18.バティン
◇
……そんな感じで時間が流れ、いつの間にか月も替わっていた。
「……入学から、一ヶ月も経ったのか」
自室のカレンダーを眺めながら、俺はそんなことを呟いた。五月に入り、連休も今日で終わり。折角なので、俺はこれまで学校生活を振り返ってみた。……雛山の訓練に付き合い、生徒会で扱き使われ、たまに現れるバアルを倒す。はっきり言って、不本意極まりなかった。少なくとも、俺が思い描いていた学校生活ではない。
「……なんか、学生ってのも案外あれだな」
実際に体験してみると、ラノベで学んだよりも、学生生活はハードだった。ここが普通の学校でないこともあるのだろうが、それにしても大変だったな。やはり、創作は創作なのだろう。或いは、事実は小説よりも奇なり、ということか。
「……さてと。今日は何を読むかな」
ここ最近は多忙で、あまり読書の時間を取れなかった。しかし、五月の連休は時間が十分にあった。そこで、溜まっていた本を読み切ろうとしていたのだ。
「……ん?」
しかし、その時間をぶち壊す小型端末……要するに携帯が鳴った。どうやら電話らしい。友達のいないぼっちな俺に、態々電話を掛けてくる奴は限られている。というか、そもそも番号を知ってる奴が少ない。……なんか、嫌な予感しかしないんだが。
「……よし、無視しよう」
折角の貴重な休日なのだ。面倒ごとに巻き込まれて、むざむざ潰してしまう必要はない。俺は相手の名前も確認せず、携帯の電源を切った。
……その頃、別の寮では。
「……」
「どう? 繋がった?」
「切られた。そして今度は繋がらない」
「ありゃりゃ、電源切られたのかな?」
連休最終日。私は寮から、織部君に電話を掛けていた。……けれど、彼は私と話したくないらしい。電話に出ないのだ。
「……」
「ひ、雛山さん……? そ、そんなに落ち込まなくても……」
私の様子を見て、隣の天草さんが励ましてくる。……別に落ち込んではないんだけど、否定するのも面倒だった。それよりも、今後の対策を考えないと。
「……よし」
「え? ちょ、ちょっと、雛山さん……?」
電話に出ないなら、直接会いに行くまで。私は寮を出て、織部君の寮まで向かった。……場所は先生から聞いてるし、大丈夫だろう。
◇
「……」
「やっほー」
「え、えっと……」
最後の休日を楽しもうとしていたら、寮に急な来客が。やって来たのは、雛山ともう一人、同じクラスの天草だった。こっちとは殆ど面識がないようなものなのだが、どうしたんだろうか?
「何の用だ?」
「デートのお誘い」
俺の問い掛けに、雛山はそう答えた。……デートって、あのデートか? 男と女が一緒イチャコラするっていう? ラノベでお馴染みの奴か?
「織部君、付き合って」
「断る」
雛山の願いを、俺は速攻で跳ね除けた。こいつのことだから、「付き合って」は男女交際の意味ではないのだろうが、それでも面倒になりそうなので断るべきだろう。
「どうして?」
「面倒だからだ」
「……えい」
「ぐほっ……!」
しかし雛山は、突然俺の腹を殴りやがった。……バアルには無敵な俺も、人間には勝てない。まして、雛山は校内一の強者だ。一撃で意識が刈り取られなかっただけでも幸運―――いや、この場合は不運かもしれない。
「それじゃあ、れっつごー」
「え、えっと、雛山さん……? 今、何を―――」
「天草さんも、行こう」
「え、ちょ、ちょっと待って……!」
そして俺は、雛山に担がれて、デートとやらに引っ張り出された。……雛山、なんかちょっと楽しそうじゃないか? こっちはいい迷惑なんだが。そして腹が痛い……。
◇
……雛山に連れて来られたのは、近くのスーパー。この店舗は元々この町にあったもので、今は学生専用の店として営業している。食料品や学校用品、更には本などの娯楽品もある。さすがにゲームの類はないが、書店コーナーにはラノベも売っているので俺もたまに利用している。
「……で? 態々腹パンしてまで連れてきた理由を教えてもらおうか?」
「? だから、デート」
「……俺の知ってるデートは、腹パンして連行するものではないんだが」
「え、えっと、織部君も落ち着いて……雛山さんにも悪気はなかったんだし」
立腹する俺に、雛山は意味不明なことを言い、天草はそんな雛山をフォローしている。……腹パンしておいて悪気がないとか、そっちのほうがやばくないか?
「えっとね、雛山さんは、織部君と遊びたかったの。ね? 雛山さん」
「……うん」
天草の言葉に、雛山はこくりと頷いた。……っていうか、雛山が俺と遊びたいとか、それこそ意味不明だぞ。
「織部君には色々助けてもらってるから、お礼も兼ねて」
礼の前に腹パン止めろとか、デートのどこがお礼なのかとか、色々と突っ込み所はあったが。とりあえず、そういうことらしい。いよいよ理解できなくなった。こいつ、そんなタイプだったか?
「ほら、織部君っていつも寮に篭ってばかりだから、たまには外に出ようって」
天草が補足してくるが、何でこいつがそんなこと知ってるんだよ? 雛山が話したのか? なんて余計な……。
「連休に入ってからもずっとラノベばかり読んでるし、寮からも全然出ないから、連れ出して欲しいって頼まれたし」
「誰にだよ?」
「望月先生」
そして、結局のところは望月の差し金だったらしい。……なるほどな。俺みたいな奴が、そんなリア充かラノベ主人公でもないと遭遇しないような状況(女子二人とデート)に陥るなんて、そうでもないと考えられない。まあ、さすがに望月も腹パンまでは想定していなかっただろうが。
「言うこと聞かないなら腹パンしてでも連れて行けって言われたし」
「おい」
前言撤回。諸悪の根源は望月だった。……俺が人間に勝てないのを知っていて、態とそんなことを指示するとか、どんだけ鬼畜なんだよ。それでも教師かっての。
「……ったく。それならそうと先に言えよっての」
さすがの俺も、腹パンが控えている状態で抵抗などしない。最初から事情を話してくれれば、素直に応じたというのに。
「でも、先に電話を切ったのは織部君のほう」
「それはそうだが、会ったときにも言えただろ?」
「織部君が素直じゃないから、怒ってたの」
だが、俺の抗議にも雛山はこんな感じで、反省などしていない。……全く。我ながら、面倒な奴と関わりを持ったものだ。あのとき、態々助けるんじゃなかったな。
「……んで? 結局俺は、お前らに付き合えばいいのか?」
「うん」
「えっと、その、ごめんね。色々と……」
そういうわけで、俺は人生初デートにして、女子二人とのデートとなった。……しかし、全然嬉しくないのはどうしてだろうか? いや、これは別に俺だからではないと思うが。




