14.レラジェ
「「神の爪」……!」
「……っ!」
会長が放つ不可視の矢が、私の腕に掠った。……直撃したわけではないようだけど、それでもとんでもない激痛が奔る。だけど、傷はつかない。もしかしたら、方術の類かもしれない。
「はぁっ……!」
私は距離を詰めて、木刀を一閃。会長さんのボーガンで防がれるけど、再び接近戦に持ち込めた。
「ふふっ、接近戦なら大丈夫だと思ったかい?」
「……!?」
しかし、会長さんは蹴りで応戦してきた。両手はボーガンで塞がっているからだろうけど……さっきまではこんなことしてこなかったのに。
「せいっ……!」
会長さんの蹴りを、私は木刀で弾く。けれど、体重の乗った重い一撃で、後退を余儀なくされた。……履いているのは普通のスニーカーなのに、痛くないのだろうか?
「「神の爪」……!」
距離が出来たところへ、またしても不可視の矢を放ってきた。私は射線を予測して、体勢を崩して回避する。
「……っ!?」
そして、射撃後の隙を縫って、一気に踏み込む。会長さんは後退しようとしたけれど、そこは既に壁際。十分な回避距離が取れない。それに、今からでは左右に避けるのも難しい。
「くっ……!」
喉元を狙った突きに対して、会長さんは首を振ってどうにか躱す。けれども、それは予測済み。私は手首を捻って、木刀の軌道を強引に捻じ曲げた。
「なっ……!?」
その動きには、さすがの会長さんもついていけなかったらしい。首を打たれて、床に崩れ落ちた。
「……」
そんな会長さんに、私は木刀を突きつける。これでチェックメイトだ。
「……参ったよ。まさか君が、ここまでやるなんてな」
会長さんは諸手を挙げて、降参を宣言した。……会長さんは確かに強敵だったけど、私は勝ってしまった。やはり私は、常にこうなのだろうか?
「……さすが、だね」
雛山と生徒会長の試合が終わって。普段から飄々としている副会長だが、今は驚きを隠せないでいる。まあ、雛山の動きは人間離れしていたし、あれを見て平然としていられるのは俺くらいだろう。
「史絵菜は入学以来負け知らずだったんだが、その不敗神話もここで終わりだね」
やはり動揺しているのだろう。副会長は聞いてもいないことを話し出している。あの生徒会長、そんなに強かったのか……まあ、さっきの試合を見ていれば分かることではあるが。
「ふふっ、次の生徒会長はあの子かもね。ねぇ、真理亜?」
「そうね。そうかもしれないわね。ねぇ、安奈?」
すると、女川姉妹がそんなことを言い出した。……ここの生徒会長って、強い奴がなるのか? 選挙とかないのかよ?
「そうなると、副会長は織部君辺りかな?」
双子姉妹の話に便乗したのは副会長。……っていうか、どうしてそこで俺の名前が出る?
「人間相手に負けなしの雛山さんと、バアル相手に負けなしの織部君。二人が組めば、この世で最強のコンビになれると思うよ?」
「止めてくれ……」
副会長の言葉に、俺は本気で勘弁願いたいと思った。どうして俺と雛山が、態々組まないといけないんだ? ―――そう思っていた時期が、俺にもあったのだ。
◇
……翌日。
「織部君。私の師匠になって」
「……」
朝、教室にて。雛山が突然、俺にそんなことを言ってきた。
「ひ、雛山さんが、あの織部に師事を……!?」
「そんな……!?」
昨日、雛山が生徒会長を倒したことは、例の如く知れ渡っている。そんな彼女が、学年最弱である俺に弟子入りするというのは、衝撃的を通り越して狂気とさえ言えた。……っていうか、ほんとにこの学校は情報管理が駄目駄目だな。それとも、態と噂を流布しているのか。
「断る。っていうか、俺に教えられることなんてないだろ?」
どうしてこいつがそんなことを言ってきたのか。それはひとまず置いておくとして、とりあえず面倒ごとはごめんだ。俺はにべもなく、その申し出を断った。
「……断るなら、先生から聞いたこと、全部ばらすよ?」
「……!?」
しかし、雛山も一筋縄ではいかなかった。なんと、俺の秘密を盾にしてきたのだ。
「……いいのかよ? 話したら、お前も無事じゃないんだぞ?」
「いいよ、別に。……そんな世界、生きてる価値ないし」
しかも、こいつは自滅覚悟らしい。……なんでこんなにも必死なんだよ? そこまでして、俺に何を教わりたいんだ?
「……とりあえず、放課後まで保留な」
その理由は、こいつが得たいものは、なんとなく想像がついた。だが、もしそうならば、今ここで話されるのはまずい。その場凌ぎではあるが、後回しにするべきだろう。
◇
……放課後。
「……それで、どうしてここに集まるの?」
授業が終わり、俺と雛山は望月の教官室にやって来ていた。勿論、朝の続きを話し合うためにだ。ここを選んだ理由は二つある。一つは、人目につかないから。もう一つは、事情を知っている望月がいたほうが、話がスムーズに進むと思ったからだ。
「さてと、今朝の続きだがな」
「えっと、無視……?」
という正当な理由があるものの、一から説明するのは面倒なので、俺は望月をスルーして話を進める。まあ、ちゃんと聞いていればその内分かるだろう。
「お前、そもそも俺に何を習いたいんだ?」
「方術」
俺の質問に、雛山は即答した。しかし、方術か……何故、そんなものを俺に?
「言っておくが、俺は方術を使わなくていいってだけで、方術は使えないぞ? 俺の能力のことは知ってるだろうが―――」
「うん、だからそれ」
「は……?」
期待に添えないのだと趣旨の説明を試みるが、雛山は意味不明な返答をする。
「織部君の能力、私にも使えるように、して?」
「……正気か?」
雛山の要求は、俺と同じ能力が使えるようになること。しかし、俺の能力は、どちらかと言えば先天性だ。後から訓練などで身につけるのは不可能なのだ。
「お願い」
「……と言っているんだが、何とかしてくれ」
「はぁ……そういうわけね」
このやり取りで事情を察したらしい望月が、溜息交じりで頷いた。やはり、ここを選んで正解だったな。
「あのね、彼の能力は、他の人には身につけられないの。あなたがどんなに努力しても、これだけは変わらないの。だから、無茶言わないで、ね?」
「努力で何とかします」
「何とかって……なんともならないと思うんだけど」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないと思うんだけどなぁ……」
だが、雛山は一歩も退かない。……さすがに、そんなことも分からないほど子供ではないと思うんだが、どうなんだろうか? そんな彼女に、望月も手を焼いている。
「……はぁ」
この頑固で、てこでも動きそうのない雛山に、俺は溜息を吐くことしか出来なかった。




