19.サレオス
……そんなわけで、俺は雛山たちと、不本意ながらデートをすることになった。にしても、人生初のデートがスーパーっていうのはどうなんだ? 土地柄、仕方ないのだろうが。
「それで、どこに行くんだよ?」
「んと、まずは書店コーナーかな」
スーパーに入ると、雛山は行き先を書店コーナーに決めた。……このスーパーは、内部が食料品ブロック、衣料品ブロック、医薬品ブロック、雑貨娯楽品ブロックの四種類に分かれている。書店コーナーは、雑貨娯楽品ブロックの一角にある。規模は小さいが、ラノベや漫画に雑誌、専門書から参考書まである。ここにない本も、頼めば取り寄せてもらえるので、(俺にとって)ここの重要度はかなり高い。
「それはいいんだが、どうしてまた?」
「だって、織部君、ラノベ好きだし。服とかよりもいいでしょ?」
なんと、雛山は意外と気遣いの出来る奴だった。俺の趣味に合わせて場所を選んだらしい。……その気遣いがあるなら、腹パンだけは止めてくれよ。お前の身体能力でされると命に関わるからな。俺でなくても。
「つーか、天草まで来なくても良かったんじゃないか? 雛山はともかく、俺といてもつまらないだろ?」
「ううん、そんなことないよ。私も織部君のこと、色々と気になってたし」
そして、何故か一緒にいる天草には遠回しに帰るように言ったのだが、そう返されてしまった。……まあ、雛山と二人っきりなのは、それはそれで疲れるんだが。それでも、あまり関わりのない奴と一緒にいるのは面倒だ。だから帰って欲しかったのだが、伝わらなかったらしい。
「ほら、早く行こっ」
「……はぁ」
ままならない人生に、俺はせめて、これ見よがしに盛大な溜息を吐くのだった。
「それで、どうしようか?」
書店コーナーに着いて。雛山はそんなことを言い出した。……自分で言い出したくせに、その後の方針を決めてないのかよ。
「俺、新刊出てないか調べたいんだが」
「じゃあ、私も付き合う」
「いや、遠慮しておく」
この書店コーナーは、ここらの地理状況もあって、新刊の入荷はかなり遅れる。しかし、レジ横の端末で調べることは出来るし、前述の通り取り寄せることも可能。だから俺は、良さげな本が出てないか調べようとしたのだ。
「織部君の好きな本、知りたい」
「俺は教えたくない」
「私もちょっと興味あるかな」
なのだが。俺の欲しい本に、雛山も天草も興味津々。……こいつら、一体何なんだよ? 俺の趣味を知ってどうしようっていうんだ? 金でも強請る気か?
「いいから。とっとと失せろ」
「嫌」
「ちょっとくらいいいじゃない」
追い払おうとするも、何故か二人は頑なだった。……仕方ない。元々新刊をチェックするだけなんだ。好きにさせるか。
「さてと……」
俺はレジ横の端末に触れ、ジャンル別の新刊情報を表示した。……さて、なんかいい本はないか。
「……」
「ねえ、この「風呂場の中から人魚姫が!」って、どんな話?」
「ん? そのまんまだが?」
「……意味が分からない」
表示されたタイトルに雛山が気を引かれたらしいが、内容は理解できないらしい。しかし、実際そのまんまなんだから仕方ない。主人公の家にある風呂場が海底と繋がってしまい、そこから人魚姫がやって来るという、タイトルそのままのストーリーだ。今回発売したのは二巻。内容紹介によると、スキュラのヒロインが新登場するのだとか。
「ねぇねぇ、こっちの「地獄で天使に求婚されました」ってどんな話?」
「そのまんまだが?」
「……ごめん。よく分からなかった」
今度は天草も興味を持ったらしいが、やはり説明してもそう返されるだけだった。事故で死んだ主人公が地獄に落とされて、しかし地獄に何故か天使がいて、そのままプロポーズされるという作品だ。因みに、今回発売したのは三巻。地獄を脱出して煉獄へと逃げ出すらしい。
「……ふぅ。今回は目ぼしいのがないな」
新刊を一通りチェックするも、欲しい本は見つからなかった。さっき挙げた本はあらすじしか知らないし、読んでる本の続きも発売はまだだ。新しいタイトルにも目を通したものの、これといって読みたいものはなかった。
「さてと……とりあえず、俺のほうは終わったが?」
「私、欲しい本があるの」
すると今度は、雛山が自分の用事を口にする。……こいつの買い物に付き合うのか。というか、もう既に帰りたいんだが。
「神学の参考書、欲しい」
「……勉強熱心だな」
雛山が求めているのは、神学の本。……こいつ、神学の知識がほぼ皆無だからな。方術には神学の知識が必要だから、自主勉強でもするのか?
「それなら確か、向こうの棚に何冊かあったぞ」
「ん。じゃあ、ちょっと探してくる」
コーナーの奥を指差してやると、雛山はそちらのほうへ消えていった。……となれば必然、俺は残された天草と二人っきりになる。
「……」
「ねえ、織部君って、雛山さんのことが好きなの?」
「……お前、馬鹿だろ?」
二人っきりになった途端、天草がとち狂ったことを言い出したので、俺は罵るようにしてそう返した。……どうして人間っていうのは、何でもかんでも恋愛沙汰に結び付けたがるのだろうか?
「違うの?」
「そう思ってるんなら、医者に診てもらったほうがいい。本当に」
「……そこまで言わなくても」
俺の言葉に天草は不服らしいが、そんな馬鹿馬鹿しい妄想を本気で信じているなんて、病気を疑いたくなるぞ。
「んもぅ……そういうの、私はともかく、雛山さんに失礼だよ? 雛山さん、あんなに可愛いのに」
「ただの我侭だろ」
天草が言っている「可愛い」というのは容姿のことだろうが、俺にとっては頑固で我侭な印象しかないのだ。そんな雛山に好意を持つくらいなら、ラノベのヒロインを嫁に貰ったほうがよっぽどマシだ。実際に出来るかはさておき。
「天草こそ、あんな自分勝手な奴と一緒にいて、疲れないのか?」
「そうかなぁ? 雛山さん、結構いい子だと思うけど」
「……お前、本当に病院行ったほうがいいぞ? 主に眼科と精神科」
他人のことなどどうでもいい俺だが、この発言にはさすがに心配になった。そこまで精神をやられているなんて……こいつは、一体どんだけ悲惨な人生を歩んできたのか。
「……織部君、そろそろ私、怒るよ?」
「ただいま」
すると、丁度雛山が戻ってきた。どうやら、お目当ての本を買えたようだ。
「……二人とも、どうかしたの?」
「何もないが?」
「……うん。大丈夫だよ」
さてと。これで雛山の気も済んだだろう。天草の好感度も徹底的に下げたし、これで解散のはずだ。さっさと帰って本でも読むか。




