺は屋外訓練場に望月を呼び出していた。理由は無論、稽古を手伝わせるためだ。

「暴言は駄目でも、暴行を指示するのはいいのかよ?」

「何のこと?」

「昨日のこと、忘れたとは言わせないぞ」

 この担任を扱き使うのには躊躇いがない。何故なら、昨日俺がデートに連行されたのは、こいつの差し金だったからだ。しかも、雛山に俺を腹パンするように言ってまで、だ。

「あ、あれは、ああでもしないと織部君が引き篭もってばかりだから……」

「理由があったらいいのかよ?」

「うぅ……」

 俺に論破され、ぐうの音も出ない望月。まあ、日頃の行いが物を言うからな、こういうときは。……俺の場合、それとは別に苦労ばかりしているようにも思えるが。

「さ、今日は望月が方術の指南をしてくれるらしいぞ。しっかり教われよ」

「分かった」

「え!? ちょ、どういうこと!?」

 というわけで、雛山の稽古は望月に引き継ぐことにした。望月が何か喚いているが、気にしない。

「じゃあ、俺は帰るから、頑張れよ」

「うん」

「ちょっと!」

 そして俺は、二人を置いて帰宅することにした。……これで時間が出来たな。昨日読めなかった本を読むか。確か、「お兄ちゃんのお世話は妹の役目なんだよ?」の最新刊がまだ読めてなかったな。

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