第11話 襲撃
第七研究施設・中央管理棟。
午前二時十四分。
警報は、
唐突に鳴った。
《外壁区画損傷》
《武装侵入》
《レベル4警戒》
赤色灯が廊下を染める。
研究員達が騒然と走り始めた。
「何事だ!?」
「レジスタンス襲撃!」
「地下搬送路が破られました!」
白峰はモニタを見上げる。
監視映像。
黒煙。
爆炎。
そして。
武装集団。
粗雑な装備。
寄せ集めの防具。
旧式シェル。
一見すれば、
ただのレジスタンス。
だが。
「……違うな」
白峰が静かに言った。
動きが綺麗すぎる。
連携。
制圧速度。
突入手順。
軍隊だ。
「企業連合か」
橘が顔を青くする。
「まさか……」
「技術流出を恐れたんだろう」
白峰は淡々としていた。
「こちらが成果を出しすぎた」
地下病棟。
朔真は爆発音で目を覚ました。
警報。
赤色灯。
怒号。
自動防壁が閉まり始めている。
「……何だ」
起き上がる。
頭痛。
神経負荷。
だがそんなことを考える暇はない。
遠くで銃声。
施設が戦場になっている。
その時。
モニタへ警告表示。
《Case-09 移送中》
澪。
朔真の胸がざわつく。
理由は分からない。
記憶もない。
なのに。
嫌な予感だけがあった。
朔真は点滴を引き抜く。
血が垂れる。
構わず廊下へ飛び出した。
地下第三搬送路。
火災。
死体。
研究員が倒れている。
血臭。
その奥で、
武装集団が何かを運んでいた。
ストレッチャー。
黒髪の少女。
澪。
意識がない。
補助冷却ユニットが装着され、
薬剤ラインが何本も刺さっている。
「……止まれ」
朔真は低く言った。
武装集団が振り向く。
レジスタンス装備。
だが。
装甲の隙間から見えるのは、
企業製軍用フレーム。
偽装だ。
「なんだ、ガキか」
武装兵の一人が笑う。
だがもう一人が止めた。
「待て」
視線。
朔真を見る。
「……Case-07?」
空気が変わる。
「生きてたのか」
次の瞬間。
銃口が向く。
朔真は反射的に動いた。
発砲。
壁が砕ける。
朔真は滑り込むように距離を詰めた。
素手。
武器なし。
だが。
速い。
異常なほど。
兵士が驚く。
「っ!?」
朔真は最前列の兵士へ体当たりした。
人工神経強化された身体。
普通の少年じゃない。
兵士が吹き飛ぶ。
銃を奪う。
発砲。
近距離。
もう一人の脚を撃ち抜く。
「化け物かよ!」
だが。
次の瞬間。
重い足音。
シェル。
企業軍用第三世代。
黒装甲。
通路へ入ってくる。
狭い地下通路なのに、
圧迫感が異常だった。
「下がれ」
低い声。
企業兵達が後退する。
シェル兵が前へ出る。
朔真は息を呑んだ。
今の自分は生身だ。
ムラクモはない。
神経接続も不完全。
勝てる相手じゃない。
でも。
澪を連れて行かれる。
それだけは嫌だった。
理由は分からない。
思い出せない。
なのに。
胸が痛い。
「返せ」
シェル兵は答えない。
腕部マウント展開。
高周波ブレード。
振動音。
朔真は駆けた。
真正面。
シェル兵が振る。
速い。
だが朔真は半歩だけずれた。
刃が頬を掠める。
血。
朔真は懐へ飛び込んだ。
肘打ち。
関節狙い。
金属音。
シェル兵が僅かによろめく。
「何!?」
企業兵達が驚く。
生身で、
シェルへ近接戦を仕掛けている。
しかも反応速度が異常。
朔真は落ちていた対装甲ナイフを掴む。
突き刺す。
膝関節。
火花。
シェル兵が体勢を崩す。
「ぐッ……!」
朔真はさらに踏み込む。
速い。
だが。
限界だった。
神経負荷。
視界が歪む。
次の瞬間。
シェル兵の拳が腹へめり込んだ。
「――ぁ」
衝撃。
身体が浮く。
壁へ叩きつけられる。
肋骨が折れる音。
呼吸が止まる。
立てない。
血が口から溢れる。
シェル兵が近づく。
だが止めたのは別の声だった。
「殺すな」
白衣姿の女。
橘ではない。
澪の調整主任。
生体研究者。
彼女は静かに澪を見下ろしている。
「Case-09の維持には私が必要よ」
企業兵が頷く。
「輸送開始だ」
朔真は必死に顔を上げた。
澪が運ばれていく。
眠ったまま。
何も知らず。
その横顔を見た瞬間。
胸が締め付けられた。
苦しい。
嫌だ。
行くな。
なのに。
思い出せない。
なぜこんなに苦しいのか。
彼女が誰なのか。
分からない。
「……待て」
声が出ない。
血だけが溢れる。
ストレッチャーが遠ざかる。
澪の指先が、
僅かに揺れた気がした。
それだけだった。
搬送路の奥へ、
彼女は消えていく。
朔真は床へ倒れたまま、
その背中を見続けた。
胸が痛かった。
記憶はない。
でも。
何か大切なものを、
また失った気がした。




