13.ベレト
◇
……翌日。
「会長さん。私と勝負してください」
放課後の生徒会にて。私は会長さんに決闘を申し込んだ。……私は今まで、誰にも負けたことがない。でも、それだけでは駄目だったんだ。私が欲しかったのは、目標なのだから。
「……ふむ。面白いな。私に勝負を挑んでくるとは」
私の挑戦に、会長さんは立ち上がりながらそう言った。そして、大村先輩のほうを向いてこう言う。
「……里奈。第二体育館の使用申請を」
「は、はい……!」
会長さんの指示で、大村先輩がタブレット端末を操作する。どうやら、あれで設備の使用申請も出来るらしい。
「申請、通りました……!」
「そうか。では、移動しよう」
そうして、生徒会メンバーは第二体育館へと移動するのだった。
「……さて、君の得物はそれでいいのかい?」
「はい」
そして第二体育館に移って。私と会長さんは、それぞれの武器を構えて対峙していた。私はいつものように木刀を。会長さんは、自前のボーガンを。……向こうは遠距離武器だけど、私にはレンジの制約を越える方法がある。そのことを考慮するなら、寧ろ接近戦に弱いボーガンのほうが不利だろう。
「私が遠距離武器だから、接近すれば有利……とでも考えているのかい?」
「……!?」
けれど、私の思考は会長さんに筒抜けだった。……この人、エスパー?
「それがそうでもないんだ……こんな風にね」
会長さんがボーガンのグリップを操作すると、台座部分に変化が生じた。台座の先端から、刃が迫り出してきたのだ。
「これなら、近接戦も問題ないだろ? ああ、ちゃんと刃は落としてあるから安心するといい」
会長さんのボーガンには、短刀ほどの刃が備えられている。銃剣―――いや、弩剣だろうか。これで、遠近両用の万能武器として運用できるみたいだ。
「さて、どこからでも掛かってくるといい」
「っ……」
挑発するような会長さんの言葉。それが、開戦の合図だった。私は木刀を携えたまま、会長さんに肉薄する。
「ははっ……!」
間合いの僅かに外から木刀を振るうけど、会長さんはボーガンの刃を用いて受け止める。……普通ならバックステップで躱すか、フェイントと思って反撃しそうだけど、会長さんはしっかり受け止めた。これが技量の違いなのか、それともただの性格か。
「はぁっ……!」
更に私は、突きを放ってみる。今度は一度ではなく連続で。しかも、態と当たらない攻撃も混ぜてみる。
「ふふっ、いい動きだ」
けれど、会長さんはそれも見切ってしまう。外れる攻撃は敢えて防がず、当たる攻撃だけを的確に止めてくる。
「だが、レンジを見切れれば、大したことはないな」
そして、会長さんの反撃。ボーガンの刃を振るい、私の木刀を落とそうとしてくる。
「っ……!」
私は刃を受け流し、或いは回避し、最小限の動きで攻撃を捌いていく。狙っているのはどれも急所だったし、刃を落としていてもさすがに危険だ。この状態では、捨て身の攻撃は出来ない。故に、ひたすら防御に回るしかない。
「はっ……!」
「むっ……!」
だけど、それも長くは続かない。さすがに集中が続かなかったのか、会長さんの連撃に隙が出来る。そこから私は反撃を開始。会長さんがボーガンを振り下ろすよりも先に、彼女の喉元に突きを放った。
「くっ……!」
このまま受ければ、会長さんのダメージは大きい。当然会長さんは、攻撃を中断して防御するしかない。そうなれば、無理な体勢変更が祟って、流れをこっちに引っ張られてしまう。
「たぁっ……!」
「ぐぅっ……!」
万全の状態で受けに回れなかったためか、会長さんの防御は先程のような余裕はなかった。私の木刀を防ぐのがやっとで、攻めに回れなくなっている。
「はぁ……!」
連続攻撃によって体勢を崩して、会長さんの腹に突きを放った。会長さんは押し込まれて、体育館の壁に激突する。……急所は外したけど、手加減は出来なかった。もしかしたら、内臓が破裂しているかもしれない。やりすぎたかも。
「……くくっ。はははっ……!」
「……!?」
けれど、会長さんは笑いながら立ち上がった。……あれでまだ動けるなんて、とんでもなくタフだ。
「なるほど……雛山さんは、思ったよりも強いみたいだ。なら、私も手加減は不要か」
会長さんはそう言うと、ボーガンを構えて、目を瞑った。そして、何か呪文のようなものを唱えだす。
「石は神の肉に、水は神の血に、風は神の爪に。言霊の如く放て、「神の爪」」
そして直後、ボーガンを私に向ける。……だけど、ボーガンには矢が番えられていない。トリガーを引いても、何も出来ないはずだ。
「はっ……!」
会長さんがトリガーを引くと弓が絞られ、離すと同時に解放される。矢のないボーガンからは、風切り音が鳴り響くだけだった―――
「がっ……!」
―――のはずが、私の左肩に激痛が奔った。まさか撃たれたのかと思い、目を向けるも、肩は無傷。制服も破れていないし、血も滲んでいない。やっぱり、空撃ちだったみたいだ。
「……まさか、人間相手に使う羽目になるとはね。君は大した子だよ、雛山さん」
ボーガンを構える会長さんは、今までとは雰囲気が違った。なんというか、纏っているオーラが変化したのだ。……要するに、ここからが本気なのだろう。
「……」
私は木刀を構え直した。……ここからが第二ラウンドだ。
「……今の、方術か?」
「ご明察。さすがだね」
生徒会長と雛山の試合を見て。俺が漏らした言葉に、副会長が反応する。
「あれは神の子のエピソードを利用した方術だよ。神の子が、石をパンに、水をワインに変えた話が元だね」
それは、正教の中でも特に有名な話だ。パンは神の肉を、ワインは神の血を表し、正教の行事でも特に重要なポジションを占めている。
「そして、石と水は四大元素を意味している。それならば―――同じ四大元素である風も、神の体の一部に変えられると思わないかい?」
「その理屈で、風を神の爪に対応させたのが今の方術か」
方術は、信仰を用いて悪を払う技術だ。正教の信仰に準じたものであれば、神話の内容も利用できる。更には―――
「そして、神の爪としての力を得た風は、信仰心の薄い者には槍となる」
「そういうこと。史絵菜の方術は、相手の信仰心が弱いほど効果を発揮する。バアルは勿論、人間でも、熱心な正教徒でないとダメージを受けるんだ」
雛山は恐らく、正教徒ではない。生徒会に入った経緯を考えるに、強者を求めて入学した口だろう。そんな奴に、異教徒殺しの方術を防げるとは思えない。
「史絵菜があれを使うことは滅多にないんだけど……雛山さんが強いから、彼女も本気になったのかな?」
正直、雛山のことはどうでもいい俺だったが……あの方術は危険だ。今後、注意しないとな」




