序章 二話『天使でありながら下界に堕ちるということは』
翌日の朝がやってきた。
(結局全然寝られなかったな)
元々天使という種族は人間ほど軟弱ではない睡眠などとらなくても生きていけはするのだ。
フェインは睡眠をとらなくても不調がない自身の体に少しだけ嫌気がさした。
今日は謁見の間へ赴き実の祖父から罰を受ける。内容はきっとこれまで受けてきた罰とは比べることはできないほど重いものだろう。
(だが覚悟はできた、これまで守ってくれたおじい様には感謝しかない。せめて恥じないためにも罰を受ける心構えはしとかないとね…)
フェインは正装に着替え窓のほうへ向かう。謁見の間は一階にあるためフェインのいる部屋からは少し離れている。そのためいまから歩いていくのには少し時間がかかってしまうのである。
窓を開けて縁に足をかけたフェインは背中から一対の光が当たることで銀色に輝く翼と生えかけの二対目と三対目の羽を広げ窓を飛び出し、ゆっくりと一階へ降りて行った。
謁見の間の大きい扉の前までやってくると衛兵が丁寧に一礼してくれる。罰を受ける者に対する態度とは思えないほど丁寧でフェインは心臓がギュッとなった。
息を整え扉を開けると、玉座へ続くカーペットを挟んで、中位以上のグリーティアに仕える天使たちが大勢フェインが入るのを見守っていた。
「フェイン・ブライフィリア控えよ」
玉座と三段の階段を挟んだカーペットの上で跪き、グリーティアの言葉に耳を傾ける。
「罰を与える!フェイン・ブライフィリアそなたを下界送りの刑に処す!今後千年天界へ帰ってくることを禁ずる!」
周りがざわつく。期限付きとはいえ下界送りは天界では最も重い罰の一つである。それを次代の熾天使を担う者が受けるのではみんな驚くのも無理はなかった。
しかしフェインは
(あんな苦しそうなおじい様の顔、初めて見た…くそっ!僕は…僕は!)
流れ出そうな涙をこらえる。
自分が今まで行ってきたことを後悔してしまう。祖父に対して気づかぬうちに迷惑をかけ続けてきたことに気づき罪悪感がこみ上げてくる。これまでの自分は何をやってきたのか、ただ無限にある時間を怠惰に過ごしてきた自分に怒りが沸いてくる。
フェインの心がぐちゃぐちゃにどよめいているその時、
「静まれ!動揺するでない。フェインそなたもじゃ。下界送りは確かに重い罰じゃ。しかし永遠というわけではない。わしはそなたに今の下界で学ぶものがあると思いこの罰にしたのじゃ。永劫の時を生きる我々は時間への執着が乏しい。その考えが覆ることは今後もないであろう。だが下界の生物は違う。永遠というものがない。そんな忙しない環境を見てくるのじゃフェインよ。これはそなたへの罰だけでなく、同時に任務を与えるものとする。」
「おじい様…」
「では、達者で生きよ!」
その言葉を残しグリーティアは謁見の間を後にした。
フェインはぼろぼろと涙を流している。しかしその瞳の中にはもうさっきのような暗さはなかった。最後に実の祖父から与えられた任務をもらい今度こそは精一杯生きてみようと心に誓うのだった。
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「これが、下界と天界をつなぐ門…」
50メートルほどあるその巨大な門は普段は誰も立ち寄ることが無いよう厳重に封印され管理されている。長い時を生きる天使でさへ生きている間見たことがある者のほうが少ないのだ。
最低限の荷物を持った状態でフェインは門が開くのを待つ。
大きな音を立てながら門がゆっくりと開いていく。
ここから新しい生活が始まる。千年という長い時を考えて生きていく。これまでの生に意味なんて無かったことはもう自分でも自覚している。
(これからだ、これからを生きよう。丁寧に…)
「門が開いたぞ!」
緊張と少しの恐怖を感じながら心を落ち着けている時、門番からの合図が来た。
「フェイン様、グリーティア様よりメッセージがございます。『元気で。帰りを待ってる。』とのことです。」
「うん、ありがとう。行ってきます。」
「フェイン・ブライフィリアよ、即刻天界を出て地上へ堕ちよ!千年の刻この門を潜り戻ってくることを禁ずる!」
フェインは振り返らずに歩き続けた。門が鈍い音を立てながら締り、封印の術式が再構築された音がしたのを耳にしながら。それでも前へ進み続けた。
物語の始まりを書くのが一番難しい気がする。




