16.ゼパル
◇
……そういうわけで、昼休み、体育館にて。俺は昼食返上で、雛山に稽古をつけることとなった。
「……ったく。協力するとは言ったが、何で飯抜きなんだよ?」
「文句言わないで」
教わる立場であるにも拘らず、雛山の態度は妙に尊大だった。……こいつ、本当に教わる気があるのか?
「はぁ……。んじゃあ、早速始めるぞ」
「うん」
しかし、ぼやいていても時間の無駄だ。俺は諦めて、さっさと講義してやることにした。事前に望月を通じて貸し出しておいた槍を構え、そいつに名前を与える。
「ロンギヌス」
俺の力により、この槍は聖槍ロンギヌスと変わった。見た目には何も変化がないが、これでいい。重要なのは性質のほうが。
「俺の能力で、こいつはロンギヌスになった。……ロンギヌスについては知ってるな?」
「うん。神の子を刺したんでしょ?」
「まあ、死体に突き刺しただけなんだがな」
方術の参考にするという条件なので、まずは俺の能力について解説することにした。その辺の細かいギミックが分かれば、こいつも納得してくれるだろう。
「だが、死体とはいえ、神の子を貫いたのは事実だ。それによって、ロンギヌスは神の子を超える存在として定義される。要するに、神の子より格下のバアルは、この槍で倒せるってわけだ」
雛山は信徒ではないし、もしかしたら神学についての知識が乏しいかもしれない。だから俺は、初歩的なことから教えていく。
「バアルは大抵、悪魔に対応している。お前が襲われたのはアンドロマリウス。この前出たのはセーレ。どちらもソロモンの悪魔だな」
「ソロモン?」
「ソロモンって王様が使役した七十二の悪魔だ。呼び出し方が書かれた魔道書があって、その登場順に序列がついている」
ソロモンの悪魔については、ラノベでもたまに出てくる。割と有名かつ便利なファンタジー要素として、創作でも多用されているようだな。
「このソロモンの悪魔と神の子を比べて、神の子より位が低い奴は倒せるってわけだな」
「それって、どうやって見分けるの?」
「そこで重要になるのが、天使だな」
雛山の質問に答える俺だが、彼女は案の定理解できていない様子。まあ、一つ一つ丁寧に説明するしかないだろう。面倒だが。
「天使に階級があるのは知っているか?」
「ううん」
俺の問いに、雛山は首を横に振った。予想通りだったので、俺はそのまま続けた。
「天使には九つの階級があるんだ。上から熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、守護天使だな」
まあ、この辺も割と有名だな。熾天使はセラフィムだし、智天使はケルビム。こういう単語も割とラノベで見かける。
「そしてこいつらは、上から三つずつ区切って、三部隊に分けられる。上から上位三隊、中位三隊、下位三隊だな。そしてそれぞれ、「父」、「子」、「聖霊」と対応する」
「「子」……?」
「ああ。三位一体って奴だな。つまり、神の子と中位三隊が対応しているんだ。だからこそ、中位三隊に属する主天使、力天使、能天使と、下位三隊に属する権天使、大天使、守護天使は、ロンギヌスの有効範囲だ」
ここまでの解釈は、大分強引なこじ付けだ。しかし、こうやっていくつもの信仰や概念を経由することで、バアルに対して有効なダメージを与えられる。それが俺の能力の本質だった。
「そして、さっき言ったソロモンの悪魔は、それぞれ守護天使と対応している。だから、ソロモンの悪魔が元になったバアルは、その殆どがロンギヌスの効果を受ける」
「殆ど?」
ここまではついていけてるのか、それとも単に気になっただけなのか、雛山がそう尋ねてくる。
「ソロモンの悪魔は、それぞれ元ネタがあるんだがな。場合によっては、より高位の天使と対応している場合がある。王の地位に属する悪魔は特に、熾天使みたいな高位天使が堕天した姿っていう話が多い。そういうのにはあまり効かないんだ」
悪魔とは、堕天使のことを指す場合が多い。つまり、元々天使であるという悪魔も少なくない。有名どころだと、熾天使が堕天したルシファーなどだ。
「故に万能ではないが、それなりに効果的な戦いが出来るってわけだ。この辺に出没するバアルは、大抵がソロモンの悪魔由来だからな。まあ、学校周辺のバアルには手間取らないだろう」
「……もしかして、他にも色んな種類のバアルがいるの?」
「そうだが?」
一通りの説明を終えると、今度は雛山がそんな質問をしてきた。……こんな調子だと、いつまで経っても飯にありつけないな。
「その辺については望月が詳しいはずだ。自分で適当に聞いてくれ。じゃあな」
これ以上長引かせたくない俺は、そう言って適当なところで終わらせる。さてと、飯飯。
「あっ……」
雛山が何か言った気がしたが、俺は気にせず飯を食いに行くのだった。
「あっ……」
昼休み。織部君は私に能力の解説をした後、そのままどこかへと行ってしまった。……残念だけど、彼には昼食も取らせずに付き合わせていたので、仕方ないだろう。
「……どうしようかな?」
そうなれば、私はどうすればいいのか。方術の自主練習でもしていようか。それとも私もお昼に行くべきか。
「あれ? 雛山さん一人なの?」
「先生」
すると、体育館に望月先生がやって来た。ここと武器の使用申請は先生にお願いしたから、様子を見に来たのだろうか?
「織部君、もう帰ったの?」
「はい」
「そう……まあ、元々乗り気じゃなかったからね」
織部君がいなくなったと伝えると、望月先生は溜息混じりにそう言った。
「そういえば雛山さん、お昼まだだよね? 一緒にどう?」
そして、先生から昼食のお誘いが。丁度そうしようかと思っていたから、ご一緒してもいいかな。
「是非」
「うん、じゃあ行こっか。食堂混んでると思うけど、さすがに食べられないってことはないはずだから」
そういうわけで、私と先生は食堂へと向かった。
「ふーん。織部君もちゃんと説明してるんだ」
食堂にて。思ったより空いていたため、私たちは割とすぐに食事が出来た。私と先生はお蕎麦を食べながら、さっきの稽古について話していた。……勿論、他の生徒がいるから、詳細はぼかしながらだけど。
「でも今後は、昼休みにするのは控えたほうがいいかもね。織部君も大変だし。生徒会で忙しいから仕方ないんだろうけど、休日とか、もっと時間が沢山あるときにしないと」
「はい」
確かに、彼に迫ったときといい、強引にやりすぎたかも。反省反省。
「……」
反省も程々に、私は先生に尋ねようと思った。さっき、織部君が答えてくれなかったことを。




