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20.プルソン


  ◇



 ……そして一哉たちは、衣料品ブロックへと来ていた。


「……何故だ?」

 俺は先程、書店コーナーで雛山の買い物に付き合った。そしてその間、天草の好感度をがくんと下げた。にも拘らず、この奇妙なダブルデートはまだ続いていたのだ。

「さっきは織部君の好きなところに行ったから、今度は私の買い物に付き合って」

「いや、結局買ってたのはお前だけだろ」

 雛山の理屈だと、俺に付き合わされたから自分も、ということらしい。しかし、書店コーナーで購入したのは雛山の本だけ。寧ろ、俺のほうが付き合わされていないか?

「いいから。織部君、服持ってなさそうだし」

「いいんだよ俺は」

 来たときは、俺は服より本のほうがいい、みたいなことを言っていたのに……ほんとに自分勝手だな。

「大体、お前がお洒落なんてするのかよ?」

 雛山は服装に気を遣わないという推測の根拠は、彼女の装いだ。休日なのに、態々制服を着ている。休日の自由時間まで制服を着る必要はないし、実際、天草やその辺の生徒も私服姿だ。雛山は私服を持っていないのではないか? まあ、それは俺もだが。

「私服がないから、買いに行くの」

「そうかよ」

 しかし、雛山はそんな風に返してきた。……なるほど。私服がないから買いに行く、というのは確かに道理だ。けれど、こいつだって入学前は普通に生活していたはずだ。そのときの私服はどうしたのか。持ってきていないのか?

「織部君の服も選んであげるといいかもね」

 更には、怒らせたはずの天草が元に戻っている。……何だこいつ? 聖女か何かか? どうしてそんな簡単に豹変できるんだ?

「うん。でも、天草さんのセンス、いいと思うから、手伝って?」

「そ、そんなことないよ~!」

 雛山に褒められて、天草は慌てて否定する。照れているようだ。……天草の服装は、薄紅色のツーピース。季節的にはまだ早い半袖とミニスカートで、高校生にしては少々フェミニン過ぎるかもしれない。とはいえ、大人の真似事をした子供、という感じはしない。そういう意味ではセンスがいいのだろう。色のせいで、脳内お花畑に見えなくもないが。

「……あれ?」

 衣料品ブロックに着いて。雛山が何かを見つけたみたいだ。

「おや、君たちか。奇遇だな」

「げっ……」

 いや、正確には人だった。俺たちは、生徒会長と遭遇した。

「よし、帰ろう」

「何故だ? 君たちも買い物に、しかも服を買いに来たのだろう? 一緒に見ようじゃないか」

 俺は回れ右をしてエスケープを試みたが、生徒会長は逃がしてくれなかった。……今日は厄日か? 忍者が使う煙玉とかないのか?

「せ、生徒会長……!?」

 一方、驚いているのは天草。……生徒会に捕まった俺たちはまだしも、一般生徒である天草には馴染みがないのか。一応、顔くらいは知ってるみたいだが。

「あー、このアホ女のことは気にしなくていいからな」

「……君は、私のことをそんな風に見ていたのか?」

 俺が適当にそう言うと、生徒会長は不服そうにそう問い掛けてきた。だが、実際はアホ女では足らないと思うんだが。人を脅すのに躊躇いないし。鬼畜外道女とでも呼ぼうか。

「え、えっと……」

「……それで、誰の服を買いに来たんだ?」

 戸惑う天草に、生徒会長は露骨に話題を逸らしてきた。……反論できる要素がないのだと判断してやろう。

「織部君と私の私服」

「なるほど。それはいい考えだな」

 しかも、雛山が話に乗っかってしまった。……こいつ、絶対素だよな? さっきの話題はどうでもいいということか。

「よし、私も選ぶのを手伝おう。特に織部君は着せ替え甲斐がありそうだしな」

 そして、生徒会長は意気揚々とそんなことを言い出した。……なんで俺なんだよ? 俺を着せ替え人形にして何が楽しいんだよ?

「さ、そうと決まれば早速行動だ。まずは雛山さんの服からだな」

 生徒会長によって、婦人服売り場まで連行される俺。……ああ、早く帰りたい。



  ◇



 ……というわけで、生徒会長と天草が見繕った服を雛山が着ることとなった。


「さて、楽しみだな」

「そうですね~」

 更衣室の前にて。生徒会長と天草が雛山の着替えを待っていた。……この二人、雛山の服を選んでいるうちにすぐ仲良くなってしまった。どうやら、天草は誰とでも仲良くなれるタイプらしい。尤も、俺相手の場合は例外のようだが。

「終わった」

 更衣室の中から雛山の声がして、すぐにカーテンが開いた。……現れた雛山は、白のワンピースを身に纏っていた。夏に向けた露出の多いデザインで、それ単体というよりは、上着をコーディネイトする前提のように思えた。胸元はそれほどでもないが、肩も腕も剥き出しで、スカート部の丈も短め。真夏ならこれでもありなのだろうが、まだ春で薄ら寒い時期に、ワンピース一枚というのはどうなのか。

「ほぅ、中々いいじゃないか」

「うん、可愛いよ、雛山さん」

「そう?」

 生徒会長と天草の評価は上々。褒められて、雛山も満更ではないようだ。

「ほら、織部君も何か言ってやれ」

「馬子にも衣装だな」

「……織部君、それ、意味分かってて言ってる?」

 俺も感想を求められたので素直にそう言ったのだが、天草の反応は芳しくない。まあ、服がよければ様になるって意味で、決して褒め言葉じゃないからな。

「なぁに、彼はそれだけ自分に自身があるんだろう。雛山さんの可憐な姿が霞むくらい、かっこいい着こなしを見せてくれるのさ」

 しかし生徒会長は、俺のハードルを上げてきたのだった。……っていうか、俺が着せ替え人形になるのは確定なんだな、やっぱり。



  ◇



 ……そういうわけで、俺は女子三人が選んだ服を着ることに。何故か更衣室に生徒会長が入ってこようとするなどトラブルもあったが、どうにか着替えを終えた。


「……ほら、これで満足か?」

 着替えた俺は、更衣室から出て、女共の前にその身を晒す。……何の羞恥プレイだこれは?

「ふむ。思ったよりもいいな」

「うん、似合ってるよ、織部君」

「結構いいかも」

 女子たちからの評価は上々。シャツとスラックスを組み合わせただけのありきたりな服装なのだが、何が面白いのか。

「どうせなら、来月の合宿に着ていったらどうだい?」

「合宿……?」

 すると、生徒会長から意味不明な言葉が飛び出した。合宿って、何のことだ……?

「ああ、君たち一年生組みには言っていなかったな。来月、生徒会メンバーで合宿を行うことになったんだ。まあ、詳細は後日伝えるつもりだが」

「聞いてねぇよ……」

 ほんとに面倒なところだな、生徒会ってのは。いい加減うんざりしてきたぜ。

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