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第5話 神経接続

熱い。


 全身が焼けるみたいだった。


 神代朔真は荒い呼吸を繰り返しながら、崩れた道路を駆け抜ける。


 いや。


 駆けているのは自分ではない。


 シェルだ。


 なのに感覚が混ざっている。


 アスファルトを踏む振動。

 人工筋肉の収縮。

 装甲へ当たる灰粒子。


 全部、“身体感覚”として流れ込んでくる。


「……っ」


 頭が痛い。


 だが止まれない。


 後方では企業軍シェルが追ってきている。


 第三世代。


 細身の高機動型。


 本来なら第二世代が勝てる相手じゃない。


 だが。


 朔真は振り返りもせず、崩れた車両の陰へ滑り込んだ。


 同時に銃声。


 対装甲弾が頭上を裂く。


 朔真は身体を低くした。


 考える前に動いている。


 危険が分かる。


 敵の射線が見える。


「なんだよ……これ……!」


 呼吸が乱れる。


 視界端で警告表示が点滅する。


《NEURAL LOAD INCREASING》


《WARNING》


《WARNING》


 無視。


 今はどうでもいい。


 朔真は壁へ背中を預け、機関銃を構えた。


 銃が軽い。


 本来ならシェル用火器は反動制御だけでも難しい。


 だが今は違う。


 腕と武器が繋がっている感覚。


 視線と同時に照準が動く。


 企業兵が突っ込んできた。


 速い。


 第三世代特有の滑るような歩法。


 だが。


「見える」


 朔真は発砲した。


 轟音。


 12.7mm弾が企業兵の胸部を掠める。


 敵が強引に回避。


 普通なら避けられないタイミング。


 相手も熟練だ。


 企業兵は即座に間合いを詰める。


 腰部へ装着された高周波ブレードを抜く。


 短い。


 剣というより、

装甲切断工具。


 振動音が響く。


 近接。


 朔真は咄嗟に機関銃を捨てた。


 重い銃身が地面へ落ちる。


 敵が斬り込む。


 速い。


 だが。


 朔真の身体は、

それより半歩先に動いていた。


 半身回避。


 ブレードが肩装甲を掠める。


 火花。


 朔真は敵腕を掴んだ。


「なっ――」


 企業兵が驚く。


 第二世代で追いつける動きじゃない。


 朔真はそのまま敵を壁へ叩きつけた。


 衝撃。


 装甲が歪む。


 企業兵が蹴り返す。


 朔真の機体が吹き飛ぶ。


 背中から転倒。


 コンクリが砕ける。


《DAMAGE WARNING》


 警告。


 呼吸。


 心臓が速い。


 でも立てる。


 身体より先に、

シェルが起き上がる。


 企業兵が止まった。


「……なんだお前」


 ノイズ混じりの音声通信。


 朔真は答えない。


 自分でも分からない。


 ただ。


 澪を助ける。


 それしか頭になかった。


 企業兵が再突撃。


 今度は低い。


 滑り込むような接近。


 ブレードが腹部を狙う。


 朔真は咄嗟に左腕で受けた。


 火花。


 装甲が裂ける。


 激痛。


「がッ……!」


 違う。


 装甲が壊れただけだ。


 なのに痛い。


 まるで自分の腕を切られたみたいに。


 神経接続。


 感覚フィードバック。


 脳が錯覚している。


 だが。


 その痛みのおかげで、

敵位置が完璧に分かった。


 朔真は右拳を叩き込む。


 人工筋肉が唸る。


 鈍い衝撃。


 企業兵の頭部センサが砕けた。


 敵が怯む。


 朔真は奪うように高周波ブレードを掴んだ。


「っ!」


 振動。


 掌越しに異様な熱が伝わる。


 企業兵が距離を取ろうとする。


 遅い。


 朔真は踏み込んだ。


 考えていない。


 身体が勝手に動く。


 ブレードが企業兵の膝関節へ突き刺さる。


 火花。


 装甲断裂。


 企業兵が崩れる。


 朔真はそのまま蹴り飛ばした。


 敵機が道路を転がる。


 動かない。


 沈黙。


「……はぁ……ッ……」


 呼吸が苦しい。


 頭痛。


 吐き気。


 視界が揺れる。


 でも。


 勝った。


 朔真はブレードを捨て、

澪の元へ戻る。


 彼女はまだ生きていた。


「……さく、ま……」


「喋るな」


 朔真は澪を抱え直す。


 その時。


 視界端へ新たな表示。


《GOVERNMENT SIGNAL DETECTED》


 複数。


 高速接近。


 政府軍増援。


 朔真は顔を上げた。


 道路の向こう。


 灰煙の中から、

白装甲のシェル兵達が現れる。


 特殊部隊。


 一般兵じゃない。


 動きが違う。


 その中央。


 一機だけ異様な機体がいた。


 黒。


 細い。


 第二世代でも第三世代でもない。


 人体に近すぎるシルエット。


 頭部センサが、

真っ直ぐ朔真を向く。


 次の瞬間。


 通信が開いた。


『――第二世代機で神経接続を使用?』


 落ち着いた男の声。


『あり得ないな』


 朔真は無言でブレードを拾う。


 戦うしかない。


 だが。


 黒い機体は武器を下ろした。


『撃つな』


 周囲の政府兵が止まる。


『その少年は回収対象だ』


 朔真の背筋が冷える。


 黒い機体が一歩近づいた。


『神代朔真』


『君を第七研究施設へ移送する』


 なぜ名前を知っている。


 そう思った瞬間。


 激痛が脳を貫いた。


「――ぁ」


 視界が歪む。


 立てない。


 神経接続負荷。


 限界。


 膝が崩れる。


 朔真は最後に、

澪へ手を伸ばした。


 その指先を。


 白い防護服の誰かが掴む。


『女性個体も生存確認』


『適合処置を開始します』


 遠くで誰かが喋っている。


 意識が沈む。


 灰の空。


 燃える街。


 サイレン。


 そして。


 泣きそうな顔の澪が、

最後に見えた気がした。

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